湯西川ダム 見学 その5


9月10日09:28 NHKニュースのライブ映像。
鬼怒川の基準点・石井付近です。
上流で4ダムが頑張っていますが水位はこの状態。

ダムより下流でも線状降水帯の降雨は激烈に続いていたのです。


10日12:18
溢水だけではなく土砂災害の被害が次々と入ってきていました。


ニュースで被害が続々と報じられている時
鬼怒川上流4ダムはダムの持てる力を全て使って頑張っていたのです。


9月10日21:00

T1518は熱帯低気圧に変わりましたが24時間前からあまり位置が変わっていません。
T1517もほとんど動けません。
高気圧に完全に行く手を阻まれてしまっています。

この後に被害が出たのが宮城県です。
11日03:20に特別警報が発令されました。
大崎市古川地区で破堤し浸水被害が出ています。


9月11日12:00

やっと高気圧が動いてくれたので二つの台風が動き始めました。


湯西川ダムはゲートレスダムです。
バルブの操作は人の手で行われますが放流量は自然調節。
洪水期に放流量の調節を鋼製ゲートで行う事はない運用です。


流入量を示す赤線と放流量を示す青線が交わったところが
最大放流量になります。
そして同時に洪水調節を終了したところでもあります。

この後、ダム湖に流入する水は減っていきますが
鋼製ゲートを持つダムであれば必ず行わなくてはならない
後期放流に当たる放流が自然に行われている状態なので
放流量の方が流入量より多くなります。
非常になだらかな曲線を描きながら放流量は少しずつ減っていくわけです。

しかし
湯西川はその肩に“F”を持つダムです。

“洪水に達しない流水の貯留(調節)”こそ実施しませんでしたが
湯西川ダムは最後のオペレーションを行う覚悟をしていました。

五十里先輩の貯水位が限界に近づいている
五十里先輩は異常洪水時防災操作に移行しなくちゃいけないかもしれない

隣の川俣先輩と川治先輩も必死で頑張ってる

なら僕ができる事は・・・

五十里先輩!!
但し書き操作開始水位に到達するまで
限界まで
頑張ってください

その後は
僕が

僕が常用洪水吐止水ゲートを閉めて
五十里先輩への流入量を減らして時間を稼ぎます

大丈夫です
僕に装備されているのはIHI製の鋼製ゲートですよ
壊れたりしませんよ
貯水位にもまだ2m余裕があります

だから頑張ってください

下流を守ってください

と、湯西川ダムが喋ったわけではないけれど
こんなイメージです。個人的には。

実際は常用洪水吐の鋼製ゲート(IHI製)を閉めることは無く
本則操作通りのフリーフローが行われ
管理開始後、最大流入量の洪水を調節し
五十里ダムの異常洪水時防災操作(但し書き操作)を回避。
ゲートレスダムとして完璧な仕事をしました。



クレストゲート越流部です。
越流標高はEL684.0m

ゲートレスダムでここまで水位が上がれば
もう流れ出る水を止める手立てはありません。

ゲート操作には厳しい縛りがあります。
急激放流にならないように操作するのは勿論ですが
ゲートも一度に全開などできない安全装置がかかっていますし
結果的に下流に急激な水位上昇を起こさないようにゲートを操作していくと
流域が小さく(20km2以下)、ダム湖貯水位が急上昇しやすい場合は
ゲート操作の方がどんどん遅れて流入量に対して間に合わなくなるのです。

これは小流域でゲートを持つダムの宿命です。
なので各地のダムではそれを見極めて神業操作が洪水期に行われていたりします。
個々のダムの特性を知った方にしかできない限界操作があちこちのダムで行われているのです。

ゲートの操作が遅れても下流が安全だったらそれでいいと思ってしまうかもしれません。
しかしゲート操作の遅れが生じ
放流量がダム湖貯水位の上昇に追いつかなかった場合
但し書き操作開始水位に到達する時間は速くなるのです。


ゲートレスダムはダムにお任せで洪水調節を行う素晴らしい装置なのです。
そして湯西川ダムは未曽有の危機に対応できる装備をも持っているのです。


パラパラと雨が降る中
湯西川ダムは静かに立っています。

流域の人に
ゲートレスダムの素晴らしい仕事を知ってほしいけれど
すぐに理解してもらうことは難しそうです。

たとえすぐには理解が進まなくてもそれは仕方のないこと
ダムの働きを知ろうとする気持ちを持たないと
ダムの操作は難しく感じられるものらしいので。

ただ、理解が進まないことと
誤った認識が世に出回ることは別問題。

ゲートレスダムの素晴らしさをたくさんの人に知ってほしい。

くじけないで頑張って。
きっと理解される日は来るから。

じっと堤体を見ながらそんな言葉をかけてしまった湯西川ダム見学でした。