猫又堰堤 見学 その3


右岸から黒部川第二発電所のある左岸に向かいます。


当日は小雨パラパラの天気だったのであまり綺麗に撮れませんでしたが
出水のない時の黒部川の水はこんなにも透明で美しいのです。
ところどころに顔を出しているコンクリートの遺構は何なのかな?
川底のコンクリートも何なのか今一つわかりません。

「川底のこれはなんでしょうか?」
「このコンクリートは、新柳河原発電所への水路の天井です」
「新柳河原発電所に送る水の水路が川の中・・・って
平7災害で水路も埋まったとか…?」
「ここには今は土砂に埋まっていますが猫又堰堤があり
取水した水を柳河原発電所(現 新柳河原発電所)に送るための取水施設がありました」
「はい」
「猫又堰堤には、昔から黒部川第二発電所で使用した水を河川へ放流せずに
直接、柳河原発電所へ流すための逆サイフォン式の水路が堰堤の下を横断して
取水施設と繋がっていたのです」

「下流に出し平ダムが出来たため、ゲート等の機器を撤去し、
猫又堰堤、逆サイフォン式水路と取水設備を改造した水路は河床に埋っています」
「え、昔からって事は猫又堰堤が現役の頃からですか
なんでそんな大変な事を…
普通に発電した後のお水は川に流して
また堰堤の横から取水したらいいんじゃないかと思うんですけど
わざわざ川に放流しない理由は…」
「この逆サイフォン式の水路は何のために設けられているかというと、
発電所の水は、上流のダム湖から直接日差しに温められることなく
水車を回して流れ下りますので、どうしても水温が低いのです。
日差しを受けて温められた下流域の川の水とは大きな温度差が生じます」
「!! 水温が理由だったのですか」
「下流の農作物への影響を避けるために、猫又堰堤で暖かい河川の水と
黒部川第二発電所で使用した冷たい水を分けるために設けられたものです。
この発電所を通った水は最下流の県営愛本合口堰堤下流で黒部川に放流され
農業用水に入らないように工夫されていたそうです」

「出し平ダムや宇奈月ダムが出来てダム湖の水が日差しで暖められることから
設置当初の目的で使用されることはなくなりましたが
今でもこの逆サイフォン式の水路は、猫又地区の河床上昇で
黒部川第二発電所が直接川に放流できない時などに使われています」

川底に見えていたコンクリートの構造物は遺構じゃなくて現役の設備だったのです。


これは出し平ダムの工事誌にあった図を元にカラーでちょっと描き足したものです。
猫又堰堤(ダム)のところで発電所からのお水が
黒部川のお水に混ざらないで次の柳河原発電所まで届いているのが分かります。

来る途中に教えて頂いた新黒二の放水口は付け替えでこの位置に。
逆サイフォンは猫又ダムの堰堤の下なのでこの位置になります。

新黒二は黒部ダムの表面取水設備から温かいお水を取っているので
黒部川本川に放流しても大丈夫。
そして今では出し平ダムと宇奈月ダムがありますから
お水が冷たいまま下流に到達することはなくなっているんですね。

関西電力様の特別講演会で見せて頂いた竣工当時の猫又堰堤の写真です。
竣工当初はこんなにスレンダーで折り返す魚道も美し〜い。
この時はまだ天端橋梁は乗っかっていません。


しかし黒部ダム建設に伴い下流に冷水害対策をという声に応え
黒部ダムと同じ昭和38年に逆サイフォンを増設し
堤体の改修も行われてこの姿になっていたとのこと。
凄い凄い!!
逆サイフォンで川を横断させていたから
その上に土砂が堆積しても発電所のお水を送りだすことができるんだ。

先見の明?
備えあれば憂い無し?

いや、純粋に扇状地に広がる水田の為の心づかい
流域の皆様への心づかい

感動したっ!!
凄く感動したっ!!

愛本堰堤のすぐ下流にある黒東合口用水右岸沈砂池です。


愛本堰堤から取水され水田に送られるお水は
稲の生育に影響を及ぼさないように
お陽様に当たった暖かいお水なんですね。


川の上から見る猫又駅ちょっと下流。
頑張って働く重機の音が響いていました。

災害直後はこの視界を一面の土砂が覆っていたわけで
これだけの土砂を取り除くのにどれだけの月日を要したのだろうと
見ていて胸が痛くなる。