防波堤の中で その3

がらんどうのコンクリート建造物を何棟制覇できるかというのは
子供心にとても魅力的な冒険心をくすぐる物でした。

造成地のあちこちからロープや梯子などを見つけてきては
障害を乗り越えて侵入します。

『19号棟の屋上から海が見えた』
『23号棟から中学校が見えた』
『25号棟の屋上への階段が駄目だった』
『4階からベランダで上に上がれた』


まだ建設作業は続いていて
遠くでは同じように建物の骨組みが次々と作られているときでした。
そして出来上がった建物には子供達が冒険したくて集まります。

重機の音を耳にしながら
工事現場の人の目を盗んで進入したコンクリートの建物。
階段を上り、海が見えるまで上った場所。


コンクリートの壁と床と天井を作って
ドアや鉄物はまだ付けられないままで
次々と山の上に出来上がっていく集合住宅の骨組み。


今から人が住む場所を造るというのに
建設途中の場所は人を失ったように荒涼としていました。
そして言いようのない焦燥感と恐怖心が時折、襲ってくる事を知っていても
自分は良くそこへ一人で行きました。

遠い音と風の音。高く響く雲雀の声。
視界に誰もいない山の上の広大な造成地。


内装も何も無い、コンクリートとわずかな鉄の残骸しか残らない廃墟で
フラッシュバックする子供の頃の記憶。

この場所では予想をはるかに上回る記憶の洪水が頭に押し寄せました。

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