乙原ダム 見学 その4

今回、乙原ダムをぜひ見学したい♪と希望した理由。

それは5月上旬に京都で開催された排砂バイパスに関する国際ワークショップで
神戸市水道局の松下様が発表されたスライドに使われていた図が理由でした。


神戸市水道排砂バイパス3兄弟の長男と次男。
堤体では布引五本松が長男だけど
バイパストンネルでは烏原・立ヶ畑ダムの方が長男。
バイパストンネルの三男は天皇の池になります。

スライドで黄緑の矢印で示されているのがバイパスになります。
紹介されている三つの図は右から
烏原・立ヶ畑ダム、布引五本松ダム、そして一番左が
バルトンが記した著書で紹介されている図なのです。

この図を見た直後にダムマイスター仲間の清水様の
乙原ダムレポートをじっくり読む機会があり、そこで気付きました。

この図にそっくりな配置
貯水池と堤体の横を走る水路
バルトンの図ではアースダムっぽいけど
これがメイソンリーフェイシングになったら
乙原ダムだよ!!


近代水道に関する資料を探しに奈良県図書情報館に行ったところ
なんと!!
バルトンの「都市への給水」の新訳本があったのです。
大喜びで読んでいたらバイパスの図が出てきました!!

この図のアースダムの堤体を重力式に変えたらまんま乙原ダムっ!!



見学時に朝見浄水場様が保有されている貴重な文献を見せて頂きました。
別府町水道要誌です。


この文献に乙原ダムについての詳しい記載があります。


元文は漢字とカタカナで縦書きなのでひらがなと漢字に書き起こしてみました。

まず読み進めておおっ!!となったのがここ。
『ウェグマン式石工堰堤』

石工堰堤だからまんま、メイソンリーダム♪

ウェグマン式の特徴が判らないのでそのまま、専門家の方にメールしてお聞きしたら
その特徴が何を指すのかはわからないけれどウェグマンは米国の大変有名なエンジニアで
当時最先端のダム技術の文献を執筆された方なので、それを示しているのではないかと
教えて頂くことができました。
ううー。
ウェグマン式メイソンリーフェイシングダム。
気になるっ。

◆ ◆


“半径三百尺拱作用曲堰”という記載があります。
アーチを表す『拱』の文字。
平面で見ると乙原ダムは天端が曲線を描いています。
しかし、今の基準でいう重力式アーチではなく曲線重力式であると考えられます。

この時代に造られた天端が曲線の重力式ダムについては
「アーチ作用に期待して」とか「堤体積を減らすことができる」という意味合いが強く
3次元計算していないので薄肉/厚肉に関わらずアーチダムとは名乗れません。

文献にあるとおり曲堰というのがしっくりきます。

◆ ◆


そしてとっても重要な排砂バイパスについての記載部分です。


こちらが分水路の上流端です。
設けられた小さな堰。
角落としの板をはめ込むスリットもありますね。
上流からの水が少なく貯水池に導水できない時に
このスリットに板を落とせば貯水池に導水できます。


貯水池上流端に設けられたこの部分がとても重要な“砂除堰”です。
L字型になっていて貯水池の端っこをしっかりガード。
土砂の流入がないように守っているのです。


そして土砂の流入はカットしつつ必要なお水はちゃんとバルブ経由で
貯水池に導水しています。


砂除堰の詳細説明(ここも原文は漢字とカタカナなのでひらがなに書き起こし)。


これが“直径12インチの制水弁”に該当するバルブですね。
おおよそ直径30cmということになりますね。

この部分はコンクリートも新しいし形状が水道要誌の記載と異なるので
多分、昭和60年の改修工事で補修されているかと思われます。