with Dam☆Night2022 その1

2022/8/1 更新

昨年、帝都で開催されたwith Dam☆Night2021 ダムオデッセイ。
2022年は主題を“鋼製ゲート”にして古いゲート、変わったゲート、最新のゲート
と、ゲート尽くしのイベントを開催しようと、年度初めから走り回っていました。

今年のwDNk第一部ではダムのゲートの大まかな歴史を
事例をもとに紹介という事で片っ端から紹介し
時間が来たらそこで終了という量を盛り込もうと
色々調べたわけですが、ゲートの沼は深すぎてもう大変。

まずは古い文献資料に残っているゲートが現存しているかという調査。
これが本当に大変でなかなか前に進まない。
設備更新でゲートレスになっていたり、ポピュラーな型式に変更されていたり
堰そのものが除却されていたり…と、調べることで見つかる悲しい事実。


とりあえず見た目からしてメカメカしい、ギミック満載に萌える自分は
チェーンにラック&ピニオン、トルク軸、油圧シリンダー、ワイヤーロープウインチとかが
扉体の周辺にあるだけで嬉しくなるのですが、そういう古いものはなくなっていく運命です。

そして資料を発掘していくと予想もしていなかったところに
興味深いゲートがあることがわかったりして脱線が何度となく発生しました。

大阪湾周辺の防潮水門、変わり種が多すぎるのです。


大阪の阪南港 岸和田水門トラベリングローラーゲートとか。


代表格はバイザーゲート三兄弟。
これは長男・安治川大水門。


180°回転して国道2号線を締め切る淀川陸閘。

とりあえず国内の河川・堰に設けられていた可動堰の歴史を調べ
操作方法の進化とゲートの進化は絶対に抑えなくてはいけないポイントだし
純径間の長大化を可能にしたシェル構造ローラーゲートの誕生までの流れや
ハイダム建設技術が進むにつれて高い技術力を要求されて進化してきた
高圧ゲート(四方水密ゲート)のすごさも勉強しなくてはいけないし

脳みそもう少しほしいな…。

◆ ◆

ダムにおいてはローラーゲートとラジアルゲートが二大勢力です。


国内で初めてダムに設置されたラジアルゲートはというと
現在は宇治川の天ケ瀬ダムの湖底に沈んでいる
宇治川電気の大峯堰堤のクレストに設置された扉体になります。
扉体高が3.10m 幅が6.157mという大きさでした。

1924年(大正13年)に竣工した大峯堰堤ですが
天ヶ瀬ダム建設に伴って廃止になり、ラジアルゲートも残っていません。


写真のアップ。
現在のラジアルゲートに比べると
かなり華奢な作りに見えます。


自分の手持ちの写真で大峯堰堤のラジアルゲートと似た
古くて鋼材が細くて華奢なラジアルゲートがないかと探しましたところ
福山電気様が管理されている山野発電所取水堰堤がありました。

しかしここも15年くらい前にゲートレス化でラジアルゲートは除却されています。残念。
発電所の運開は1931年(昭和6年)です。

そして専門家の方にお聞きしたところ
大峯堰堤のラジアルゲートと山野発電所のラジアルゲートはあんまり似ていないとばっさり。

アームの鋼材がトラス構造であるとか細くて華奢であるところは似ているけれど
山野発電所取水堰堤の扉体は
@縦に桁が入っている
Aアームの取り付け位置が異なる
という事で、考え方がいろいろ違うのが見て取れるのだそうです。

なるほどなー。


北陸電力様の神二ダムの更新前の先代ラジアルゲートです。
この写真のゲートが竣工時からのものか更新されたものかはわからないのですが
最近のラジアルゲートはこのくらいの重厚感です。
とにかく強固頑丈。

ちなみに、鋼製ゲートの更新は材質の劣化だけではなく
放流量の変更とか様々な理由でも行われますので
鉄物は寿命が短いとか浅慮の勘違いはしてほしくないです。

大峯堰堤より前に竣工していて、廃止時にはラジアルゲートがあったことが確認されている
ローダムもあるのですが、古写真を見る限り、竣工時から備え付けられていた
ラジアルゲートにしてはかなり頑丈な作りで、大峯堰堤のラジアルゲートとは
かけ離れた姿だったので、設備更新で取り換えられたのでは…という予測が立ちました。

