令和5年の三瀬谷ダム その2


唐突に場所は変わりますが
三瀬谷ダムから約10km下流にある粟生頭首工にやってきました。

粟生頭首工の歴史やお仕事の詳しい情報は
宮川用水のHPでご覧ください。


こちらが粟生頭首工です。
この日は宮川ダムから三瀬谷ダムと連続して放流されていたので
最下流のここでも放流していました。


こちらは全閉のフラップゲート。
デフレクターがぴーん!!


こちらは少し開いているフラップゲート。
デザインは同じなのでぴんぴんデフレクターが
どんな風に働くか見比べられてよい感じ。


現地の説明板のイラストです。

右岸から、魚道、固定堰、今半分開いているフラップゲートの洪水吐2門
ローラーゲートの土砂吐2門、名称は書いていないけれど魚道っぽい何か
一番左岸寄りに調節水路、という配置になっています。

左岸側に宮川用水の取水口があるのですが
ここに、“魚類迷入防止装置”が付いているそうです。

というと…
あれかな…
スピーカーで音を出して魚を追っ払うやつかな。


土砂吐が2門とも開いて勢いよく水が通過しています。
この日、三瀬谷ダムで発電とゲートを合わせて約220m3/sの放流でしたから
三瀬谷ダムと粟生頭首工の間にある大内山川からの流量もそこそこあるはずで
それ以上だということはわかります。


粟生頭首工で取水された水が届くエリアです。
受益地からかなり離れた上流なのでちょっと不思議な感じがしますが
宮川の下流域は絶妙に河岸段丘と言ったら語弊があるかもですが
川よりに田畑のほうが高い位置にあったりするので
上流のこの高さで取水しないと自然流下で行きわたらないらしいです。

受益地についての詳しいデータも宮川用水のHPでご覧ください。

◆ ◆

なぜ突然、三瀬谷ダム下流の粟生頭首工が登場したかと言うと
宮川水系は令和5年、渇水で大変だったからなのです。

7月には直近の10年どころか、過去30年のデータをみても、
“こんなにひどい渇水はそうはない”というレベルの
異常渇水になっていました。

でも、全国ニュースでは流れていなくてちっとも知らなかったのです。
九州と四国と紀伊半島は今年は豊水だなぁと思いこんでいたくらい。


三瀬谷ダムのある宮川の流域図です。
宮川水系の流域地図

教科書に載りそうな羽状流域。


宮川の特性はこの通り、流域の端に大台ケ原がかかっていますので
年間降水量は全国平均を軽く上回っています。


宮川で渇水で困っていた時にやってきた令和5年台風2号(T2302)で
紀伊半島に一番雨が降っていたころのナウキャストです。
高知県・徳島県の上には線上降水帯が発生していました。

宮川水系の上…降っていないことはないと思うんですけど…


アメダスでも見てみます。


赤紫の数字がどかどか並んでいる中
宮川の流域は黄色、180.5mm/24時間でした。

あまり補給されなかったようです。


宮川水系の最上流で頑張る宮川ダムには灌漑容量もあります。
750万m3/年です。

発電容量が5000万m3、洪水調節容量が2450万m3なので
それに比べると少ないですがちゃんと確保されています。

灌漑用水を確保しているのは宮川ダム
取水しているのは粟生頭首工
三瀬谷ダムはふたつの間にあります。

発電は水車を回すだけで水を消費しませんから
上から補給された水を頭首工まで届ければよいだけのように見えます。

発電ダムは発電がお仕事です。
猛暑で電気をたくさん作りださねばならないし
ガンガン発電したいところですが渇水で下流の補給を考えると
フル発電はできません。

三瀬谷ダムと粟生頭首工の間には支川の大内山川の合流点と
長ケ逆調整池があります。

上流や支川からの水を大事に大事に使い、無駄なく供給するために
河川維持流量と灌漑用水(時期によって異なるが4月1日から9月15日までは最大で10.438m3/s)
ギリギリの量を計算して発電を抑制して協力していたのです。

電力会社のダムだからちゃんと水利権持っているのに
フル発電をしないでお水を大事に運用して
流域のためにこんなにこまやかな協力をしているのです。

これは三瀬谷ダムだけではなく
ダムカードの右肩に「P」の文字しかなくても
全国各地の発電ダムで行われている流域への協力です。

昨年大騒ぎになった矢作川の明治頭首工のパイピング事故でも
発電で流したとしても取水されずに全部そのまま下流に流れていくだけだから
発電を抑制してお水を大事に確保して応急修理が終わるまで協力してくださいました。

発電ダムは発電だけでなくここまでシビアに低水管理に貢献して協力してくれているのです。


8月6日、T2306(令和5年台風6号)の外側降雨帯がうまくかかって宮川の流域に待望の雨がやってきました。
ホントにぎりぎりでなんとかなった感。
渇水のハラハラは胃にキリキリ来る系の痛みでしんどいです。

この降雨よって渇水が解消され
8月7日に灌漑放流は停止されました。
よかったぁ。