黒部ダム(栃木) 見学 その3


モニュメントのある場所から堤体を見るとこんな感じです。
落ち着いた良い色の堤体に改修されています。

この時代の表面石積・石張の堤体には曲線にした方が良い理由がありました。
アーチ形にした方が石やコンクートブロックが密着し漏水防止につながるという理由でした。
アーチ形にしておけばダム湖側から水圧がかかった時に石の間が狭まります。

兵庫県の立ヶ畑ダムや広島県の久山田堰堤などは同じように曲線で表面石積み・石張です。
この効果を狙ってのものと考えられます。


ゲートの足元の越流部を見ていてぎょっとなりました。
人頭大の大きな石と粒の大きな砂利が乗っかっているのです。

こ、こんなのがゲート開けるたびに流れてくるのか・・・
こんなのにガリガリ削られたら堤体の傷みって半端じゃなかっただろうなぁ

この間、見てきた三面取水堰堤はコンクリートから鉄筋飛び出すほど削られてたし
南アルプスの寸又川ダムは人がすっぽり入って踊れるくらいの大穴があいてたし

大正元年から頑張っていたんなら凄く傷んでただろうな


一番良く使う右岸の洪水吐にはコンクリートプロテクターが張られています。
耐摩耗性はコンクリートの10倍近いというゴム製です。
洗掘防止効果があります

美しいだけではない土砂と戦っている堤体なのだという事が良く解ります。


ダムの型式の中で重力式アーチは少なく形が美しい事からファンも多いのですが
この重力式アーチに曲線重力式との区分が困難という話がでました。

栃木県の黒部ダムは今まで重力式アーチという事でしたが
土木遺産を選定している書物によるとこれは曲線重力式であるという結果が出ていたのです。

驚いて土木遺産の選定を行っておられる方(大変偉い先生)に質問しましたところ
とても丁寧に教えていただくことができました。

「外観だけで重力式アーチと曲線重力式を見分けるのは無理です」
「設計書に基づいて判断しないと難しいです」
「曲線重力式はダムの安定計算が重力式ダムとして行われているものです」
「重力式アーチはアーチ効果と重力式ダムの安定計算、双方が含まれているものをいうのです」

と、いうことで現在、ダム便覧2007においては重力式アーチとして登録されているダムのうち
栃木県の黒部ダム、中岩ダム 兵庫県の立ヶ畑ダム 宮崎県の芋洗谷ダム
は、重力式アーチではないという事に。

逆に、曲線重力式のダムの中に実は重力式アーチの物があるのではと
ダム便覧2007で各地のダムマニアの方が頑張って集めて下さった写真をひたすら見ました。
こういう事が調べられるのも各地のダムマニアの皆さんが一生懸命ダム巡りをしてくださっているおかげです。

今のところ重力式と言われているけど曲線重力式に区分できそうなダム 10基

新潟県 飯豊川第1ダム
長野県 セバ谷ダム
石川県 九谷ダム
福井県 小原ダム
富山県 小牧ダム
大阪府 新滝の池
大阪府 滝畑ダム
広島県 久山田堰堤
長崎県 菰田ダム
大分県 乙原ダム

今のところ重力式アーチと言われているけれど曲線重力式のダム 4基

栃木県 黒部ダム
栃木県 中岩ダム
兵庫県 立ヶ畑ダム
宮崎県 芋洗谷ダム

今のところ重力式アーチと言われているダム 9基

岩手県 湯田ダム
福島県 大鳥ダム
埼玉県 二瀬ダム
福井県 石徹白ダム
福井県 鷲ダム
京都府 高山ダム
三重県 七色ダム
岡山県 新成羽川ダム
山口県 阿武川ダム

うーむ

重力式アーチが凄く減っちゃた

外見だけで判断できないという事になると凄く大変。
別カテゴリー欲しいな
曲線重力式ってカテゴリーもあったらいいのに。
丁度いい位の数だし
(← 何を根拠に丁度いいのかは本人にしかわからない感覚)

重力式アーチと曲線重力式、いずれにせよ美しい堤体ばかりなので
見に行って愛でるには問題なし。

◆ ◆


黒部ダムを見に行った日の最後に中岩ダムも見に行こうと車を走らせたのですが
どうも堤体を奇麗に見られるところがありません。
地図を見ると国道沿いにTEPCOがありました。
これは直接ここに行くのが一番だろうと飛び込む。

そして中岩ダムを見たいと申し出たところ
フェンスをしてしまったので本当にビューポイントが無くなってしまったのです
と、説明を受けました。

しょげているとおねぇさんが色々資料を探してくださいました。
鬼怒川発電所のパンフレットと市内地図に
鬼怒川・大谷川水系のダム・電源開発推移のペーパーまでくださいました。

TEPCOのおねぇさんありがとー♪


TEPCO鬼怒川ランドの敷地の端に気になるものがありました。
これは改修工事前の黒部ダムのレプリカです。

レプリカといっても使っている材料は堤体から直接もってきたものです。

国内初のコンクリート製発電堤体。
ちゃんと保存してくれてあるのが嬉しいです。


しかしまぁ、なんと姿が変わってしまったのでしょう。
こんなに姿を変えるなんて。
笹流ダムくらい変身していますね。

水力ドットコムのHisa様のレポートでは建設当初の黒部ダムの貴重な俯瞰図が見られます。


貴重な土木遺産・黒部ダム。
落ち着いた色合いと石積みの美しさ。

重力式アーチではないかもしれませんがそれはこの美しさの前ではあんまり重要ではありません。

現役で頑張っている発電堤体です。

奥鬼怒に来られたらぜひ愛でてほしい東京電力の黒部ダムでした。