with Dam night 2023 その1

2023/7/21 更新

ダム工学会によるwith Dam Night2023が開催されました。



昨年はとてもカッコいい、鋼製ゲートについて
メーカーの方の多大なご協力のもとに素晴らしく面白く
アカデミックなお話をお聞きする事ができました。

なので、それに匹敵する話というのがなかなか思いつかないほどで
どうしたもんかなぁと冬の間、つらつらと考えたりもしていました。

with Dam Nightはダム工学会のイベントです。

なのでダムで開催されたイベント、ダムを楽しむ企画の紹介は
ダムに行きたいという気持ちを想起してくださるので
有効なのですが、それらばかりになってしまうと
工学会主催で工学的な要素が無いのはなんとなくしっくりこない
という意見もでていたのです。

◆ ◆

という事で工学的なアカデミックな内容という事で
今回テーマに選んだのが“ダムの背中”です。

ダムの背中は貯水池側じゃなくて下流から見える方だというのは
ダム愛好家の皆様、ご存知の通りですが、それを知っていても
何とも違和感があるのがアーチダムです。



左右の山に踏ん張っているのに下流側が背中という事になると
物凄くのけぞっていて水圧に屈してしまいそうな印象です。
これが貯水池側が背中だとしたらとてもとても踏ん張ってくださる感じ
で落ち着きます。

そしてもう一つの違和感は下流側が背面なのに
川の流れは下流を見て右が右岸、左が左岸なので
堤体が背中を下流に向けていたら右手と左手が逆じゃないか
という見方です。

いや、それは、流れてくる水をせき止めなくてはならないから上流を向いているのがダムで
川の流れは進行方向として下流を向いているのでお互い逆になるのは仕方がないです。

右岸と左岸の見分け方を最初に覚えた人ほど
堤体の下流側が背面というのが違和感満開になる理由かなと思ったりしています。

そんな違和感が色々ありますが
ダムの下流側は背面です
これはもう丸暗記でお願いします。

◆ ◆

ダムを愛でるとき、流水型でもない限り、ダムの正面である
貯水池側は中々目にすることができません。

これは大滝ダムが完成して水を確保できるようになって
貯水位低下が可能になった大迫ダムが
クレストゲートだけでなく選択取水設備を更新している時の写真です。
こういう工事の時にだけ見られるダム正面は本当に貴重です。

愛でる人には“ダムの顔”になるのが背面です。
そこにはカッコよく見える要素がたくさん並んでいます。

カッコよく見える要素でインパクトが大きいのはゲートのある流入部ですが
それに続く導流部と減勢工によってカッコよさが
全く違う物になるという事例をたくさん見てきたのでそれを紹介したいなと。

そして導流部と減勢工のお仕事っぷりが凄いので
それもアカデミックにダム仲間と共通理解できたら
また萌えポイントがさらに増えるじゃないか♪と考えました。

◆ ◆


カッコいい減勢工ってあのダムかなぁ、このダムかなぁと
あちこちのダムを思い浮かべる中で
とても気になっていたのが、国土交通省の管理ダムで唯一の
利水専用ダムとして竣工した猿谷ダムです。


地元の図書館で工事誌を見つけました。


猿谷ダム工事誌の最初にててくる全景写真です。

何、その、カッコいい導流壁みたいな影。


減勢工の中にこんな壁が設けられているダム、他に見たことない。
というか、減勢池に常時沈んでいるのでこんなかっこいい物が
あることをこの写真見るまで知らなかった。

姿を見せていたら絶対、注目されているはず。


工事誌の平面図です。
堤体から減勢池に壁が伸びています。

「本ダムは丁度河川の屈曲部に当り水叩自体を湾曲させたので越流水減勢方式として
特に模型実験を行い、水流方向にのびるガイドバッフル3条を、水叩部に設け、更に
下流300mの位置に副ダム(コンクリート量 12,0000m3)を築造した」

と書かれていました。

ガイドバッフル…。

導流壁はtraining wallというけど…。

guide wallではなくてbaffle…。
抗力の方じゃなくて流れを方向づけるという意味のバッフルの方かなぁ。

他のダムで聞いたことない単語。


更にびっくりしたのは副ダムがずっと下流に設けられていること。
これも天端からは見えないし、周辺道路からも隔絶されているし
こんな位置にあるとは知りませんでした。

「下流河川はダム直下流で急に左に屈曲している。
従って洪水吐から斜面を流下する高速流の流れの方向に
跳水に必要な十分な長さを充分に取り得ないまま右岸山腹を攻撃する。
依てこの高速射流を跳水と同時に平面的に曲げなければならず
之に対する方策として副ダムを設置する普通の対策の他に
エプロン内部に流れの方向に走るガイドバッフルを設置することにし
土木研究所に於て水利模型実験を行い良好な成績を収めた。」


しかも、デザインがなかなか攻めています。

「当初は水叩を設けて副ダム下流の洗掘を防ぐ様計画したが
計算上では非常に長いものを要し実験により決定することも不適当であるので
スキージャンプによって越流水のエネルギーを減殺することにした。」

副ダムにスキージャンプっ!!
マジかっ!!


天端から一生懸命下流を見てもこの通り。
沈んでいるガイドバッフルも300m下流の副ダムも見えないので
気になって仕方がない。

小渋ダムのように猿谷ダムも
減勢工の水全部抜いてみたイベントをしてくれたらいいのに。


スキージャンプの副ダムという単語で頭に浮かんだのは
中部地方整備局の美和ダムです。
排砂バイパストンネルが超有名になりました。


その美和ダムが竣工してすぐにやってきた「36災害」の時に
洪水調節を頑張った美和ダムの写真です。

副ダムに水が溜まっていない

水叩きの水が全部ぶっ飛んでる


多分、天端から撮ったのであろう写真。

これは放流量が多すぎて減勢池の水が全部持っていかれているわけではなくて
副ダムがこういう設計だからです。
前に飛ばす設計で造られているからです。


こちらが標準断面図です。
副ダムは水を前に飛ばす設計であることが断面を見るとはっきりと分かります。

今だったら必ず副ダムの上流側は鉛直です。
猿谷ダムの副ダムも下流側にはスキージャンプでも上流側は鉛直です。
中国地方整備局の尾原ダムはちょっとコンセプトが違うので例外。

河川管理施設等構造令の前に竣工しているダムってホントに個性的です。
好き♪