『急傾斜地崩壊危険区域』指定 2

 

捨てられた集落への道は険しく荒れ果てていました

それでも道があったのはこの集落の上ににそびえる
電力会社の送電用鉄塔を保守管理する電力会社の
職員の方が年に何度か通る為です

落ちた屋根

崩れた壁

腕の良い経師屋さんの仕事も雨水に苔むして

ただ静かに朽ちています

家屋の周囲に平らかな場所はわずかでした

茶畑はもうすっかり伸びてしまって
芽を詰まれる事もなくただ形でそれとわかるばかり

家を守っていた防風林も今はその葉を屋根でなく
人を失った居間に直接落とすばかり

こんな険しい場所に人が住んでいました
そしてそれは特別な事でなく
日本中に在った山の集落の姿です

今にも崩れ落ちていきそうな家ばかり

入る人の片足の重さも支えきれないような姿

狭い土地に道を挟んで母屋と離れを作る
非常に変わったつくりの家屋が残る集落です

いずれ流れる運命にあった場所だったかもしれません
100年後には土地の形すら変わっていたかもしれない
そんな場所なのかもしれません

今も住んでいたら雨のたびに怯え
風のたびに眠れない夜を迎えていたのかもしれません

この集落の在りし日の姿が郷土資料館に残っていました

こんなに田んぼがあったんですね
こんなに日当たりの良い土地だったのですね

どうしてここが捨てられたのかは判らないのです

深い深い谷を塞ぐようにダムが出来ました
水没を逃れた区画でした

集落は水に没することなく
ただ人を失い
そこに在った田畑は面影すら見えず
一面に生える若い杉と潅木と雑草は
その根がまた未熟な為に
山を守る事も出来ず
集落を守る事も出来ず

この地はやせ衰え
雨のたびに崩れていく場所となりました

 

でもこの土地に住んだ人がいました
人のいた頃この土地はとても美しかったのでしょう

山はいつ崩れるとは知れず
雨もまたいつ土地を沈めるとは知れません
長く人のいた場所は危険な場所とはどういう場所かを知って
ここは良い場所と考えて集落を作ったはずなのです
それでも崩れるときは来る
そうして出来た土地の上に人が住むのですから

『急傾斜地崩壊危険区域』

人の命を守る事と
人のいた場所をそのままに守る事は違っていて
雨の度、姿を変えて崩れていくかつて人のいた場所が
きっと日本中にまだあちこちに残っています

もう人の住む事のない土地となって..

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