西郷ダムパーク 見学 その1

2018/8/21 更新

平成30年6月末に素敵なニュースがwebに出ました。


読売新聞の記事です。

九州電力様の西郷ダムの改造工事が完了しました。
そしてそしてダムのすぐ横のスペースに
素敵な公園を整備してくださったのです。
鐘のモニュメントが設置されました。
鐘のいわれがクレーンカバーというのが斬新過ぎる。

そしてこの記事はちゃんと正しく通砂を書いてくれています。

記者発表した直後、TV局でも新聞社でももう間違う間違う。

ちゃんと聞いてよ!!
通砂と排砂は違うといっているのにちゃんと聞かないで
“ダムにたまった土砂を流す”とか報道されていてハラハラしました。

ダムにたまった砂を流すのは排砂(フラッシング)です。
ダムに入ってくる砂をそのまま通過させるのが通砂(スルーシング)です。


注目はここです。
鐘のモニュメントも素敵なんですが
何といってもここです。

西郷ダムの改造工事の際に堤体から切り出した
サイクロピアン(巨石)コンクリートをテーブルセットに加工して
現地に設置したというところ。

わわわわわ。

こ、これ
本気でとんでもなくすごい話なんですが。

日本のコンクリートダムの黎明期の施工事例
その堤体に使われていたサイクロピアンコンクリートが
現地でおさわりぺたぺたできて間近で観察できるのです。

各地で堤体の改造工事の際にポーリング調査を行って
巨石が確認されたというお話は聞きますが
それが展示されていたり間近で見られたりするところはなかったのです。

今回の西郷ダムパークでは個人的に近代化遺産に指定されてもいいと思っている
高品質の90年物のコンクリートがテーブルセットという別の生き方をはじめたわけで
どーしても会いに行きたい!!
と、宮崎にやってきたのです。


お名前も付きました。

クレーンカバーの鐘型は何か機能的な理由があって
あの形になったと信じていたのですが鐘型にわざわざデザインしていたそうです。
愛されダムになるために色々な工夫が凝らされていることが嬉しい♪


御世話になっている九州電力の皆様にご案内を頂き
宮崎県の延岡市にやってきました。


こちらの安部石材様で
西郷ダムパークのサイクロピアンコンクリート・テーブルセットを
造ってもらったのだそうです。

造る時のご苦労をお聞きしたくて連れて来ていただきました。

「こんにちはー」


お店に入ってすぐ、壁の写真に視線が釘付け。

え…
なんで
砂防堰堤がこんなに並んでるの?


うわ、こちらは手取川だ。
こっちは草津…。
なんでなんでなんで?

と、驚いて写真に見入っているとこちらの社長さんがお越しになりました。

御挨拶もそこそこに質問。

「ダム愛好家の夜雀と申します。
今日は西郷ダムのダムパークに設置された
サイクロピアンコンクリートのテーブルセット制作についてお話をお聞きしにまいりましたがっ!!
なぜ、こんなに砂防堰堤のお写真があるのですか」

躊躇も遠慮もなくド直球で質問。

「こちらは自然石化粧型枠材「EKウォール」 というものなんですよ」
「自然石・・・ってこれ、石板ですかっ!!ど、どれだけ贅沢品っ!!」
「はい、コストはかかりますが自然石のメリットがたくさんありますので」
「この端っこの写真、手取川ですねっ?
手取川の砂防堰堤ってもうクラウンが削られてめろめろになっているところ多いですが
自然石ってことは強度重視で選ばれて使用されたという事ですか」

「はい。強度も選択基準の一つですがこちらの堰堤の写真もご覧ください」
「酢川…名前からして酸性河川?」
「そうです蔵王の強酸性河川です。pHが2から3という」
「胃液ですかっ!!」
「自然石ですから耐酸性は折り紙つきです。
目地から内部に水が入り込まないように加工が大変ですが」
「こちらの稲荷川第10号堰堤は耐酸性というよりは間違いなくビジュアル系ですよね」
「自然石ですから美しさという点でも優れているんですよ」


とにかくこの自然石化粧型枠材というものがもう妄想爆裂の凄いもので
あちこちで見てきた砂防堰堤の事例とか河川特性とか
スタンダードなコンクリート製の化粧型枠との違いとか
もう話が尽きない止まらない。


施工の苦労とコストのことと施工の大変さ(型枠の一枚が約17kgもあるそうです)
何よりなんでこういう商品を開発されたのかというあたりが聞いてて面白くて仕方がない。

「最初はこういうものを作ったんだが…と売り込んでも全然相手にされなくてですね」
「贅沢な品物ですからねぇ」
「千葉県の松戸市に関東地方整備局の新技術展示館というものがあるので
そこに商品を出してはというアドバイスがあって出してみたんです」
「九州なのに関東地方整備局のエリアに!」
「そうしたらコンクリートではダメなところからお話が来たんですね」
「強度が必要なところと景観に配慮しなくてはいけない観光地周辺と…」
「後は耐酸性が必要な酸性河川です」
「なるほどっ。だから東日本の事例が多いのですかっ!!」
「協力してくださったのが北海道に本社のある共和コンクリートさんなので。
共和コンクリートさんは東日本以北エリアの受注が多いですから」
「美しいし強固だしコストに見合う素晴らしい砂防堰堤ですっ♪素晴らしいっ」
「性能重視で綺麗な外観より耐酸性だけを求められる場合もあるので
色々バリエーションがあります」
「たしかに人の来ない山奥なんかはビジュアルより性能ですね」
「現場で施工するときにあまり大きくて重いと作業する方が大変だし
固定するアンカーの深さも技術を確立するまで苦労しました」
「あまり深いと石が割れちゃうんですね」
「アンカーは引っ張っても抜けない強度は必要だし苦労しましたね」
「そしてこんなすごい型枠ができたと。凄い技術ですねっ♪」
「いや、うち、墓石屋ですから」

はたと気がつくと砂防堰堤の話だけで30分が経過。
いかーんんんっ!!
ちがーーーーうぅぅ。
今日はサイクロピアンコンクリートのテーブルセット制作秘話を聞きにきたのぅぅ!!

