ダム工学会中部近畿ブロック with Dam☆Night2022
with Dam☆Night at Home++ 2022 その1
2022/11/1 更新
2022年のダム工学以下中部近畿ブロックのwith Dam☆Nightは
テーマを揚水発電にしました。
というのも、2022年(令和4年)3月22日に恐怖する出来事が起きていたからです。
2022年3月16日23:36、福島県沖で最大震度6強の地震が発生しました。
この地震の影響で3月18日に電力逼迫が発生します。
18日はなんとか停電を回避できましたが
さらに厳しい状況が22日に発生したのです。
帝都ブラックアウト危機をぎりぎり回避できたこの日のこと。
その詳細な報告が経済産業省 資源エネルギー庁から公開されています。
必見です!!
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気象庁の「東北地方の地震活動」のページでは
令和4年福島県沖地震の震央と各地の震度が確認できます。
この地震により、計14基・647.9万kWの火力発電所が停止します。
火力発電所の停止によってUFR(周波数低下リレー)発動し
東京エリアで最大約210万戸、東北エリアで最大約16万戸の停電が発生しました。
運転中の火力発電所の出力増加や被害を受けた配電・送変電設備の改修等を行い
東京エリアでは翌17日の02:52に、東北エリアでは3月17日21:41に停電は解消しました。
周波数低下リレーというのは、地震などの緊急時に、大規模停電(ブラックアウト)を防ぐため
自動的に負荷(需要)を送配電ネットワークから切り離す装置です。
プログラムが自動的に計算して系統の遮断が行われる安全装置の一つです。
電気は、基本的に貯めることができません。
需要を予測して造るのが電気です。
気温の要素が最も大きいですが、時々刻々、変化する需要の変動に合わせて
発電する電気の量のバランスを取り、安定した周波数で電気を届けています。
地震発生時に、大きな揺れを感知した発電機が安全を確保するため
自動的に停止したことでUFRが発動しました。
◆
3月18日には停電こそ発生しませんでしたが東京エリアで電力需給逼迫が発生しました。
16日の福島沖地震により、東北・東京エリアでは被害が大きく、この時点でも
火力発電所7基(計約440万kW)が停止していたのです。
この地震では東北電力、JERAをはじめ、
いくつもの火力発電所が設備にダメージを受けました。
発電所の被害を伝えるニュース映像で衝撃的だったのは
地震により、ぽっきりと折れてしまった相馬共同火力発電の
新地発電所(石炭火力)の揚炭機でした。
新地発電所は今回の地震の震源地から極めて近い場所にありました。
三陸沖が震源地であった東日本大震災と同じ震度6強でも
加速度で約1.3倍、galで約1.2倍というとてつもないエネルギーを受け
揚炭機以外にも多数の設備の損壊が発生したのです。
東北電力の原町発電所(石炭火力)も震央から極めて近く、ダメージを受けました。
新地発電所も原町発電所も認可最大出力100万kW超の大規模火力発電所です。
この電源が丸々喪失していたのです。
仙台市からいわき市にかけての海岸沿いには他にもたくさんの火力発電所があります。
この日、17:00-18:00に最大需要の予測があり、東京電力PGは追加供給力対策を終日実施して
停電しないよう頑張っていました。
しかし、最大需要予測時間を過ぎ、夜間になっても需要の減少がみられませんでした。
21:00-22:00には頼みの綱の揚水発電が枯渇する恐れが生じたため
電気の広域融通が行われ火力発電所の増出力運転を実施、さらに
東京電力PGから急遽、節電の呼びかけが行われ、何とか停電を回避しています。
◆
3月21日
そんな状況で21日、深刻な情報が入ります。
翌日、22日の天気予報でした。
季節外れの真冬並みの寒気がやってきて気温が急激に下がるという予報だったのです。
3月16日〜22日の東京エリアの需給状況について
後日発表された東京電力PGからの詳細な報告がこちらです。
このため、21日の夜、節電についての呼びかけ、
東京エリアの電力逼迫警報が、TVニュースをはじめ
ネットでもかなりの緊急度を持って伝えられました。
今回の福島県沖地震が起きた16日から23日までの
東京の平均気温と東京エリア電気需要のグラフになります。
黒い実践が気温です。
18日もそうなのですが気温が低い時に電気需要が
大きく増えていることがわかります。
3/22〜23日の電力逼迫警報が出た際には
実際に気温が非常に低かったことが見て取れます。
電気の需要予測がどれだけ気象に左右されるかは
J power Global Edge No.70 2022年7月号 Opinion File
