幌加ダム 見学 その2

2016年8月の北海道大雨激甚災害の元になった台風群ですが


2016年8月17日 T1607上陸
8月21日 T1611上陸
8月23日 T1609上陸
8月30日 T1610接近

わずか二週間で四つの台風の脅威にさらされました。


気象庁の発表ではこの期間に上士幌町三股では累加雨量が661.5mm
上士幌町ぬかびら温泉郷では858.0mmにも達しました。


ぬかびら温泉郷のハイエトグラフと累加雨量です。
上陸した三つの台風ではぴょこっと山ができていますが
上陸しなかったのに最大の被害を出した最後のT1610は
だらだらと降り続いた後に山が出来ているのがわかります。


こちらはでんぱつ様から見せて頂いた資料です。

四つの台風の雨を受けとめた糠平ダムのハイドログラフとハイエトグラフになります。

時間雨量で見ると最初に上陸したT1607が30mm/h超の雨を降らせており
貯水位がグッと上がりました。
発電放流でゆっくり下げていきたいのですが台風が続けてやってきます。

続いてやってきたT1611からT1609の間はずっとだらだら降っていて
水位が下がりにくい状況にありました。


見やすく拡大して見てみます。

T1607は最大流入量550m3/sですが最大流入時放流量は83m3/sです。
一類のダムとしてのお役目完遂。
洪水時にはまず貯留するのが一類のダムです。

しかし、この後、立て続けに台風が来るという事で全く安心できない状況でした。

続いてやってきたT1611は最大流入量387m3/sですが貯水位が上がっていますので
最大流入時放流量は227m3/sです。
これでもがっちりピークカットを決めているところが大事。

そして流入量に合わせて放流して貯水位の上昇を抑制しつつ
次のT1609に備えます。

T1609では最大流入量410m3/sですが最大流入時放流量は142m3/s。
かなり厳しい状況にもかかわらず見事なピークカットです。
しかし貯水位はどんどん上がって予備放流水位に到達しました。

常時満水位まで0.25m、サーチャージ水位まで0.65mです。

立て続けに上陸してきた台風で空き容量をフル活用して治水協力をしてきた糠平ダム。

しかし、この後に、予測できないとんでもない迷走の末、めちゃくちゃ勢力を上げてきた
T1610が北上してきたのです。


放流師の方は十勝川、本川水位が非常に高い時に
糠平ダムのある音更川の水位がとんでもなく上がるバックウォーター現象を
幼少期に実際に目にして良くご存じでした。

東からどんどんやってくる雨域
西にそびえる日高山脈
絶対にとんでもない雨が十勝川本川水位を上げることが予想されていました。

発電専用ダムですが
ダムとして流域の人の暮らしを守るために
ここで貯水位を下げて容量を空ける決断をします。

しかし、令和の時代になってからの感覚なら違和感もないかもしれませんが
このころは、発電専用の一類のダムが洪水調節をすることは出来ませんでした。
やっていることは洪水調節、防災操作と同じでも、呼び名としては治水協力になります。

今でも、発電専用の一類のダムができるのは治水協力だけです。
法律の問題なので。

一類のダムは巨大な貯水池を有しており、洪水時にはまず貯留
そしてそれぞれのダムに決められた遅らせ操作時間(概ね30分程度)を守って間を開け
流入量と同じ量を放流し、流入量が下がり始めたらそれ以上は放流せずに
ピークをカットして流入量と放流を同じにする操作を行います。


上士幌電力所の放流師の方の決断。

この台風はとんでもない雨を持ってくる

容量を空けて備えなくては

T1609の雨が降りやんだ後、8月26日15:00からT1610が来る前に水位低下を開始しました。

糠平ダムの操作規程では、洪水警戒時には予備放流水位(29.75m)より水位低下出来ない事になっていました。
しかし、容量を空けなくてはと考えた放流師の方は
国土交通省 北海道開発局 帯広開発建設部に連絡を取り協議を始めます。

このままでは糠平ダムからの放流がとんでもない量になる
流域への被害軽減のために今のうちに放流して容量を開けておきたいのだという点について
前例のない事だったので理解してもらうため、激論を交わしたそうです。

何故ここまでして放流師の方が治水協力をしなくてはならないと腹をくくったのか。
それは放流師の方が2011年の紀伊半島大水害時の記録を見て
ダム操作規程通りにやることは大切だが、これからの時代はダム設置者の責任はとても重大で
ダムで最大限、流域のためにできることを考えなくてはならないと認識しておられたからです。

2011年(平成23年)9月の紀伊半島大水害(T1112)により熊野川流域に甚大な被害が発生しました。
総雨量は1700mmにも達し、熊野川水位は20mも上昇し、広範囲にすさまじい被害が出ました。

この時、でんぱつ様の池原ダムは、ダム操作規程に則ったダム操作を実施していました。
法律に反することは一切していません。
にもかかわらず下流域の人から“ダムで最大限のことを実施したのか”とダム操作が批判されたのです。

北海道開発局 帯広開発建設部には、具体的に、音更川の河川整備の現状を鑑み
社会的責任の見地から、ダム下流域で甚大な洪水被害が発生してから
現行の糠平ダム操作規程を変更するのではダム設置者として耐え難いと
繰り返し、繰り返し説明し、洪水被害軽減に向けて、ダム水位を低下させ
糠平ダムでの空き容量を最大限活用することがもっとも効果的であると説明されたそうです。

また、糠平ダム下流の音更川狭窄部では放流量が800m3/sを越えると
冠水するであろうことも分かっていました。

災害時に道路が寸断される事はきわめて大きな問題です。
すでに、北海道各地で被害が報告されていました。

説得の末、糠平の貯水位低下の許可が出ました。

洪水警戒時から予備警戒時へ変更されたタイミングで
ダム水位29.72mから目標ダム水位28.00mまで発電放流とゲート放流を駆使して
貯水位を安全に下げていきます。

空き容量を確保した後にT1610の雨がやって来る前に
2.0m近く貯水位を下げて容量を確保したのです。

総貯水容量2億m3近い糠平ダムで、クレストゲート付近の標高で2.0mというのは
凄い容量です。
約1400万m3にもなるのです。

そして、予想通り、T1610はとんでもない雨を降らせました。

最大流入量1360m3/s

そして糠平ダムは最大放流量を801m3/sに抑え込みました。

人のために生まれたダムとして
ダムにできる最高の操作を追求した結果でした。


この時の操作が評価され平成29年度からは
糠平ダムも事前放流で洪水に備えることになりました。

池原ダム&風屋ダム
奥只見ダム&田子倉ダム

でんぱつ様のダムの治水協力は超強力。
絶大な治水効果。
だからと言って発電ダムに無茶な水位低下を要求するのは筋違い。

クリーンな国産エネルギー、水力発電の電気を作るために生まれたダムなのですから。


水位低下判断基準がこちらです。
降水量日本一の紀伊半島なら解かりますが
北海道でも基準ができたという事が軽いショックではありました。

でも帯広をはじめ、下流域の皆様はこの操作基準を見て
とても心強く感じておられるのではないでしょうか。


糠平ダムの活躍を勉強してから幌加ダムに向かっています。
道中、見えていた糠平発電所。


糠平ダムもチラ見。


どんどん山に向かって入っていきます。
国立公園内。
未舗装路になってきました。


フラットダートを進んで幌加ダムに到着です。