ダム工学会中部近畿ブロック with Dam☆Night2022

with Dam☆Night at Home++ 2022 その2

揚水発電を勉強していると、一昔前によく見たエネルギーのベストミックス図が
近年、変化していることに気づきます。


こちらは一昔前、あちこちの発電ダムの資料館などでよく見た図に一番近いものです。
東日本大震災後に発表されたものに加筆しています
次に出てくる図が元々の図
です。


赤線が一日の電気の需要曲線。
それを支える電源の内訳をみると

一番下にあるのが流れ込み式水力と地熱です。
ベースロード電源なので定格出力が期待できますが量は多くありません。

その上にあるのが原子力発電です。
最も安定した定格出力のベースロード電源になります。

火力発電はミドル電源を任されています。
ほぼ定格で運用される汽力の石炭火力
調整可能な石炭火力とLNG等ガス火力
内燃で微調整しやすい石油火力
で構成されています。

そして水力は一般水力、揚水、共にピーク電源として使われていることがわかります。

この図で示されている内訳はとても理にかなっていて理解しやすく
それぞれの発電方式の特性が生かされている事が見えるので
ダムを勉強しはじめてからこの図は何度も見て覚えていました。


平成25年にJAPIC(一般社団法人 日本プロジェクト産業協議会)から出された提言では
多目的ダムの利水協力による水力発電の増強で
火力発電の燃料費抑制が示されています。
(この図で示されている部分を水力に置き換えるだけで約3兆円の燃料代に匹敵)

2022年、東欧で戦争がはじまり、世界的な燃料不足が懸念されています。
燃料代の高騰は諸外国に比べれば緩やかですが円安が進行しており
原子力発電を隣国に頼りきって自前の原子力発電を捨てた西欧の国では
日本には原子力発電があるのだからLNGは西欧に回すようにという
声まで上がっているという危機的な状況で北半球は冬を迎えようとしています。

10年前にすでにこの提言は出ていましたが
その頃、電気の安定供給で大変な負担になっていたのは
燃料代もですが、運用のほうで太陽光発電の負荷でした。

太陽光発電パネルの乱立により、供給量が需要を上回るという
ややこしいことが頻繁に発生するようになってしまいました。

電気は使う分だけ造るのが大原則です。

資源エネルギー庁の太陽光などの出力制御がなぜ必要なのかを解説したページです。
なぜ、太陽光などの「出力制御」が必要になるのか?〜再エネを大量に導入するために


2017年(平成29年)4月30日の九州の電力需給実績図が公開されています。

この図を見るたび、見事なコントロールが素晴らしいと思うと同時に

出力過多でブラックアウトしていてもおかしくないくらいの
太陽光発電の力に恐怖を覚えます。

そして天候によってはとんでもない量の電気を生み出し
太陽が陰れば見る見るうちに発電しなくなる不安定電源に対して
「需給バランス制約による出力制御」が実施されるようになりました。

電力逼迫で足りなければ当然、大規模停電は起こり
供給過剰でも安全装置が働いて大規模停電は起こり得るわけですが
大規模停電、ブラックアウトが起きたとしても
発電所が無事ならすぐに電気は造ってもらえるから
心配するのは大げさだという認識が世に出回っているとしたら
認識を改めてもらうために広報がさらに必要になってくると思います。

日本で初めて起きたブラックアウトは北海道です。
2018年9月6日の北海道胆振東部地震による
大規模な電源喪失が発端で北海道全域停電が起きました。

平成30年の北海道胆振東部地震では地震により
広域にわたる地滑りが発生し、直接的なエネルギーによる建物の倒壊もあり
ダムや道路、鉄道を含むインフラが被災しました。
そして、震源から近かった北海道の電気を支えていた発電所にもその被害が及び
発電所が停止したことによって発生したのです。


平成30年北海道胆振東部地震に伴う大規模停電に関する検証委員会最終報告

電力広域的運営推進機関OCCTOで公開されている大量のデータで詳細を勉強することができます。

このようなブラックアウトから復旧するためには
ブラックスタート電源となる発電所による供給再開が必要になります。

発電所には予備発電機が備え付けられていますが
ブラックアウト時には予備発電機の電気でだけで
何とかできるというものではありません。

発電所自体を確実に安全に動かすためにも電気は必要です。
そしてブラックスタートは発電所を起動するだけではなく
そこから繋がっている系統に対しても
安定した周波数で電気を送ることも求められます。