「防災が変わる、ビジネスを変える気象情報の活かし方」
佐々木 恭子 先生
こちらの記事をぜひ読んでいただけたらと思います。
◆
3月22日
東京エリア外の全国ニュースでもこの日の電力逼迫についてが
トップニュースで流れました。
最悪の場合、大規模停電、ブラックアウトが首都圏に起きる可能性があると
繰り返し報じられました。
そして、朝より東京電力PGの電力需要実績と揚水発電の発電可能容量(kWh)残量が
twitterで発信されます。
前日の電力逼迫警報の最初の報を見ていなかったので
ニュースの後に、慌てて情報を集め始めたのですが
最初に目にしたのが揚水発電についての説明でした。
一般の方向けに揚水発電の仕組の解説が続きます。
大事なことは大事な容量をフルパワーで使うのではなく
長い時間に渡って発電できるよう、発電量を計算して運用する
という点が説明されていたことです。
こちらがその配分図になります。
揚水発電の上池の水が尽きてしまうと発電ができなくなりますという
ごく当たり前のことも合わせて説明されていました。
そして、ここからがホントに怖かった。
東京電力管理の揚水発電所・上池の貯水量のカウントダウンが始まったのです。
黒線が需要実績。実際に使われている電気の量です。
黄線が節電の目標とする需要を示す線です。
07:00まではぴったりですがその後、電気の使用量が見る見るうちに増えて
節電目標と離れていったことがわかります。
これが真冬並みの寒気がやってきたことで起きた現象です。
気温は2℃、3℃の差でも大きく電気需要に変化を及ぼすという事を
聞いていましたが、このグラフはそれを可視化してくれたものになります。
このため、「最大限の節電に後協力をお願いします」という
呼びかけが繰り返されました。
朝には100%だった揚水発電の発電可能容量もじりじり減って
13:00時点で66%になっていました。
日中、繰り返し、ブラックアウトを回避するべく、節電の呼びかけを行いました。
15:00には緊急で経済産業大臣からの節電のお願いが発表されます。
これが決め手となり、以降、需要実績と節電目標がほぼ同じになってきたのです。
東京エリアにお住まいの皆様の節電への頑張りがしっかりと形になって表れました。
そして発電を続けた揚水発電は19:00の時点で35%になっていました。
20:00時点の需要実績と節電目標です。
この日、節電の要請をしていたのは23:00まで。
どうかもう少しだけ持っってほしい、祈るような気持ちでした。
22:00、揚水発電の運転が止まりました。
残量は実に29%。
なんとか、なんとか、帝都ブラックアウトの危機は回避されたのです。
よかった
よかった…
翌朝、夜間の天気で揚水発電の上池へのポンプアップが行われ
発電可能容量は半分くらい回復していました。
こちらはtwitterと同時に、当日、発表されていたプレスリリースです。
こちらのグラフにはグラフの中ほどに灰色の線が引かれているのがわかります。
この灰色の線が示しているのが揚水発電を除く発電所の供給力、約3600万kWのラインです。
この日の最大需要実績は14:00の4525万kWでした。
灰色の線より上の部分で薄緑の部分が揚水発電以外の発電実績になります。
水色の部分が揚水発電の発電実績です。
東京電力管理の揚水発電所9ヵ所を全部足しても767.8万kwですので
全発電所で同時に発電していたとしても(公式発表の通りそんな運転はしていません!!)
計算上、足りないことがすぐわかります。
つまり、この不足分を一般水力と広域融通でなんとかしていたのではないかと予想。
グラフを眺めていると節電目標を上回る需要に
ぴったり合わせて発電しているのが見て取れて
素晴らしいお仕事に泣きそう。
この時に、普段、電気について特に興味のない人たちが
揚水発電はすごい
揚水発電があれば大丈夫
というイメージを抱いてしまったのか、その後も、間違った情報が
大手新聞の記事で書かれているのを目にしました。
揚水発電は“電気を使って電気をつくる”ものであって
一般水力発電とは別に考えなくてはならないものです。
揚水発電の発電方法は一般水力発電と同じですが
揚水のプロセスには電気の消費が関わってきます。
令和4年はとんでもない猛暑なのに
COVID-19でも最強感染力の株が猛威をふるっていたせいで
換気が必要なために、クーラーをかけつつ窓も開けなくてはという
例年より厳しい夏がようやく終わりました。
寒くなってきてまたまた電力需給が厳しくなる冬の前に
揚水発電についての知識をたくさん人に知ってほしいので
その道のすごい人に説明をしてもらおう
そして中部近畿ブロックのすごい揚水発電所をしっかり紹介しよう
という事で、電源開発様、関西電力様、中部電力様の
カッコいい揚水発電所を見学させて頂きました。
後日、公開予定です。