内谷ダム&油谷ダム 見学 その1

2020/1/11 更新


「今こそ問う 水力発電の価値」
令和元年度のダム工学会・著作賞受賞しています。

wDN at Homeのプレゼントでも紹介しましたが
興味深い面白い話がもりもりなので是非読んでほしい本です。


色々、海外の事例をはじめ興味深いことが書かれているんですが
太陽光発電や風力といった不安定電源が全電力に占める割合が
高くなってくると安定させる為の装置と措置が必要になってきます。

日本においては太陽光発電が飛びぬけて多い九州地方が
それ以外の地方と別のフェーズに進んでいます。

「九州本土における再生可能エネルギーの出力調整について」

本に出ている表の出典がこちらの報告書です。

2012年(平成24年)7月再生可能エネルギー固定価格買い取り制度(FIT)が始まりました。
これによって発生したのが太陽光バブルです。

需要を無視して九州のあらゆる所に太陽光パネルが設置され
結果、昼間の発電量が急増してしまったのです。

電気は使う分だけ造るのが大原則ですから
この乱立した太陽光パネルは著しい供給過多を引き起こす材料になってしまったのです。

供給過多は、周波数と電圧を乱し、大規模停電、ブラックアウトをを引き起こすトリガーです。


日本全体がフェーズ2に対して九州だけはフェーズ3になってしまいました。
ブラックアウトさせないために細やかな出力調整を図る必要がある状態です。

このとんでもない事態に活躍したのが揚水発電所でした。

九州電力様が保有している揚水発電所は3ヶ所あります。


天山PS 60万kW 1986年運開  写真は上部ダムの天山ダム。


小丸川PS 120万kW 2007年運開 写真は上部ダムの大瀬内ダム

今回見学させていただく大平PSは50万kWで1975年運開。
九電様で一番最初の純揚水発電所です。

太陽光発電は少し曇っただけでも発電量はガタ落ちするし
燦々と照っている時はとんでもない電気を造ります。
そんな不安定電源を調整する安全弁として大活躍している
九電様の揚水発電所とダム見学をしたいな〜と思って
お願いしました。

◆ ◆


という事で冬に今年初めての長期休暇の日程を固めて球磨川に行くために
さくらちゃんで快適にやってきました新八代駅。


新八代駅からまず向かったのが油谷ダムです。


球磨川沿いの道路はまだ復旧途中であちこちに
崩れた護岸や落ちた橋桁が見えていました。

許可車両しか通行できないところもあり
九電様が事前に御準備くださったために通行ができたという状況でした。


球磨川から支川の油谷川沿いに山を登って
到着しました。

大平発電所の開閉所です。


イラストマップです。
まだ荒瀬ダムがあった頃に造られたもので名前がありました。
ほろり。


この発電所を示した地図でも
荒瀬ダムの右岸にあった藤本発電所が記されていて…。
ほろり。
あんなに優秀な発電所を堆砂対策をとらないという卑怯極まりないやり方で
ダム撤去にまで持っていった前知事の思考回路は理解不能。


ヘルメットに防寒着着用で密にならないようにダム愛好家3人
発電所の展示室に入らせて頂きました。


スライドでまずはお勉強です。


九電様の水力発電所は144箇所あり九州全県だけでなく
離島にも建設されています。

その中で熊本エリアでは25箇所の水力発電所があり
一般水力を全部足すと140000kW。
揚水発電の大平発電所は最大出力500000kWです。
揚水発電の桁違いのパワーが分かりやすいですね。


天山PSと大平PSと小丸川PSのスペック比較。
最新型の小丸川のパワーは1200000kWなので大平と天山を足したより多いです。

以前、九電様のダム見学をさせて頂いた後に
偉い人にご挨拶する機会があったので、思わず
「太陽光、後始末させられてとても大変ですね」
と、口から出てしまったのですが
「小丸川、ほんとに造っておいてよかったです!!」
と、心の底から湧き出るようなお返事を頂戴して
揚水発電なかったらFITでどんな悲劇が起きていただろうかと
喜びつつ背筋が冷たくなったのを思い出しました。


大平発電所の概要です。

上池が内谷ダムで下池が油谷ダム。
最大有効落差は508.03mです。


これが太陽光発電が大量に連係された背筋が冷たくなる一日
2018年(平成30年)5月3日の発電電力量グラフです。

赤線で表わされた需要をはるかに超える太陽光発電を含む電力供給力。
それを抑える為に揚水発電がポンプアップで大量に消費して
安定化させている事が分かります。

内燃式の火力発電所の出力調整がいくら早いといっても
即応できる水力には及びません。

何といっても過剰になった電気が需要とバランスがとれるように
有効に使うという方法でフォローできるのは揚水発電だけです。

よかった…
太陽光の最大出力が6210000kWで
天山と大平と小丸川の揚水発電が稼働して
火力の調整に加えてこの時は九州の外にも電気を送ることで
なんとかしのげたのです。

ホントに無事でよかった…としか言葉ができません。


原子力発電が次々と停止して行く中、太陽光発電のフォローで
揚水発電の運転回数は年々増え続けとても、とても大変な状況になっています。