狼森の見晴台 その1

「一人? 行ったら危ないよ。何か音の出るもの持ってる?」

山道に入ろうとした時に地元の方が声をかけてくださいました。

「えーと、ラジオとかなら持ってます」

「音立ててたら大丈夫と思うけど気をつけて」

 

熊が出るという山でした。
訪れたのは初秋。
秋は山に食べ物がたくさんあるからわざわざ人を襲う事もないだろうと
都合のよいように思いをめぐらせて山道に入ります。

一本目の道は間違いでした。
二本目の道も途中で間違いだと勾配で気づきました。
三本目の道は地形図で見る限り目標に一番遠い道でした。

しかしその三本目の道を進んでいると不意に勘が働く場所が出てきたのです。

一車線幅のダートとはいえ綺麗に山につけられた道から杉林の中に進みます。


崩れた土砂と倒木で半分埋まった砂防ダムの上を越えて
とことこ進んでいくとこんな柵が現れました。


足元は落ち葉と苔でふわふわしています。
ちょうど朝日が昇ってきたので少しずつガスが切れてきました。

木々の間に 建物が見えてきました。


山奥で捨てられたお寺のような建物です。

でもここはお寺ではありません。


足元のコンクリートは割れてから長く経っているようでした。

開きっぱなしになってしまった扉の中に進みます。


入ったところは広い大きな部屋になっています。
木造部分には水色のペンキに塗られています。

隣の部屋との間にはカウンターのような台がしつらえてあります。

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