従って、ブラックスタートに最適の電源とは
・全発電方式の中で最高の即応力
・発電所自体の使用電力量が少ない
・出力調整が容易
・大量の電気を生み出せる
という点から出力規模の大きい揚水発電が選ばれています。

大規模な一般水力であれば可能ですが、多くの水力発電所では
揚水発電に比べると規模が小さいことが多く、次々と発電所に
電気を送っていくことにも時間を有してしまいますので
揚水の方が優先順位としては高くなるのだそうです。

火力発電所は水力発電所に比べると、発電時に使用する機械が非常に多く
使用電力量もおのずと多くなりますので、ブラックスタート電源としては
ほぼ、採用されていませんでしたが、火力発電所は湾岸に建設されていることが多く
平野部、都市部の受益地に近接しているというメリットがあります。

平野部、都市部から離れた山奥にある大規模一般水力や揚水発電所からの
ブラックスタートではどうしても復旧が遅れてしまうため
火力発電所でもブラックスタート電源として配備される計画もでているそうです。

ただし、災害時は発生した場所の送電網のダメージや
ブラックスタート電源と、そこから電気を送る発電所の位置関係にも左右されますので
揚水が絶対に一番最初に使われるというわけではありません。

発電所からの距離が遠くなれば遠くなるほど、送る電気が多く必要になるからです。
これを充電容量と呼ぶそうです。

また、揚水発電にも色々に規模があり、高揚程純揚水の大規模な発電所になると
発電所自体の使用電力量が大きくなるという事も頭の隅に置いておかねばなりません。
全ての揚水発電所がブラックスタート電源として稼働できるのかというと
その時々、運用状況にも関わってくるので短絡的に考えるのはよろしくない
とイメージしてもらえたらと思います。

ブラックスタート電源は大地震等の災害時に使用するため
色々な地点に多様な種類の電源を持っって置くことが安全性を高めるために重要で
揚水も一般水力も色々あることこそが大事だという事です。

◆ ◆

と、テーマのきっかけになった
2022/3/22 帝都ブラックアウト危機
と、
2018/9/6 北海道胆振東部地震による大規模停電
ブラックアウトからの復旧、ブラックスタート電源について
を、必死で勉強して当日に臨みました。

といっても
出演者に恵まれていて、オンラインじゃなくて全員、現場でリアルトークだし
会場でお越しいただいたお客様の顔が見える環境で
自分がしくじっても全く心配がない状況で、かなりの安心感。
お客様の顔が見える方が安心して喋ることができるタイプなのです。
オンラインよりリアルの方が得意。


折角なのでJR桜ノ宮駅からてくてく歩いて城北川の大川口水門の
横転式ローラーゲートを見に行きました。


大川口水門からすぐ近くなのでそのまま毛馬閘門をみて淀川の堤防へ。


淀川大堰はゲートの補修に加えて万博に向けて閘門をつくるという計画だとか。
左岸側、いくつも工事現場が密集状態。


など、日中お天気が良いのをいいことにうろついて
梅田ラテラルに早々と到着しました。

最初にお越しになったのが水力ドットコムの管理人で
日本一水力発電所を見ている大御所・Hisa様。
ダムマイスター(一般)でもずっとお世話になってます。

Hisaさまがお越しくださったので
なんでもわからないことあったら聞けるし
間違ったこと言ったら修正してもらえるし
ものすごい安心感があったので、何と今回は
自分の発表原稿の読み原稿すら作らなかったという。


一緒に出演のダムマイスター仲間の佳様とdashelo様は
レンタサイクルを駆使して大阪の変わり種水門代表格の
安治川・尻無川・木津川のバイザーゲートを見学してから到着。
到着時に既に体力がかなり減っていましたが大丈夫か…。


梅田ダンジョンで遭難者はでませんでした。
会場で機材を接続してリハーサル開始。

オープニングで工学会会長からのビデオメッセージが
フリーズしてしまうというトラブルがありましたが
めげずにスタートっ!!


