鏡ダム 見学 その5

堤体を一通り見学させて頂いた後、管理所に伺いました。

先日の台風12号で実際に洪水調節の操作に当たった方からお話を伺います。


まず関連地点の紹介。
鏡ダムの下流には水位観測を行っているポイントがふたつあります。
ひとつは基準点の宗安寺水位観測局。
もう一つは市街地の築屋敷という場所です。


これは鏡ダムのパンフレットに載っている図です。
黄色の線で囲われているのが鏡ダムの集水域です。
黄色で囲われたエリアに降った雨は鏡ダムに集まるのです。

しかし鏡ダムの下流で、鏡川にはいくつも支川が合流しています。

特に広いのが鏡ダムのすぐ下流で西側から合流している
吉原川と的渕川と行川川の集水域です。
上の図で緑色の線で囲われている部分です。
鏡ダムの集水域とほぼ同じ面積があります。

今回はこちらの雨も降り方が大変ひどく、的渕川沿いでは
大きな土砂崩れも発生したといいます。

宗安寺水位観測局で観測されるのは鏡ダムからの水だけではなく
残留域として吉原川、的渕川、行川川他、小さい河川の水も合算されたものになります。

築屋敷水位観測局地点は今回、写真に収めることができませんでしたが
Googleのストリートビューで見る限り市街地で河川敷は緑地や公園になったりしているようです。
そしてこの築屋敷の零点高はEL0.18mという浦戸湾の潮位変化に直撃されそうな標高でした。

宗安寺水位観測局の零点高はEL12.64mですから
台風本体が近くに来て気圧が下がって高潮になっていたら
鏡川流域には大変な被害が出ていたかと思われます。

そう考えるとせめて高潮が来ていなかったのは僥倖といえるのかもしれません。


これはこうち防災情報で見られるリアルタイムダム諸量のスクリーンショットです。
11:50の画面です。

ダム湖への最大流入量ピークは10:15で1422.45m3/sだったそうです。
なので流入量は少しだけ減っていますが
ダム湖貯水位はタイムラグが出ますので増加中。
宗安寺水位観測局も数値も下がっているので
山間部の降雨が少しだけですが減ってきているのが分かります。

しかし宗安寺水位観測局の下流、鏡川橋地点のテレメーターでは水位が上昇中です。
これは宗安寺観測局の下流でもいくつもの川が鏡川に流れ込んでいますし
洪水は上流からやってきますからこれもタイムラグが生じてのことかもしれませんし
浦戸湾の潮位が影響していた可能性があります。


こちらは数字データです。
1時間表示なので最大流入量を観測した10:15の数字は出ていなくて10:00の1397.85m3/sが赤く出ています。
8時から10時にかけての時間雨量が物凄いです。
59mm、83mm、74mmって尋常な雨ではありません。


そして速報版ですがハイドログラフも見ることができました。
全部スクリーンショットしています。

◆ ◆


管理所の方に詳しくお話を聞く前に
素人なりに速報版ハイドログラフから読み取った泣けるポイントです。

台風襲来当日に、高知県出身の方に電話でお話を聞いていたので
潮位に注意して読まないといけないという事は頭に入っていました。

まず@の部分。


これは下流に急激な水位上昇を引き起こさないように
10分で10cmしか水位を上昇させないように
小刻みにゲートを操作しているのです。
もちろん本則操作(操作規則通り)です。

“30分30cm”とダム関係者の方が口にしておられるのを耳にしたことがある人もいるかもしれません。
これは通常10分刻みでゲートの開度を変えていくのでステップ放流と呼ばれます。
大洪水でなくても中小洪水でも行われている事です。

しかし今回のような尋常ならざる大出水でもびしっと
本則操作でステップ放流を決めてくれているのが泣けるのです。
これだけの出水ですから300m3/sまで流入量に合わせて持って行っても
誰も怒らないと思いますが
ここは本則操作で譲れないんだ!!
という気迫が伝わっってくるステップ放流。

「このステップがほんとに綺麗で素敵なんです〜」
「いや・・規則通りなんですが」

と、このポイントについては管理所の方に疑問符を飛ばさせてしまいました。
いやいや、地元、淀川水系の青蓮寺ダムと比奈知ダムが常満超えるまでステップで決めた事例がありましてね〜
と説明をしようと思ったがやめました。
雨の降り方違い過ぎるし。

次にAの部分。


一番気になっていたのがこのAのポイントです。

「高知新聞さんの記事では県知事から満潮時間と重ならないように
放流を調整してくれというような要請が入ったみたいですね。
この部分で絞り込みされたのですか」

「いえ。そういう事はやってません」
「? ここ、流入量より放流量が減ってますよね。放流曲線のカーブ変わってますよね」
「この時、定開度で開けていたクレストゲートの開いている部分の上端をダム湖水位が超えたんです」
「・・・? つまりクレストゲートがオリフィス状態になったと?」
「クレストゲートは4m10cmで開けて待っていた状態でしたので水路放流状態(フリーフロー状態)。
その後、この形に移行します。この変化が起きる範囲を遷移区間と呼んでいます」

「それで水の出方が変わった為にこの部分で放流量の増加率が減ったんですか」
↑簡単に理解したように書いていますが
現場では理解に時間がかかりまして
管理所の方に図を描いてもらったりしてやっと理解しました。

その図をExcelで大変な手抜きで書いてみました♪模式図。

クレストゲートはH9.5m×W9.0mの大きさです。
定開度の4.10mで放流していたのがダム湖水位が上がっていったために
4.1m以下×9.0mで放流していたのが4.1m×9.0mになり
水流の抵抗になる部分が3面から4面になった事で水の出方が変わったのです。

