羽地ダム 見学 その2
管理所に入って一息つきました。
玄関に置いてあった定礎石。
ただの定礎の文字だけではなく
『順流眞秘』という文字が。
横の解説文をみると
順流眞秘
「順流眞秘」とは、琉球王朝時代の五賢人
の一人である蔡温が、近世の土木工事で
あった羽地大川の改修にあたり実践した
思想を表すことばであり、順流とは古来中
国で理想とされる河川形態。
眞秘とは科学を表し。今様にいえば「河川
工学」と訳せるものです
と、書かれていました。
いきなりこんなカッコいいお出迎えですか。
羽地ダム。
というのは
羽地ダムは国内でも珍しいダムの最新技術の宝庫なのです。
羽地ダムに来たらやっぱりこの最新技術は是非見学させてもらわねばと
今回のダムめぐりで唯一、管理所に見学のお願いを申し込んでいたのでした。
見学案内はなんと支所長様がしてくださる事に!
まずは管理所1階部分に作られている羽地ダム資料館で
ダムの概要を学びます。
羽地ダム資料館は
木 やんばるの自然
火 羽地の歴史
土 羽地の生活・文化
金 羽地ダムの技術
水 沖縄の水文化
というテーマで構成されています。
木 やんばるの自然 のコーナーでは沖縄に住む生物がジオラマに飾られています
動物が可愛くてこのコーナーの写真を見事に撮り忘れました。
撮っていたのはこのオキナワコキクガシラコウモリだけ。
ちっこくて可愛らしいんです。
「羽地ダム建設の際に作った調査用の横抗にこのオキナワコキクガシラコウモリが
たくさん住みついていることが確認されまして・・このコウモリは名護市の天然記念物なんです。
堤体盛立の時にその調査用横抗の代替洞窟として“コウモリBOX”という物を造りました」
「コウモリボックス?コウモリのおうちですか?」
「はい。コウモリが止まりやすい天井とか湧水が流れるようにしたり工夫しています」
と、ここで頭に浮かんでいたのが下久保ダムの監査廊でした。
ぷぷぷ。
火 羽地の歴史 のコーナーでは羽地の治水事業に取り組んだ偉人の紹介と地域の紹介しています
羽地ダムのある羽地大川は琉球王朝時代から
治水対策を望まれていた暴れ川でした。
写真中央少し上に写っているのが蔡温(さいおん)翁の絵です。
この地で治水事業を進めたことについて詳しい説明があります。
蔡温翁が治水事業で大切にしたのが定礎石にも書いてあった“順流眞秘”。
「順流眞秘」の要点は、五行説でいう木・火・土・金・水の相性・相克を論拠に
川の形や地形を読み、改修計画をする
と、説明がありました。
ちなみに“順流眞秘”は“じゅんりゅうしんぴ”と読むそうです。
「この建物は5角形だったでしょう」
「はい。5角形でした」
「この五行説にちなんで5角形なんです(笑)」
「えーっ」
「取水塔の屋根も5角形なんですよ」
と、羽地ダムのこだわりを知る。
羽地ダムのある場所の立体地図。
現在の名護市内は見事に両側を山に挟まれています。
海からわずかの距離
山に降り注いだ雨はあっという間に流れ下ります。
急勾配で短い河川
河道整備がなされていない時代に一体どれだけ大暴れした川でしょう。
いまは羽地ダムがあるから安心して暮らせます♪
土 羽地の生活・文化 のコーナーではこの場所にあった羽地大川ムラの生活の様子を紹介しています
これは沢山のビール瓶。
ビールをたくさん消費していたという事ではなく
瓶を容器として大切に使っていた事を教えてくれる展示です。
村の生活用品がたくさん並べられている中、どうしても目が行ってしまったのは
戦火で溶けたこの瓶でした。
「羽地ダム建設の際の発掘調査で出てきた生活道具の展示です」
「水没するので移転したのですか?」
「いえ、この場所にあった村は、日本兵の隠れ家になるという事で
米軍によって殆どが焼き払われたのです。
そのためにお住まいだった方はやむなくこの地を離れて山を降りられまして
ダムを造る際にはもう人がいなかったのです」
「・・・そんな事があったんですか・・」
沖縄だからあった事
人家移転に伴う水没保障がないという事
それは人が棲んでいない僻地だという理由ではなく
人が居ない場所を米軍が作ったからだという事だったのです。
米軍は占領下でダム建設にも着手しました。
そしてそのダムの水を民間にも給水しました。
しかし絶対量は常に不足していました。
水不足の土地
米軍と隣り合わせの土地
フェンスの向こうのアメリカ
暮らす人々の為に求められた水源
沖縄にとってダムは沢山の人から望まれ続けていたものでした。
