平成30年7月豪雨と日吉ダム その3
西日本にあまりにも広域に甚大な被害を出した前線性降雨。
前線性降雨と台風性降雨の違いについては今までも何度か書いていますが
雨の降り方が大きく違います。
まず簡単に用語の説明です。
台風とは
降雨の範囲が1000km(にも達する)
継続時間は1日から数日
→ 大河川での洪水や大規模水害、土砂災害を引き起こす
集中豪雨とは
降雨の範囲が100km(にも達する)
継続時間は6時間から半日程度
→ 中小河川での洪水、内水氾濫、土砂災害を引き起こす
局地的豪雨・記録的短時間降雨(いわゆるゲリラ豪雨)とは
降雨の範囲は数km
継続時間は1時間程度
→ 小河川、下水道内の鉄砲水。都市内水氾濫を引き起こす
前線性降雨とは
温暖前線と寒冷前線の接触により生じる降雨のため
降雨の範囲は前線の長さに比例
継続時間は雨雲の発生が続く限り∞
→ 継続時間と前線停滞時間によりすべての河川の洪水や大規模水害、土砂災害を引き起こす
海外、特に大陸性気候の国でよく用いられる
PMP(可能最大降水量)という考え方が
日本においては用いられない理由もこれです。
日本列島の横に海水温の高い状態で太平洋がある限り
雨雲の原料の供給は∞だからです。
なので前線が停滞した時に
次から次へと積乱雲が同じ場所に発生する
バックビルディング現象が起きることがあるわけです。
大量の雨を一気にもってくる台風は確かに怖いですが
延々と雨を降らせる前線性降雨は時に台風を上回る被害をもたらします。
その代表的な事例として私がよく紹介するのが
四国のいのち・早明浦ダムが竣工した翌年と翌々年にやってきた豪雨災害です。
早明浦ダムが経験した最大の災害、T7505(昭和50年台風5号)とT7617(昭和51年台風17号)。
両方とも台風による降雨ですが
台風が停滞したことによりとてつもない雨を降らせたT7617のハイドログラフを見ると
だらだらと延々と降り続く雨の恐ろしさがよく分かると思います。
T7505
最大流入量 7240m3/s ←!!!!!! あり得ない数字にしか見えない 早明浦ダム歴代1位
総ボリューム 2億2102万5000m3 ←もの凄い量がダムに入ってきたわけですが早明浦にとってはこれは歴代6位
総雨量 678mm ←これも早明浦にとっては歴代10位
T7617
最大流入量 4760m3/s ←早明浦の歴代4位
総ボリューム 6億377万m3 ←!!!!!!ダム湖の水が二回以上入れ替わったくらいの量 これでも早明浦では歴代2位
総雨量 1730mm ←!!!!!! 早明浦でも信じられない数字 歴代1位
台風性降雨はどこに雨が降りいつ頃降りやむかという予測が立てやすいのです。
大量の雨は降りますが雨域が明瞭だからです。
前線性降雨はいつまで降るのかという予測を立てることが困難です。
温暖と寒冷の気団が接していて境で雨雲が生産される限り雨が降り続くのですから。
後から後から積乱雲が発生し停滞されたら
時に台風よりも凄い雨を同じ場所にもたらすのは想像に難くないと思います。
台風が前線と一緒になると大変、性質が悪いことになります。
前線はだらだら雨を降らせますのでそこに台風のドカ降りが加わるとなると
川は満杯、地面も保水力0になってしまったりしますので土砂災害リスクがものすごく上がります。
次に、日吉ダムの防災操作(洪水調節)についての説明です。
最新版のデータがweb ↑に出ていますのでリンクでもご覧ください。
日吉ダムは現在、暫定操作を本則操作として防災操作を行ってくれています。
暫定操作は“洪水時に150m3/s 一定量でピークカット”です。
日吉ダムが防災操作を開始する洪水量も150m3/sで覚えやすいです。
ダムを計画する際には放流能力、貯水池の大きさ
