土倉鉱山見学 その1

滋賀県の北の果て、岐阜県との県境付近にこの鉱山はあります。
この鉱山に繋がる国道303号は私にとって因縁の道でした。

地図を見ていて、通った事のない国道があると、通ってみたくなります。
よく使う道でも、曲がった事のない交差点があると、どこに繋がっているのか
知りたくて、つい、用事も無いのにウィンカーを出してしまいます。
そして袋小路に迷い込んで恥ずかしい思いをしながら戻る事になっても
かまわないのです。「知らない道を走ってみたい病」とでも申しましょうか
こういう病に犯されている人は他にもいるのだろうかと、時々自問自答します。

頭の中の地図では走破するとその国道に色がつきます。
しばらく走っていないと色が薄れてきます。
そうするとまた走って色をつけたくなります。
この病のせいで、愛車は年間30000km酷使された事もありました。
現在はおとなしくなりまして、年間20000km程度でおさまっています。

そして因縁の国道303号ですが、ここには今まで5回挑戦しています。
しかし、関西電力がダム工事をしていて通行できないのです。
金居原揚水発電所。
ものすごいバリケードが設置されているのです。

岐阜県側から入って八草峠を越え、下って下って後少しで金居原!という
ところでそのバリケードは現れました。10tダンプに乗っていたらあるいは
事故を装って突っ込んだかもしれませんがこのおかげで私の国道走破は
何度も頓挫したのです。

そして滋賀県側からトライする事3回目にして、ついに走破する事ができました。
工事現場をぶっちぎり横断という荒業を使いましたがその時にこの鉱山遺跡に
めぐり合ったのです。


丁度、夏で周辺にはミヤマカラスアゲハが吸水のために砂利から湧き出る
ミネラルたっぷりの鉱水に群がっています。モンキアゲハが豪快に視界を
横切っていきます。大阪ではとんと見られなくなった蝶達に山中一人で
わぁわぁ声を上げて喜びながら土倉鉱山選鉱場跡に車を進めました。

視界が開けるや否や、選鉱場跡が全容をあらわします。
その姿は半円形の巨大なオブジェです。珍しい半円形の選鉱場なのです。

このときカメラをもっていかなかった事が悔やまれます。
とにかく建物としてあまりに美しいのでしばし呆然と見とれていました。

そのとき、地元のおじさんが一人犬を連れてやってきました。
選鉱場の周囲をぐるぐる回っている私に不審な目を向けながらも手にした
鋸で選鉱場の横の木をゴリゴリ切っています。

「こんにちはぁ。お疲れ様です。こちらの地元の方ですかぁ」
精一杯の明るい大声で私は話し掛けました。
おじさんは頷いて、それでも警戒心を解いてくれません。

「こちらの建物はなんなんですか?」
「日窒の選鉱所や」
「鉱山の施設ですか?他にも何か残っているんですか?」
「坑口やったら残ってるけどな。」

徐々におじさんは喋ってくれるようになりました。
この選鉱場は二代目だそうです。初代はもっと奥地にありましたが豪雪と
なだれの被害で移転を余儀なくされ、今の場所に移ったそうです。
坑道は全て塞がれているが外から見るだけなら二箇所ほど大きな所がある
など、地元の人ならではのおはなしが聞けました。

抗口は鉄柵で確かに塞がれていましたが、中からは水が静かに湧き出て
流れ出しています。透明な水には小動物や昆虫の姿は見られません。
タルコフスキーの映画のワンシーンのように静かな、水草の揺らぎだけが
ありました。

そして、この選鉱場とめぐり合って数年経過した早春、どうしても写真を
撮りたくなって早朝から出発しました。