湯田ダム 見学 その3


一通り見ておかねばと駆け足で周囲を回っていると…


貯砂ダムを設計された偉い先生が御自身の作品と一緒に
記念ダムカードフレーム写真撮影中でした。


ライトアップに“後ろ見の滝”と観光スポットになった湯田貯砂ダムですが
堆砂対策以外にも建設の目的がありました。

貯水池が大きく長く水位差が大きいので洪水期に水位を下げていると
湖岸にブタクサがたくさん生えたのです。
ブタクサは花粉が喘息を引き起こす例としては1970年代から問題になっていた植物です。
外来種。

また、バックウォーター付近にある温泉街からの排湯等で水質が悪化していました。
水質の悪化とともにバックウォーター付近では湖岸が荒廃していたのです。

それらを解決するべく、貯砂ダムを造る事で堆砂を抑制しつつ
広い水辺・貯水池を上流部に創りだして景観を大きく改善しました。

これが湯田貯砂ダムの果たした大きな役割なのです。
素敵♪

◆ ◆

湯田貯砂ダムから移動してきました。

スノーシェッドのわずかな隙間の入口からいきなりダムサイトに入って
目の前に現れたのは


湯田〜♪

やった。
この瞬間
国内の重力式アーチ、コンプリート。

大鳥ダム
二瀬ダム
石徹白ダム
鷲ダム
高山ダム
七色ダム
新成羽川ダム
阿武川ダム
芋洗谷ダム

福井県様がつくって現在北陸電力様が管理している小原ダムは
図面を確認したら堤敷が長く曲線重力式と判定されましたので
現在国内で確認されている重力式アーチダムは10基。

バットレス、中空重力式に続いてレア型式、コンプ。


しかしすごいダムサイト。
スノーシェッドから入ってくるとか知らなかったら行き過ぎる。
トンネルの中からダムサイトに入る秋葉ダムや裾花ダムと同じですね。
今の基準だったらたぶんこういうアクセス方法は認可してもらえないと思います。

きっちり隙間なく谷にダムが収まっているわけで
ダムの立地として優秀という事ですが。


喜んではしゃいでいる時間はない。
ダム仲間から絶賛以外の言葉を聞いた事がない
桁違いの人気の湯田ダム。
見どころ多過ぎるからとにかく必死で写真撮る。


なかなか来ることができない場所なんですから
見える範囲で隅々までしっかり写真撮って置かねば。
あ、やっぱり水位低め。


壁を立てるのではなく掘り込んだような形に見える減勢工
減勢工の端にはシルも見えます。


クレストのラジアルゲートの巻揚機。
その横に斜めになった扉付きでカッコいいカバーされた部分があるんですが
よくよく見たら梯子が格納されていました。

え・・
ドア開けて後ろ向きで
その梯子降りるのだと考えると
かなりスペース的に厳しいなっ。


常用洪水吐の水流はこの堀り込みのように見える減勢工にまっすぐ
放流されますが、クレストの非常用洪水吐は右岸側にぐっと寄せられているので
スキージャンプの放流水はこの減勢地にうまく落ちるよう端が斜めになっていて
前に飛ばす様に工夫されています。


IHI御謹製で昭和39年作成のテンターゲートになります。


数年前までは考えられなかったことですが
萩原雅紀様をはじめとするダムファンの熱意が伝わって湯田ダムでは
融雪で水位が上がる春先にこのクレストゲートからの放流を
イベントとして立ち上げてくださるようになりました。

地元のお宿に宿泊するとクレストゲートのほぼ真下まで
行くことができるようにしてくださって
ダムというインフラが地元の観光産業にきっちり貢献してくれる事例が
またひとつ増えたので愛好家としてはとてもとても嬉しいです。

でも管理所の方は大変だと思います。


そしてここ。
湯田ダムに会いにきたらしっかり見たいと思っていたのがここです。

右岸側の段々になった部分からすぐ下流のモルタル吹きつけ部分まで。


ここは工事中に大陥没が起きた場所なのです。
湯田ダム工事誌
第4編 ダム本体工事
第六章 陥没処理工事

第一節 概要
ダム計画当初、ダムサイトの地形地質は全体的に見て良好で、アーチダムに適すると
の判断のもとに施工を進めていたのであったが、地質構造作用による断層帯が、多数発達
しており、局部的置替処理をかなり大規模に行いながら本体工事を進めていたのである。

而るに、昭和36年春にたまたまダムアバット右岸に大規模な陥没災害が発生し、これが
ダム工事の全体計画の変更をも余儀なくされる結果となってしまったのである。(以下略)

第二節 陥没の状況と応急対策
湯田ダムはアーチ重力式ダムであるが、右岸アバットは地質不良のため一部重力アバッ
ト(スラストブロック)で受けており、その重力アバットの大きさは高さ40m長さ54mで
底面積が1500m2程度であったが陥没災害はこの計画基礎面に発生したものである。
(中略)

  …当時EL193m監査廊より深さ20mの扇型グラウトをGH断層間のコンソリデーションとし
て施工して居り、バイパスのアーチ部が一部陥没したのを察知したが、其の後異常なく4
月22日夜半に至り、作業員の足下が突然陥没し、地中に於て30m下のバイパスの流水が望
見出来た。

怖いぃぃぃ!!

陥没部には速やかに対策が検討され
下半分にはセメントミルクを注入し
上半分にはコンクリート充填が実施されました。

北上川ダム統合管理事務所で模型を見て大騒ぎしていた
この部分が陥没してしまったところ。
この大空間をきっちり固めて安定させているわけです。

デビダーク工法による岩盤補強工事と工事誌に記載があった部分です。

今、イベントの時に観覧席として開放されている右岸の段々は
岩盤締めつけ、岩盤補強工事のために施されたもので
お洒落で造ったものではないのです。
すごくお洒落なんですけど。

降りていく階段や通路も陥没部や右岸の地盤を観測する機器の設置と
点検のために整備されたものであるという事でした。