調べても調べてもゴールが見えない沼状態。

 ◆

ローラーゲートについて調べるとこれがまたまたとにかくややこしい。

複数の文献で調べたのですが扉体の大きさが違っていたり数字が違っていたり
現地で銘板確認しないともう信用できない…という気持ちになりました。

さらに調査でややこしさに拍車をかけていたのが
ローラーゲートが登場する前にストーニーゲートが登場しているからです。

ストーニーゲートはゲートの開閉に革命的な省力化を果たした扉体形式として
文献も多く残っていますしなにより現役の扉体も遺構もあちこちにあります。

スライドゲートとストーニーゲートとサーニットゲートとローラーゲートは
見分けなくてはいけないわけですがもう大変。

とりあえず古い事例を探しました。


古くからある施設でローラーゲートというとまず頭に浮かんだのが旧・大河津洗堰です。
1922年(大正11年)に大河津分水路と一緒に竣工。

現在の洗堰は2000年(平成12年)に竣工していますので旧洗堰は遺構として残っています。
登録有形文化財です。

左岸側の水路に見えるところは西川という川です。
洗堰のゲートは全開で動きませんが下流に別の水門があるので
そちらで水位に対応して操作が行われることになっています。

しかし大正時代のゲートとは思えないつよつよ感あふれる頑丈そうな扉体なので、おかしいな…と
資料館の方にお聞きしたところ、昭和30年代前半に洗堰の改造工事があって
その時に、それまで角落とし式だった洗堰を現在のローラーゲートに改修したという事で
現存するローラーゲート最古級ではありませんでした。

しかし巻揚機が備え付けられていたとはいえ27門も角落としで開閉操作って…。
南郷洗堰に匹敵するものすごいマンパワー必要案件。


角落としを入れたり出したりするときに使ったんじゃないかな〜
と思っている産業遺構の巻揚機の例です。
大阪の旧・毛馬洗堰のレールの上で鎮座していました。

思い角材を上げ下ろしするときにひっくり返らないように
ちゃんと錘も乗っかっています。

さらに古い事例は「落合発電所」にあったという扉体です。
扉高3.36m 径間4.5mのローラーゲートだったということなのですが
「落合発電所」があちこちにあるので調べたところ
神奈川県の三保ダムの貯水池に隣接している発電所でした。
しかし、それ以上の情報がどうしても出て来ない。

その次にターゲットしたのは宇治川の三栖黄門の横にある三栖洗堰。
1928年(昭和3年)だったしもしかしたら…と、管理しておられる淀川河川事務所様にお聞きしたところ
現在の三栖洗堰の扉体は平成2年に改修工事で取り換えられたものですよと教えていただけました。

という事で現役稼働でなくてもよいのでローラーゲートとラジアルゲートの
“現存する最古級”の扉体を探しましたがみつからず。

先の大戦の後になると何もかもが大型化してステージが変わってしまうので。
とりあえず自分への宿題にしておくことにしました。

◆ ◆

文献をひたすら調べている時に、おおっ!!!となったのが
“無塔式引揚堤扉”というものです。

昭和16年に発行された『可動堰』に掲載されていました。
紹介されていたのは橋の床板を扉体にするという凄い事例なのですが
それは扉体に歪みとか発生したら許せないので人道橋でお願いしたいわ〜などと
思いながら読んでいた時に

・・・。
待てよ。
この構造、最近、最新型の事例で施工例あったような…。

と、検索したところ、東北地方整備局・岩手河川国道事務所様が整備している
一関遊水地の大林水門、長島水門、舞川水門に採用されている
横転式ローラーゲートです。

大林水門を担当された丸島アクアシステム様のHPにはtopicsのページで
プレートガータ鋼製ローラゲート(横転式)ということで
全閉と動作中と全開の美麗写真が掲載されています。
興味のある方はぜひ見ていただきたいです。

最新技術なのだと思っていたのですが80年以上前に技術書にも載っていたという事は
施工事例があったんじゃないかと。
少なくとも海外ではあったんだろうと予想。

そしてリハーサルの時にメーカーの皆様にこの質問をしたところ
日立造船様から、普通に大阪市内に事例があるよ〜と、場所を教えてもらったので
近々見に行くことにしました。興味津津♪♪