洪水をどれだけ貯め込んでどれだけどのようにカットするかも計算されます。
計算のもとになった洪水はT5313(昭和28年台風13号)です。
淀川水系は戦後最大だったこのT5313に対応できるように
河道整備、ダム整備を進めてきたのです。
(桂川においてはこのT5313を5年前のT1318が上回ったのですが)
そのため、下流の整備が進んでいるなら
本来はこのような洪水調節を行う設計です。
ダム湖への流入が300m3/sから一定率で放流量を増加し
500m3/sに到達した後は一定量でピークカットです。
最大流入量を2200m3/sで計算した100年に一度の大洪水対応の操作です。
しかし暫定操作は20年に一度の洪水にも対応できるように
下流の整備が進まない分ダムに負担がかかった状態です。
ダムとしてはしっかり放流してしっかり容量をあけて
ものすごい量が押し寄せた時にも貯め込めるようにしておきたいのに
早い段階からダムにたくさん貯め込む操作を余儀なくされているのです。
※このグラフで示されている最大流入量ですが
T5313の日吉ダム地点の最大流入量が
京都府様の昔の資料では1430m3/sになっていたりします。
今回は、日吉ダム管理者様である水資源機構様が造った
こっちの1510m3/sを使わせてもらいました。
※T1318と戦った日吉ダムのレポートでは
昔作成された京都府様の資料を引用していますので
最大流入量を1430m3/sで記載しています。
今回、とにかく効果の凄さにびっくりしたのは
T1318以降に進められていた桂川の整備が大活躍したことです。
洪水疎通能力が格段に上がったのです。
これは2015年の5月に開催された土木学会水工学委員会 環境水利部会の
日吉ダムから亀岡の霞堤、狭窄部・保津峡、そして渡月橋周辺まで
桂川を学ぶバスツアーに紛れ込ませていただいた時に撮った資料パネルです。
亀岡の浸水被害を軽減するために京都府が実施した事業で
河床を掘削、ところにより堤防を高くして強化
霞堤の機能も維持しつつ
保津峡への流下能力を高める工事を行ってくださったのです。
そして亀岡市を守る素晴らしい霞堤のいくつかは
今回も活躍してお水をしっかり受け止めました。
そのひとつの七谷川左岸霞堤の横に来たのですが
青々した水田にはゴミの漂着もなく
ほとんど洪水痕跡はありませんでした。
よかった。
美味しいお米が無事に収穫できるの大事♪
写真はダウンサイズがひどくて見えないとおもいますが
遠くには亀岡駅のすぐ近くで進められている
スタジアム建設のクレーンが見えていました。
天然記念物のアユモドキが生息する川への影響を最小限に
広大な遊水地機能をもつ場所に建てられるスタジアムなので
鶴見川の日産スタジアムのようにピロティ構造にして
洪水時にも安全であるように設計されたスタジアムなんだそうです。
◆ ◆
7月12日に発表された「平成30年7月豪雨の概要(近畿管内)<第4報>」です。
保津峡の上流、亀岡市街の桂川は京都府。
保津峡下流の嵐山・渡月橋周辺は国土交通省・近畿地方整備局が整備してくれました。
整備が進んだために今まで水に浸かりやすかった個所も浸かっていません。
どんな整備が行われたのかというと…
淀川河川事務所のHPに6号井堰の撤去について詳しい説明があります。
6号井堰が撤去されたことで渡月橋下流の水の流れは信じられないほどスムーズになりました。
堆積していた土砂が取り除かれて河積も増えました。
約1.7mも川底が下がったことでT1318の出水では渡月橋の橋桁の上まで水が上がりましたが
今回の前線ではニュース映像でもずっと橋脚が見えていましたし
日吉ダムが異常洪水時防災操作で900m3/s放流した後も渡月橋が沈むようなことはなかったのです。