遷移区間では放流量が率として減るというのが放流曲線が変わった理由でした。
もちろんこのままダム湖貯水位が上がっていけばまた一定率で放流量は増加していきます。

読み、大外れ。
一定開度方式をきちんと理解していなかったから
ここでゲートを少し閉めてオーバーカットしたと読んでしまったのです。

普通、よくある洪水調節用のゲート保有ダムの洪水調節方式は
ゲートで調節→フリーフローですが
鏡ダムのクレストゲートの使い方では
フリーフロー→ゲートで調節
だったので勘違い。

あーあー
あーあー
やっぱりきちんと管理所の方にお話聞かないとハイドログラフ見るだけじゃ
素人には読み切れないこと多すぎるなぁ。

そしてBの部分


ちょっとへこみつつ最後の泣けるポイントBですが
小さい図だと分かりにくいので拡大図付き。

「ここは但し書き操作でQin=Qout(流入量=放流量)にされているんですよね。
でも…ちょっとずれて放流量の方が少ないですけど」

「ここが一番苦労した所です」
「おぉぉ!!そうなんですか!!」
「サーチャージ水位まであと1mしかありませんでしたから」
「県知事から鏡川の水位何とか抑えてくれって要請が入っていたから頑張られたんですか」
「実際に但し書き操作をしていたのは10:21から11:10までです」
「それはQin=Qoutの意味ですよね。でも・・その時間ってまだ流入量に放流量が追い付いてませんが・・・」
「はい。追いつくなーというところでちょっと絞ってます」
「つかず離れずで流入量に合わせて放流量絞ってますよね。
12:30くらいまでで、その後はQin=Qoutになって後期放流ですね」

「ここが一番苦労しました」
「だってここ、洪水後半の貯水位高い状態で一番怖いところでサーチャージ水位見ながら
下流水位見ながらの絞り込みでしょう。ある意味、凄い高度なオーバーカットですよね」

一番の泣けるポイントはここでした。
絶妙なゲート操作でQin=Qoutにちょっと追い付かない量でオーバーカットを決めていたという!!

◆ ◆
「えーと・・・お話をお聞きして詳しく知るとあの新聞記事・・・」
「はい」
「但し書き操作ってすごいんだぞ。
但し書き操作してくれたから助かったんだぞって
受け取られかねない書き方だと思うんですが〜」

「・・・そう読めますね…」
「最近は本省や機構のダムでオーバーカットを決めてくれるところが多くなってきましたけど
現場ではそれを但し書きとは呼ばないで別の呼び方で読んでおられます。
現場で“但し書き操作”と言えばQin=Qoutの事ですよね」

「そうですね」
「この新聞記事ではそうは読めないし
“鏡ダムが伝家の宝刀・但し書き操作で洪水被害を回避”
“必殺技・但し書き操作!!”みたいな印象がつくと
ダム操作に対する誤った理解が広がってしまうような気がします」

「それは困りますね」

「それとTV局が取材に来ましたよね。
多分この記事を読んで勉強もせずに取材にきたんでしょうけど…
内容は鏡ダムの活躍を讃えるものだったんでいいんですが
よりによって但し書き操作について本当にとんでもない大間違いをテロップ付きで流したんですよ」

「あ・・TV局来てましたね。所長が対応していました」
「ご覧になっていない?」
「高知はTVのチャンネルが5つしかありませんから♪」
「く、悔しい。それで管理所に取材に来てトンデモ番組の記事にして間違ったこと垂れ流して
現場の方が放送見て確認できないなんて悔しすぎる!!」

悔しかったのでその番組のキャプチャ画面を管理所の方にお見せしたら
ちょっと声が出なくなりました。

不勉強なまま取材に来て間違ったこと流したTVめ!!
管理所の人に謝れ〜!!

いくらメインのメッセージが鏡ダム頑張ったと讃える内容でも
但し書き操作についてあまりにも的外れで頓珍漢な説明をしたことだけは
ダム愛好家として許せない〜!!

私が気にしているのは但し書き操作についての誤解が広がることもですが
ダムが頑張ったことを華々しく報道すると
マニアがこのダム頑張ったーって喜ぶのと違って影響が大きすぎて
“ダムがあるから大丈夫”というダムに対する過大な期待が根付く事です。

実際に竣工してから洪水が起きなかったために下流の人が水害の恐怖を忘れてしまって
Qin=Qoutに移行した後、流域の住民から大変な抗議を受けたダムがありました。

竣工してから神業操作でオーバーカットを続けていた為に
大規模な台風の後に二山目の洪水が来て凄く苦労したダムの事例も知っています。

ダムは無制限に洪水をカットできるわけではない事
限界のある洪水調節装置である事

それをダムに興味を持ってダムの仕事を積極的に知ろうとする人以外に
知らせる役目を担っているのが報道のはずなのに・・・。

でも
今回の鏡ダムの活躍を讃える高知新聞さんの記事は
本当に嬉しかったのです。

細かい用語はちょっと間違っていたけれど
それでもダムが頑張ったことを讃えてくれた記事で本当に読んでいて嬉しかったのです。

高知新聞さん。ありがとう。

そして出水期の中、わざわざお時間とっていただいて詳細な説明をくださった
高知県土木部河川課の方と鏡ダム管理所の方にお礼申し上げます。
不勉強な私に丁寧に教えてくださって本当にありがとうございました。

今年の洪水期はまだ続きますがどうぞご安全に!!

 

おまけ

ハンドルつき黒電話


管理所のコントロールルームで発見。
もちろん現役ホットライン。

ハンドル回して電気作って
相手の電話のベルを鳴らす仕組みだそうです。

黒電話というだけでも凄いのに
これは素敵♪


あと、高知県の職員さんのネームプレートには
カツオ人間がプリントされていた!!
カツオ人間人気者だな!!