まず最初にHisa様から「揚水式水力発電の方法」について。

全国の揚水式発電所の位置や、その働き方、混合揚水か純揚水か
綺麗にマッピングされた図に、ダムと発電所を3Dを駆使した説明で
凄くわかりやすかったです。

Hisa様のHPではレポートだけではなく、動画もたくさん公開されていますので
ぜひ、勉強のために見てください。
Hisa様と私はHP世代でずーーっと更新を続けている仲間ではありますが
クオリティが私とはケタ違いです。


続けて、私がHisa様に全面的に助けていただく形で発表です。
関西電力・奥多々良木発電所と電源開発・新豊根発電所の見学内容を
発表する前に、なぜ、今回このテーマ「揚水発電」を選んだのかを説明です。

2022年3月22日の電力逼迫について
何がきっかけで起きたのかを全部説明すると時間がないので
まとめられた資料一枚にすべて任せてしまいました。


しかしこの資料がホントに一枚で必要な情報がすべて綺麗にまとまっているので
これを見て、概要を理解して、詳細な資料判読にとりかかるのが最適解だと思います。

この一枚の中に書ききれなかった重要な情報は当日の天気予報で
この日の気温が極端に低くなることが確実で
使用電力量が供給を上回ることが予測されたという事だけ。
別のページできちんと説明されているので問題なし。


でも、省庁発表の資料を紹介するだけでは堅苦しすぎるので
愛好家目線での妄想も盛り込む。
ダム愛好家はやっぱり頑張ったダムを讃えたいので。

3月22日、きっと奥清津PSと奥清津第二PS、下郷PSは
絶対バックアップ頑張っていたとグラフから妄想できるので紹介しました♪


奥多々良木PSは揚水発電出力日本一♪を連呼して
クレーム来ないように、ちゃんと東京電力・神流川PSについても
フォロー入れておきました。

Hisa様がちゃんと説明くださったので誰も文句は言うまい。


神流川PSの計画はこのように奥多々良木PSを上回るわけですし
発電機も一台当たり47万kWは日本最大。

でも、1号機と2号機しか運転されていないので
日本一は奥多々良木PSがレコードホルダーという事です。

今回の3月22日では周波数変換所が大活躍したので
新豊根発電所もPRしなくちゃなんですが、それ以上に
佐久間エリアの紹介と、特に佐久間周波数変換所について
説明をさせてもらいました。

ううう。
飛騨FCも見学したい…。
新佐久間FCもできたら是非とも見学したい…。


続いて、佳様とdashelo様による
「 「高根第一発電所」見てきた。 」です。
中部電力様のご協力で今回見学させて頂いた
高根第一発電所と高根第一ダム、高根第二ダムですが
この見学会に、残念ながらdashelo様はお仕事で参加できなかったのです。

なので参加された佳様が当日の様子を視聴者の皆様とdashelo様に
説明するスタイルでお話が始まりました。

一緒に見学していたのに全然写真が違うのに愕然としました。
ホントに今のスマホの弩級の広角レンズは凄すぎる。
自分のカメラではどうしても取れないものをサクサク撮っておられて
羨ましい。

さらっと丸山ダムの写真が一枚紛れ込んでいたりしましたけどwww


最後に京都大学の角教授から海外の揚水発電の事例をご紹介いただきました。

会場も視聴者の方もこの時、スイッチ切り替わったかというくらい
画面にくぎ付けに。専門家も素人愛好家も全員カメラ構えて真剣モードに。

日本って…揚水発電大国だったんだ…
そして欧州ではこんなに細かく電気料金相場で考えて儲けを出しているんだ
東南アジアや中国でも揚水がこんなに開発されているんだ

公的な役割を担う電気事業者様に
これでもかと負担を強いてきた東日本大震災以降の風潮
そろそろ本気でそれから脱却して、蓄エネルギーシステムとしての揚水発電を
従来の日本型にあった大規模揚水ではなくて
ドイツの事例のようにコンパクトなものをたくさんつくる方法でもよいので
進めていかなくてはいけないのではないかと思いました。

不安定でいざという時に役に立たなかったりする太陽光のエネルギーも
正しく蓄電して、火力発電用の燃料代を少しでも減らせるように使いたい。
そしてそれを機械式蓄電池で賄うのではなく、桁違いのパワーを持ち
治水に利水に役立つダムでそれを担ってほしい。

たくさんの最新の事情を学ぶことができた実にアカデミックなwDNになりました。

最強の布陣で開催した甲斐がありました♪

お世話になりました
関西電力の皆様
中部電力の皆様
電源開発の皆様
ダム工学会中部近畿ブロック事務局の皆様
ダムマイスター(一般) Hisa様
ダムマイスター(一般) だしぇろ様
ダムマイスター(一般) 佳様

ありがとうございました。

ダムビンゴ芸人から遠ざかって長くなってきたので
機会があったとしても以前のようにできるのか不安になってきました。
オンラインは遠方の方にも届けられるし
今後もハイブリッド開催になるのかなと思ったりしています。

とりあえず来年もアカデミックなテーマで頑張りたいです。