T1318 その4

塔の島地区の浸水状況を見てきたので
次に今回の台風時の
瀬田川洗堰と天ケ瀬ダムの操作について
ハイドログラフや暫定値ですが水文水質データベースから
素人なりに解読をしてみます。

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国土交通省 近畿地方整備局 淀川ダム統合管理事務所
水資源機構 関西支社
「台風18号豪雨における淀川水系ダム群の治水効果について」


管理開始から初めて実洪水時にクレスト非常用洪水吐ゲートを約4時間50分開けた天ケ瀬ダム。
その放流量について詳しく見てみたいと思います。

9月15日


23:30までは関西電力天ケ瀬発電所が頑張っています。
流入量に合わせてほぼ最大の180.0t/sまで発電放流で吐いてくれています。

23:30 コンジット常用洪水吐ゲートから放流を開始します。

9月16日


0:30 コンジットゲート放流 860t/sに到達 その後、横引きで一定量放流になっています。
天ケ瀬ダムのコンジットゲートは最大840t/sではないかと
天ケ瀬ダムファンの方なら気づくと思います。
この時は『最大毎秒約860m3』という書き方になっています

理由はダム湖貯水位です。
宇治市街を守るため通常よりも高い水位まで
コンジットゲート放流だけで貯め込んでいた為に840t/sを少し超過しているのです。

ゲートレスのオリフィスゲートでも同じですが
貯水位が高くなればなるほど水圧は上がり
同じ口径でも出る量は増えます。

もちろん、ダム設計時にどの水位でどれだけの水が出るかは表として作成されており
それを元に、水位とゲート開度で放流量を計算できるようになっています。
この時の水位から約860t/sという数字がでています。
5:00〜6:00に流域平均雨量が30mm/hを超過
ダム湖貯水位が更に上昇。

この時、瀬田川洗堰は全閉操作(9月16日 2:40〜13:30全閉)に移行していました。
流入はほぼ、大戸川、信楽方面からの物であったという事が言えます。

T6524で1528t/sの流入(既往最大流入量)でも開けなかったクレストゲート。
T8210でもコンジットゲート840t/s放流だけで耐えた宇治川の守護

その天ケ瀬が今回の台風でついに但し書き操作(異常洪水時防災操作)を決断したのです。
5:30 異常洪水時防災操作 非常用洪水吐からの放流通知 

管理開始から実洪水時に初めてのサイレン吹鳴が行われました。
この時のダム湖への流入量は1300t/s超。
水位はEL78.20mに達しています。

天ケ瀬ダムは瀬田川洗堰と連携しているのでとにかくゲート操作の頻度が高いです。
そして市街地に非常に近いし、平等院などの世界遺産には
サイレンの意味が分からない諸外国からの観光客もたくさんお越しになるという事で
洪水吐ゲートを開ける時はサイレンではなく音声ガイドを放送することに
地元宇治市と話し合いで決められているのだそうです。

しかし今回は非常用洪水吐を開けるという事で
初めてのサイレン吹鳴が行われました。

6:30 クレスト非常用洪水吐ゲートから放流が開始されます。

ダム湖貯水位はこの時、クレストゲート上端のEL78.783mのわずか50cm下。
そしてこれほどの緊急を要する貯水位であるにも関わらず
クレストゲートの放流の立ち上がりはコンジットゲートからの放流よりゆっくりなだらかです。
非常に慎重に下流水位を見ながら放流量を増加させていったことがここからも読み取れます。

11:20 クレストゲートからの放流が終了しコンジットゲートのみの放流へ切り替えられました。

台風が行き過ぎて降雨が治まり急激な水位上昇も止まりました。
◆ ◆

「非常用洪水吐を開ける」と聞くと「下流の洪水も覚悟しての最後の手段」
と、連想してしまう方もいらっしゃるかもしれません。
しかしこの時、天ケ瀬ダムに異常洪水時防災操作への移行を指示した
淀川ダム統合管理事務所には下流を守りきれるという自信があったのではないかと思っています。


天ケ瀬ダム直下の槇尾山水位観測所のデータです。
青字なので速報値で確定値ではありませんがこれが参考になると思われます。

こちらも青線なので暫定値です。
今回の異常洪水時防災操作でクレストゲートを開いている時間と
槇尾山水位観測所のピークはほぼ一致しています。

暫定値とはいえ既往最大の水位を超えています。
何故、下流の塔の島をはじめ、宇治川沿川は無事で被害が出なかったのでしょうか。

それが昨年のお盆豪雨の災害後から始められていた防災整備の効果です。

国交省による宇治川の改修工事で締切堤を除却して
疎通性をあげていた塔の島の整備があったからこそ
塔の島地区で浸水被害が出なかったのでしょう。

災害に対する整備はその効果を災害時にしか見る事が出来ないので
平時にはなんでこんな工事を
なんでこんな景観を破壊することを
桜を伐採するなんてとんでもないと
工事に難癖をつける人がいて
報道もそういう声だけは拾うのが得意らしくて
関西ではTVのニュースで塔の島の工事について
批判的な報道がありました。
その報道をした放送局にこそ
この整備効果を学んで今回、何故
槇尾山地点で既往最大水位を超えているのに
天ケ瀬ダムが管理開始から初のクレストゲートを開けた程の出水だったというのに
塔の島界隈と宇治川沿川が無事だったのか知ってほしいと思うのですが
そういう時は目を背けるのが報道のスタンスらしいので期待するだけ無駄のようです。
近年は視聴者の方がずっと勉強しているし
リアルタイムデータからダムの仕事を見抜くスキルもお持ちの方が増えているし
報道に惑わされるのはTVと新聞しか情報源の無い世代ばかりなんでしょうね。
でもそういう人って人口比率からいえば多いわけで
やっぱり地味に地味にダムのお仕事はいつか伝わると信じて発信していくしかないのかと感じます。