宮川ダム管理室 探検 その4


そして操作室の片隅に簡易ベッド発見。

「これがあるということは…ほんとに防災操作時はここで寝ているんですね」
「はい」
「だからピコピコぶーぶー警報音やお知らせ音で眠れないと…」
「僕はこれは使いません」
「椅子?」
「いや、畳敷きます」
「操作室に畳敷くぅぅ〜?」


操作卓の裏に隠してあった畳。
防災操作時はこれを引っ張り出して床に寝るとのこと。
いや、自分も畳派なのですごくわかりますけど
まさか操作室にあるとは思いませんでした。

そして布団がない当たりで
ただのゴロ寝なんだな・・・と予想。
お布団しっかりかぶって寝たら起きられそうにないくらい疲労蓄積するだろうし
これも防災操作時の宿命なのか。


こんなにサバイバーな宮川ダム管理室の皆様ですが
それは宮川ダムが竣工以来、大変な防災操作を経験してきたことによって
自然にここまで強くならなくてはと自主トレを課してきた結果でもあると思います。

宮川ダムは昭和32年5月に竣工しました。

竣工してから行ってきた洪水調節(防災操作)は平成27年10月までに114回です。
そして、但し書き操作も経験し操作規則の改定も行っています。
宮川ダムの洪水調節方法をご覧ください。

平成4年8月の洪水(台風11号)・平成13年8月の洪水(台風11号)・平成16年9月洪水(台風21号)
と書かれていますが、実際にQin=Qoutまでもっていったのは
平成16年のT0421災のみだそうです。
平成4年のT9111、平成13年のT0111
いずれも但し書き操作移行の連絡も準備もしたけれど
実際には1500t/s放流で耐えきったということでした。


宮川ダムが経験した最も大きな災害
それが平成16年の台風21号
T0421による出水でした。


T0421災の宮川ダムの様子は宮川ダムHP 平成16年台風21号襲来時の写真をご覧ください。

気象庁HPの 災害をもたらした気象事例 台風21号 秋雨前線 で降雨状況もわかります。


流域平均総雨量820mm
これだけを見れば宮川ダムにとってすごい数字ではないのです。
問題は降雨強度でした。


宮川ダムのT0421洪水調節時のハイドログラフです。
T0421ではピーク前後で流域平均時間雨量が80〜90mm/hにも達しています。
短時間にものすごい雨が降ったことが特徴でした。

この降雨でダムまでの道は土砂崩れでふさがれ、あるいは流失し
宮川ダムは10日もの間孤立状態になったのです。


この時、宮川ダムではちょうど選択取水塔を建設するために
工事用の構台が設けられていました。
孤立した管理室に物資を運ぶためにヘリコプター搬送も行われました。

運ばれてきたのは食料もですが
一番大切だったのは非常用発電機の燃料の軽油だったのです。
河川維持流量を利用しての発電設備はこの時、使用不能になりました。
周辺の送電を行っている中部電力の商用電源が停電状態となっていたためです。

ダムだけのために独立して電気を使用する設計ではなかったために
非常用発電機を動かさざるを得ない状態になったのです。


T0421ではここまで水位上昇がありました。

台風が行き過ぎ、下流水位を見ながらの後期放流に
そのまま移行できたならまだよかったのですが
宮川ダム下流では大規模土砂崩れによる河道閉塞で天然ダムが形成されていました。
このため、放流操作は慎重のうえにも慎重に行わなくてはなりませんでした。


T0421災害の後、宮川ダムはゲート放流操作規則の見直しだけではなく
電気系統の見直しも行われました。
非常用発電機の燃料が枯渇しても河川維持流量を利用した発電設備を
商用電源の系統から独立させてダムで電気を賄えるようにしたのです。

これはあちこちのダムで自分が常々感じていることで
ダム管理所が孤立するような災害はほとんどが水害であるでしょうし
横に燃料になる水だけはたくさんあるわけです。
しかしやはり多くのダムで商用電源がダウンすると
この維持流量の発電所からの送電もストップしてしまう仕組みであるといいます。

これをダム操作のために使えたらと思っていたので
各地のダムで積極的に導入してほしいです。
都市部に近くて救援がすぐ来るようなダムのほうが稀なはず。


色々、たくさんすごいお話を聞かせていただいたのですが
一番驚いたのはコロッケでも左手マウスでもなく
降雨予測を気象庁からのデータだけに頼らず
独自に組んだ宮川ダム専用・台風降雨予測プログラムで計算しているということでした。

それがなんとExcelで作られていてVBAなのかと呆然としてしまいました。
降雨予測ってそんなに簡単に作れるものじゃない
非常に高度なプログラムのはず…
それをExcelで作っちゃったとか…
どれだけ体力と頭脳と兼ね備えた人がいるんだ宮川ダム管理室。

過去の出水データを全て分析、入力してあるデータベースに加え
各地の大雨データで流出計算をして調節可能か検討し、出水に挑んでいるのです。


平成27年台風11号のハイドログラフです。
30mm/hを超えてのだらだら降りで非常に嫌な降り方です。
これを完璧なピークカットで抑え込んでいます

平成27年台風15号
こちらは降雨強度がすごい。
最大時間雨量は95mm/h。
流入量の立ち上がりが半端なくシャープです。

数々の経験をして
そのたびに問題点を解決して
ダムとして流域のためにできる最高の仕事をするために
そこで働く人の心はダムのように堅牢で健康でなくてはならないという思いがあるのでしょう。

「このダムで働くために大事なことは1に体力2にサバイバル能力だ」と
取材の最初に職員の方が仰った事がわかるような気がしました。

そしてやっぱり美味しいご飯は大事。
自衛隊の方からどんな時でも美味しく食事をとる技術は必要
それが体力保持にとても大事とお聞きしたことがあります。

本当に心底、サバイバーな方が頭脳と身体を駆使して
このダムを守り操作しておられるんだなぁと
感動体験になってしまった宮川ダム管理室探検でした。

長い時間、いろんなものに興味津々で脱線しまくりながらの取材に
やさしく丁寧に対応してくださった宮川ダム管理室の皆様
本当にありがとうございました。