ダムナイト9 その1
2019/7/2 更新
春先に、水位を上げ始めたダム湖にやってきました。
ゆっくり上昇していく水に湖岸の植物が水中花のように沈んでいきます。
帝都で行われるダムナイト9で紹介する堰堤の写真が
堤体や設備がよく見える寒々しい時期のものばかりだったので
春らしい新緑と一緒に撮ろうとふらふら出かけました。
まずやってきたのは大河原発電所取水堰堤。
木津川にある関西電力様の堰堤です。
すぐ上流で名張川と木津川の合流しています。
合流点から名張川を500mさかのぼるとゴレンダムの赤、高山ダムです。
大河原堰堤はとても綺麗なメイソンリーフェイシングダムです。
布積みの石張りが最高なのです。
堰堤をじーーっと見ているとどうしても気になるのが右岸側のこの大きなトンネル。
水がさらさら出ています。
このトンネルは建設時の排水路などではありません。
現役の設備です。
堤頂の中央は下流の川幅と同じ長さに欠瀉板が並んでいます。
この幅で越流していきます。
洪水の時は横からも出てると思いますが。
右岸側のトンネルの堤体を挟んで貯水池側に
何かコンクリートの島のようになった部分があります。
ズームしてみると角落としの板を差し込むことができるスリット付きです。
一見すると遺構ですがこれも現役の設備の一部。
そして大河原堰堤に来て堤体を愛でていたら
どうしても目に入るしどうしても気になってしまうのが
この右岸の取水口付近の設備です。
山を挟んで反対側にある大河原発電所に水を送っている
取水口がここだというのは地理院地図などを見ても
はっきり書かれていますし取水口なのはわかるんですが
何故、取水口の周囲を城壁のように壁で囲んであるのかが
他の堰堤でも見たことがない仕組みで戸惑う。
でも、少しダムや水力発電設備を見慣れた人なら気付くことですが
この城壁のような設備の堰堤側、川の流れで言うと下流側に
二つの門が造られていてそこに流塵がたまっているのです。
川の流れに逆らう方向に流塵がわざわざ溜まっているということは
ここから壁の中に水が流れ込んでいるから。
水流に引き寄せられて流塵がたまっているのです。
壁で形成されたプールに水が入り…
壁でほとんど見えませんが下の方にスクリーンがわずかに見えています。
ここでさらに細かい流塵を捕まえて発電所までの水路に水を送り出しています。
上の方に見えているスクリーンは増水時に取水口の設備を
流塵から守るための物かと思います。
と、現地でどうもこれは
「水路の前に設けられるプール」となると問答無用で沈砂池くさいと
踏んでいたのですが証拠になる図面が見つからない。
図書館通い。
国立国会図書館・関西館が近い幸せ。
ひたすら調べていてついに見つかりました。
「京都府の近代化遺産-京都府近代化遺産(建造物等)総合調査報告書-」。
ここに大河原堰堤の図面があったのです。
大河原堰堤及び取水設備各部名称。
貯水池中に沈砂地を設けるという発想。
木津川は淀川3川で宇治川や桂川に比べると圧倒的に砂の出が多い川です。
取水口をシンプルに山肌にトンネルが口をあける形で作れば
砂がどんどん流れこんで水車を痛めてしまいます。
トンネル内に堆砂も進むかもしれません
砂は本川の流れで下流にスムーズに流れてもらう必要があり
上澄みのきれいな水だけをトンネルに導きたいわけです。
取水口を城壁のように囲んで
下流側に取り込み口を造る事で
本川の勢いから緩くなった状態で沈砂池に水が入ってきます。
勢いが弱まる事で砂は沈みやすくなります。
これぞ沈砂地の仕事。
綺麗な上澄みの水がトンネルにどんどん流れて行きます。
そして堰堤の右岸側にぽっかり口を開けていたトンネル。
あれは沈砂地に沈殿した砂を定期的に排出するための
排砂路の吐口だったのです。
考え抜かれた仕組を図面で見てあまりの美しい配置に
考え抜かれた無駄のない設備に鳥肌が立ちました。
竣工年は大正8年で1919年。
今年で100歳になります。
100年前に設計され
100年経ってもきちんと仕事を続けられるこの仕組み。
お世話になっているダムエンジニアの方に報告したら
本当に現地の川を知り尽くした人の素晴らしい設計であると
感動を共有してもらったのでまたまた嬉しくなりました。