黒川第一発電所総合更新工事現場 見学 その2


水力発電に必要な設備の配置がわかりやすいイラストです。

ダム・取水堰
取水口
導水路トンネル
(距離によっては開水路部もあり)
沈砂池
上部水槽(ヘッドタンク)
水圧鉄管
発電所
水車
放水路・放水庭

発電所から変電所・変圧器を経由して電気を使用者にお届け。


黒川第一発電所は明治24年(1891年)に熊本電灯株式会社が計画し
大正3年(1914年)に運開しました。当時の出力は6000kWでした。

その後、管理する会社は熊本電灯、熊本電気、九州電気
九州配電、日本発送電と変わり、昭和26年からは九州電力様が管理されています。

発電所の出力も水車や発電機の更新で、どんどんパワーアップします。
大正8年(1919年)には運転開始当初の6000kW(1500kW×4)に4500kW×2を増設して15000kWに。
昭和28年(1953年)には15000kW×1と5000kW×2で25000kWに。
(※4500kWの発電機は5000kW発電可能なものを4500kWで使用していたためこの時の更新は古い方のみ)
昭和60(1985年)には15000kW×1と27200kW×1で42200kWになっていました。

水力発電に適した素晴らしい立地であったからできたパワーアップです。

しかし平成28年(2016年)4月、熊本地震の本震で
黒川第一発電所の上部水槽の下の山で土砂崩れが発生します。

水槽のあった山の斜面が滑ったことで上部水槽の擁壁が崩壊し
水槽と導水路にあった水が土砂崩れとともに斜面を流れ下りました。


被災後の上部水槽の写真です。

当時、事象を逆にして黒川第一発電所の上部水槽が崩れたから
土砂崩れが発生したという流言飛語が飛び交いました。

現地調査に入った土木学会の調査団によってそれは否定されています。
土砂崩れ>>上部水槽擁壁崩壊>>管路の水流出です。

そもそも熊本地震は震度7の余震の後に震度7の本震が来たというとんでもない地震で
最初の地震の後に黒川第一発電所は総点検をしているのです。
地震の時に点検をするのはダムだけではありません。

この時に、設備に大きな損傷がないことを確認しています。

一回目の震度7の地震の後に今回の見学でもお世話になっている
九州電力の中の人からメールをいただいていました。

その時のメールを読み返すと

九州電力様は管内に144箇所の大小水力発電所を保有しておられるのですが
93箇所が震度4以上に見舞われたという、過去に経験したことのない状況でした。

震度7に始まり、余震の3回が震度5弱以上で、
4時間のうちに大揺れの地震が4回という凄まじい地震だったのです。

しかしこのメールを頂いた12時間後に本震がやってきました。

黒川第一発電所の上部水槽はこの時に崩落したのです。

発災前と発災後の状況は
黒川第一発電所の復旧可能性に関する評価委員会報告書 2019/10
で、ご覧ください。

発電所側としてこれに対して今後、対策せねばならないのは
こういった大規模地震があった後、管路内の水を抜くという操作が必要という事でした。

最高の場所にあった黒川第一発電所ですが
存続するために、さらに安全度の高い場所、地滑りが起きない程度の勾配で
今回の地震でも被害が少なかった、上部水槽より取水堰側の赤瀬沈砂池を
上部水槽として作り直すことになりました。

この上部水槽と取水堰の取入口には
地震の信号を受信すると自動で閉門し
同時に水を川の方へ流すことができるルートで
管路内の水を抜くことができる仕組が備えられることになっています。

水圧管路も耐震対策をして新たに作り直し
既設の水圧鉄管の場所までトンネルを新たに掘っていきます。

水圧鉄管は一本を除却してまとめ
発電所建屋は今の半分くらいの大きさにコンパクトになります。

最大出力は29900kWに落ちますが発電電力量は200百万kWhで
今までの206百万kWhとほとんど変わらないという設計です。


新しく生まれ変わる黒川第一発電所について勉強した後はお昼ごはん♪
地元のむかごと栗を使ったご飯がおいしかった。
おなかぽんぽん。


元・赤瀬沈砂池の工事現場に移動してきました。
ここに新設されるのが上部水槽になります。


令和9年3月までかかる予定。

もうすぐ始まる働き方改革とかで効率的に動かせる現場が減るのは
なんとも言い難い違和感を感じることしきりです。

24時間、動いている現場では
ローテーション組んできちんと休日ももらえて
決まった時間に交代して(これが少し困難)帰ることができる
というのは全くもって合理的であると思うので。

無理に土曜日日曜日に完全に働いている人がいない現場にしろとか
意味が分からないしICT施工や遠隔制御はそのために開発されたものじゃなくて
人が行くのが危険な現場や人が判断しなくてもできる現場用に創られたはずなのに。

工期が伸びることが一番の経費圧迫になること偉い人はわかって言っているのかな。
企業にそんなに負担を強いたいのかな。
そのくせ大阪万博は別扱いとかダブルスタンダードはやめてほしい。


ヘルメットに反射材装着して現場に向かいます。
わくわく。


この工事現場の説明を頂きます。


完成予想図です。

ここにあった赤瀬沈砂池には歴史の古い発電所にありがちですが
灌漑用水路が併設されています。

この灌漑用水路は沈砂池が上部水槽に生まれ変わってからも
勿論、現役で使われますのでそれは保持しながら工事が進みます。
緊急時の排水路も整備されます。


赤瀬沈砂池は元々、かなり大きな沈砂池だったようで
工事現場もかなりの広さでした。


ここは第1工区でした。


第1工区の大事なポイントの一つがこの大きな防音ハウスです。

新しくトンネルを掘るのでどうしても大きな工事音、発破の音などが発生します。
ブレーカー掘削も場所によってはありますがとにかく大きな音はトンネル工事現場には付き物。

赤瀬沈砂池地点は横に国道、そして付近に集落もあるので防音対策をしっかり行っているのです。


防音ハウスの中に入りました。
青いLEDライトの向こうはトンネルです。


トンネルを掘って水圧鉄管を通すわけですが
トンネルと水圧鉄管がほぼ同じというわけではなく
トンネルはかなり余裕を持った大きさで作られます。

また、地震があった時には折れてしまわないように
断層用鋼管が使われることになっています。


NATMで掘ったわねっ♪
その縞々はNATMねっ♪

壁から照射されている制限速度表示とか
一昔前の工事現場と全く違う空気にちょっと驚いてしまいました。