野反ダム 見学 その4

ダムを造る際、型式を慨定する基準として大事なのは
まず地形です。
谷が深くて両岸が迫ったV字谷のダムサイトの場合はコンクリートダムが
開けた平坦な地形の場合はフィルダムが適当とされます。

次に基礎地盤です。
基礎が硬い岩盤の場合はどんなタイプのダムでも大丈夫ですが
シルト、砂礫、粘土などの場合はアースダムの他の型式は難しくなります。

また、建設コストにかかわる要素として堤体の材料が挙げられます。
築堤材料がダムサイトの近くで大量に得られる場合はフィルダムが割安になることもあります。
ただ、フィルダムは全般にコストが安いと思われるとかなり違っていて
巨大なロックフィルダムになるとむしろコスト増になることも稀ではありません。

少し細かいことになりますが余水吐の大きさも型式選定にかかわってきます。
そのダムの洪水量が大きい場合は設備も大きくなることからコンクリートダムが有利です。
ただし、余水吐掘削材料が堤体に使用できる場合にはフィルダムが良いケースもあるそうです。

日本は地震が多い国なので強固な重力式コンクリートダムが適しているという見地から
戦後は重力式コンクリートダムが主軸となって建設されてきました。

勿論、地盤と地形に恵まれていればアーチダムが生まれ
地盤に恵まれていない場合はフィルダムが選択されてきました。

勿論、かなりのV字谷なのにフィルダムが造られている事例はありますし
かなり広めのU字谷とV字谷の中間くらいの谷にアーチダムが造られている事例もあります。

個々の事例で最適解が求められてダムの型式は決定しますので
必ずしもこれらの基準の通りに作られるというものでもありません。
そのダムサイトならではの理由で型式が決まるのです。

◆ ◆

日本は重力式コンクリートダムの技術がどんどん発達してきた半面
フィルダムについては世界のトレンドから少し外れて独自路線で進んでいます。

日本と同じく地震や火山が多い環太平洋造山帯の諸国を別にすれば
大陸のフィルダムの主流はCFRD、コンクリートフェイシングロックフィルダムです。

日本では6基しか造られず現役のダムは5基です。

1951年 小渕防災溜池(岐阜県)
1953年 石淵ダム(岩手県) 胆沢ダム竣工に伴い廃止
1956年 野反ダム(群馬県)
1963年 皆瀬ダム(秋田県)
1972年 荒沢1号ダム(岩手県)
2004年 苫田鞍部ダム(岡山県)

何故、海外の大陸諸国ではCFRDが多く採用されているのかというと
建設コスト面でとても優れているからです。


フィルダムの材料による分類と遮水による分類です。
まず材料で土が半分以上なのか岩が半分以上なのかで
アースかロックかに大別されます。

次にどうやって水を止めるかで区分されます。

均一型

堤体に水がしみ込んで行くことを前提に造られている均一型は
アースダムで採用されているものです。


均一フィルダムのドレーンについては
あちこちの文献で使われているこの図が分かりやすいです。
堤体にしみ込んだ水は水抜き(ドレーン)によって下流に排出されます。

ゾーン型

ゾーン型はアースダムでもロックフィルダムでも採用されています。


国内最大級のゾーン型アースダムである水資源機構の中里ダムの断面図です。

こちらは同じく水資源機構の打上調整池の断面図です。
傾斜コアのアースダムになります。
コアが中央か傾斜かの区分は水を止める遮水方法に差異が生じるわけではなく
個々のダムサイトの気候や工期、その他の要件で選ばれます。

フェイシング型

フェイシング型はロックフィルダムだけで採用されています。
遮水を表面に張ったコンクリートで行うCFRD(コンクリートフェイシングロックフィルダム)は
堤体をしっかり締め固めてから造らなくてはなりません。
地震や雨水の浸透で沈下してしまうと表面に張ったコンクリートが
割れてしまうので沈化しないように堤体材料の多くを土ではなく
岩にする必要があります。

これは国内で最新の技術で造られた一番新しいCFRDである
国土交通省中国地方整備局 苫田鞍部ダムの断面図です。

他のフィルダムに比べて堤体がとてもコンパクトなのが一目瞭然。
堤体材料はがっちり締め固められたロック材です。
日本でコンクリートフェイシングダムが造られなくなったのは
地震に対する危機感からでしたので
フェイシングダムの技術はコンクリートより地震動に対して強い
アスファルトを用いたAFRD(アスファルトフェイシングロックフィルダム)が
いくつものダムで採用されていったのです。

◆ ◆

AFRD、CFRDといった堤体の表面で遮水するフェイシングフィルダムは
何故、海外で爆発的人気なのかという理由はふたつあります。

フィルダムを造る時にとても重要なのが堤体材料の確保なのですが
ゾーン型フィルダムを造るためには遮水を担う部分の粘土質の土
表面を覆う岩との間をつなぐトランジション、フィルタ材など
色々な質の土や粘土や岩が必要になってきます。

これらの複雑な材料がそれぞれ大量に確保できるダムサイトというのは
海外でそんなに多くないのだそうです。

もう一つの理由は断面図で見ると理解しやすいです。
CFRDはとても貯水量の確保に有利なダムなのです。


国会図書館のデジタルコレクションで閲覧できる
土質工学会の「土と基礎 (1963年11月発行)」掲載の
「フィルダム(設計・施工(3))(問題点を探る(7))」に
とても分かりやすい比較図が載っていました。


上から
フェイシング型フィルダム
傾斜コア型ロックフィルダム
中心コア型ロックフィルダム
ゾーン型アースダム
均一型アースダム
で、それぞれの堤体の上下流の勾配です。

フィルダムは堤体積が大きくなるので
貯水池側にも長く堤体が伸びて貯水池の容量が少なくなります。
同じ堤高で造るのなら貯水池の容量が多い方が当然良いわけです。

一番上のフェイシング型の断面を見てわかるように
フィルダムでありながら堤体積をとても少なくコンパクトに
造ることができるので貯水池も大きくなり有利なのです。


これが野反ダムの断面図です。
とても細身のフィルダムです。

そういった条件もあって海外ではフェイシング型フィルダムは大人気なのでした。

◆ ◆


地震の多い日本ではあまり適さないといわれ
事例が少なかったCFRD

でも造られていなかった間にもダムの技術はどんどん進歩していました。

半世紀以上前では出来なかったロック材の十分な締め固めも
今ではAFRD,CFRDに於いて、ほぼ余盛を必要としないほど
沈下量を抑制できる技術が確立されてきました。

ゾーン型フィルダムでも最近は締め固めが完璧で
竣工してから全然、余盛が沈下しなくて天端の中央が
小山のようにかわいく盛り上がったままの事例もたくさん見ています。

日本のフィルダムの歴史を勉強する時に
CFRDの堤体を知らないと〜と、思ってやってきましたが
予想以上に
理屈より
とにかくカッコいいことでわくわくしてしまう
インパクト特大の急勾配の堤体、野反ダムでした。

 

おまけ

現地でまさかの美味しい物遭遇♪


現地でこんな素敵な物見つけたのです。

なんで現地に釣り人がこんなに来ているのかというと
群馬県がニジマスを放流していたからなのでした。


素晴らしいのお天気の日に
美味しい物を
素敵なダムの横で頂くって最高♪