金 羽地ダム技術 のコーナーでは羽地ダムに使われている様々な最新技術の紹介をしています
いきなりカッコいい模型登場。
これが何かと言うと
ダム用空気エネルギーシステム( DAS:Dam Air‐energy System )の心臓部
リニアクランクレシプロ型コンプレッサーの模型。
「羽地ダムでは空気エネルギーを利用して様々な機器を動かしているんです」
「・・・?ダムってよく不特定用水とかで自家発電出来るから電気で動くものが多いですよね」
「水力発電ができる余裕のあるダムは沖縄には2基しかないんですよ」
「ええええええっ!」
「なので放流時のエネルギーを有効利用するために空気を使う開発を進めたんです」
貰ったパンフレットの説明によると
〈現状〉
・従来、ダム放流エネルギーは水力発電により利用される
・しかし、小放流量、低落差、流量が一定でない放流エネルギーは水力発電に利用されず
未利用のまま放流されていた
〈DASの着眼点〉
・ダム管理施設においては圧縮空気を利用できるものが多い
・高圧でない圧縮空気は基本的に安全無害であり遠方搬送も可能である
・放流エネルギーで空気を圧縮して利用
〈DASの効果〉
・圧縮空気製造・利用によるダム管理費及びダム工事費の縮減
・クリーンエネルギー化によるCO2排出削減
と、あります。
「いや〜、ダムというと自家水力発電というイメージがあるもので吃驚しました。
沖縄って・・・そんなにお水が少ないんですか・・というか、流量が不安定なんですか」
「平均年回転率という物がありまして」
「???」
「平均年回転率=年間総流入量/総貯水量 で計算するんですが」
「はい」
「それが羽地ダムの場合は1前後なんです。」
「・・・すいません。それは多いんですか少ないんですか」
「少ないんですよ。沖縄のダムの中でも羽地ダムは低くて1前後。
福地ダムや安波ダムで3〜6位です。本土のダムに比べると少ないみたいですね」
「そ、そうなんですか(汗)。すいません。
そういう発想でダム湖の水を見た事が無かったので概念が理解できませんでした」
「羽地ダムはなるべくダム湖の貯水容量が大きくなるように設計されたダムなんです」
「はい」
「それは安定した水源となるようにという目的のためなんですが、
貯水容量を大きくとっているために、集水面積に対して貯水容量が大きいのです。
そういう事から平均年回転率が低いんですよ」
一番驚いた説明がこれでした。
ダム湖一杯分の水がどれだけの期間で入れ替わるか
平均年回転率という新しい言葉を教えてもらいました。
ダムの水の入れ替わりが年に1回では少ないという・・・
そうか、そうなんだー
いやー
堆砂が進んで砂でいっぱいのダムもたくさん見てきたから
ダム湖の水が入れ替わるとかって発想、消えかかってたな〜
流れてきた分だけスルーするダム見てきたからな〜
ナチュラルな発想が頭から消えかけている自分にちょっと反省。
羽地ダムの自慢の取水塔。
エアロック式選択取水塔です。
最新技術なのです。
逆U字の管に空気を送り込んでゲートレスにしているという最新技術♪
空気を抜いた高さから選択取水できるという優れもの♪
水 沖縄の水文化 のコーナーでは沖縄の井戸(ガー)の歴史を紹介しています
万年渇水の沖縄。
そこに棲む人々の暮らしを支えていた水源についての説明です。
井戸にも色々あるようで
流水を持ってきて作るもの
浅く掘って作ったもの
深く掘って作ったもの
と、沖縄の土地ならではの井戸の姿があります。
掘り抜き井戸の一例です。
なんだか凄く素敵な井戸ですね。
掘り下げ井戸の一例です。
しかし沖縄という土地は美しい石積み文化圏ですね。
これは首里城に入って一番最初に目にとまった井戸でした。
有名な井戸だったんですね。
そんな沖縄の各地に点在する史跡級の井戸と並べて詳しく書かれているのが
現在の沖縄県の水管理システム網。
北部のダムが頑張ってお水を蓄えて南に送っていますね。
「沖縄県の人口の9割が沖縄本島に住んでいます」
「ふむふむ」
「そして沖縄本島の9割の人がこのあたり(那覇市周辺)に住んでいます」
「つまり那覇市周辺で人口の8割が棲んでいるって事ですか〜」
凄く偏ってますね(笑)。北部は本当に人が少ないようです。
凄くきれいなダムの歴史年表♪
ここで知っているダムの名前を探して大はしゃぎ♪
井川〜
佐久間〜
黒部〜
奥只見〜
そして楽しい展示物。
羽地かるた♪
このかるたの絵札と読み札は説明つきで天端に飾られているとの事です。