「すいません。砂防の話でちょっと頭のねじがゆるんでしまって」
「(笑)」
「西郷ダムパークのお話が来た時の第一印象はどうでしたか?」
「一番最初に来たお話はダムから出てきた玉石をなにかにできないかという事だったんです」
「え・・あのテーブルセットの前に別のお話があったんですか」
「これがその時に造ったものなんですけど…」

「一輪差しです。これを120個くらい作りました。改造工事の定礎式で配ったそうです」
「小さいのは?」
「ぐいのみですよ」
「西郷ダムのサイクロピアンコンクリートの巨石で作ったぐいのみ!!」
「西郷ダムのサイクロピアンコンクリートの巨石で作ったぐいのみ!!」
「西郷ダムのサイクロピアンコンクリートの巨石で作ったぐいのみ!!」


あまりに吃驚して連呼してしまいました。
凄い羨ましいっ。

西郷ダムの一部になっていた巨石からできたぐいのみで
日本酒飲んだら悠久の90年物の味がするかもーーーっと
妄想が止まらない。
あああああ。羨ましいっ。

「そのあとにテーブルと椅子のお話を受けまして」
「国内のダムにおいてもとても貴重なサイクロピアンコンクリートが材料だったわけですが」
「“さいくろぴあん”コンクリートってなんでしょう?」
「国内では明治から昭和初期にマスコンクリートの構造物をつくる際に
当時高価だったセメントの使用量を少なくしつつ構造物の重さをしっかり稼ぐために
今では考えられない工法ですが、コンクリートに巨石をごろんごろん入れて造っていたんです。
その大きな石というか岩のことを海外で神話に出てくる巨人のサイクロプスにたとえて
サイクロピアンと読んだらしいのです」

「確かに普通のコンクリートとは全く違いましたね。
私が感心したのはこれだけの大きな石を使っているのに石と石がくっついていないことです。
間隙がなくて隅々まで、石の周囲にこんなに隙間なく美しく
セメントがいきわたって美しいコンクリートになっていたことに吃驚しました」
「さすがコンクリートのことをよくわかっていらっしゃるぅっ!!!」
「いや、うち、墓石屋ですから」
「ふつうは正体不明で怖いから引き受けてもらえないようなオーダーだったと思うんですよぅ」
「私は面白そうだなと思って受けましたが(笑)」


こちらが西郷ダムパークに設置されたサイクロピアンコンクリートのテーブルセットです。
写真は九州電力様からご提供いただいたものです。
凄い貴重なコンクリートブロック。
国内ダム技術、コンクリート技術の高さを物語る素晴らしい資料
それがテーブルセットになったんです!!

「加工が大変だったと思うんですが」
「石と違ってコンクリートですから切るのも石とは異なります。
コンクリートの場合は切り込み、深さに注意して、ゆっくり、そうっと速度を落として切るようにしました」
「石部分とセメントで硬さが大きく異なるからですね」
「そうです。コンクリートと石というのは接着力はないので。
骨材はカットしている時でもポロっと外れたりしました」
「それはどうやってくっつけるんですか」
「石材用のセラミックボンドというものがあるのでそれを使います」
「すごく綺麗な仕上がりでどこが外れたのか分からないですが」
「墓石屋ですから」
「いやいやいやいやコンクリートの技術ー」
「コンクリートと骨材にどれだけ接着力があるのか
せん断力をテストしてみたんですが
コンクリート+コンクリートを基準にすると
コンクリート+表面がざらざらの石でも1/2から1/5
コンクリート+つるっとした石では1/6から1/8と
もう接着力はないと思っておいた方がいいという結果でした」
「おおおお。私がダムのことを教えてもらっているえらい先生が
2年前に耳川にお越しになった時に山須原ダムで仰っていたことが
数字で表されました。そんなに差が生じるんですね」

「まぁ、複雑な材料ではありますが私どもは切って磨いて削って掘る作業ですから」
「今回の作品でここを見てほしいというポイントはありますか?」
「色つきの石がたくさん入った綺麗な面を道路側に向けて配置してありますよ」
「おおお。そんな心づかいがっ♪」
「表面はつるつるしていますが墓石に比べるとそんなに磨いていません。
墓石はもっと磨いてつや出しまでするんですけどその半分くらいでやめています」
「セメント部分が減るからですね」
「そうなんです。コーティングは特にしていませんので」
「ありがとうございました。
今から現地につれて行ってもらいます。
すりすりぺたぺたおさわりさせてもらって来ます」

と、大騒ぎのインタビュー
相当、時間押しで終了しました。
すいませんっ。

◆ ◆


現地に到着です。
西郷ダムお久しぶり。
この前、来た時はまだ工事中だったので。


隅々まで工事終わりましたー。
細かいところの工事だけ残っていましたが
大部分は昨年にはもう終わっていて通砂も実施しています。

昔の西郷ダムのゲートピアの上にあったアーチ型の美しい意匠は
モダンなデザインになってちゃんと受け継がれていました。


「今月(8月)の一日から天端を開放して通行できるようにしたんですよ」
「素敵♪天端に入ってゲートもクレーンカバーも至近距離で愛でられるのですね」


こちらは制水門です。
発電所の取水設備のレイアウトは昔と変わっていません。


取水口にはスクリーンと除塵機。これはお約束。