T1318襲来時の日吉ダム その4

日吉ダムの話に戻ります。

日吉ダムは下流の河川整備が遅れているために
平成9年に竣工してからずっと暫定操作をしています。


建設時の計画では最大500m3/sでピークカットすることになっていましたが
下流の亀岡から洪水をなんとか防いでほしいという声が強く上がり
なんとなんと150m3/sでピークカットを実施し続けてくれているのです。


これは淀川水系に甚大な被害を出したT5313と同規模の降雨を想定した
日吉ダム暫定操作をシミュレーションしたハイドログラフです。

この図をwebで見つけた時に鳥肌が立ちました。

そっくり・・・
今回のT1318のハイドログラフとそっくりだ・・・

今回の日吉ダムの操作はこの流域で既往最大の出水であった
T5313のシミュレーションとそっくりだったのです。

最大流入量は
T5313シミュレーションでは1430m3/s
T1318では1690m3/s

貯め込んだ水の量は
T5313シミュレーションでは4200万m3
T1318では4460万m3

T5313シミュレーションよりもT1318の降雨が上回っています。


では日吉ダムの洪水調節時のハイドログラフを見てみましょう。


150m3/sでピークカットをしているのがとてもよくわかるT1112のハイドログラフ。
流入量よりも常に少ない放流量で150m3/sでぴしーーーーっとカット。
これが日吉ダムのスタンダードな洪水調節時ハイドログラフです。

そして水資源機構のダムは常に「ダムにできる最大限の治水」を念頭にダム操作を遂行されています。
それがよく分かるのがT1115のハイドログラフ。
降雨ピークを予測で読み切り、実施したのはバケットカット(鍋底カット 不定率調節方式)です。
暫定の150m3/sから更に絞り込みを実施して60m3/sまで放流量を減らしました。
バケットカットは下流に対して効果絶大です。
ダムの持てる力を全て出し切れ

容量のすべてを使って下流を守れ

それが水資源機構のダムに課せられている至上命令なのです。

その命令を遵守すべく
水資源機構のダムは日々、過去の洪水データを分析し
現在できる最大限の貯水池運用について検討し
最適操作を追及し続けています。


そして最適操作を追求し
可能な限り貯め込むという方針の下
既往最大の降雨と戦った結果がこのT1318のハイドログラフです。


上の二つのハイドログラフとまず見比べてほしいのはグラフの左側の流量の目盛。
T1112は500m3
T1115は600m3
T1318はなんと2000m3!!
グラフの目盛の次元が違う。


どうしましょ。
ホントに凄すぎて泣けるポイントが多すぎて困る。

日吉ダムのサーチャージ水位はEL201.0m
それを上回るダム湖貯水位 EL201.87m
クレストゲート上端はEL202.391m

クレストゲート上端との差はわずかに50cm。
風雨で波が立てば超えてしまうほどの差でしかありません。
クレストゲートの上を水が越えることは避けなくてはなりません。


日吉ダムの設計洪水位はEL203.700m
これはクレストゲート上端EL202.391mよりも高いのです。
つまり、クレストゲートを少し開けてもまだ貯め込むことを想定して
設定されている水位なのです。

設計洪水位まで使う事を覚悟していながらも
クレストゲートを開けずに
波が立てば超えるかもしれないぎりぎりのこの水位
EL201.87mまで上げたのです。

ここまでやるのか
これが水資源機構のダムの洪水調節か
すべての容量を治水に使うとはこういうことなのか

感動という言葉で言い表せないほどの
素晴らしい洪水調節。

しかしこれほどの貯め込みを敢行して
ついに貯水容量を使い切る寸前になり
異常洪水時防災操作(但し書き操作)への移行が決断されます。
ハイドログラフで緊急放流操作と書かれているところです。

亀岡(保津橋水位観測所))水位を見て低下を確認
嵐山地区渡月橋(天龍寺水位観測所)水位を見て低下を確認

どれだけの水なら流しても下流に被害がないか
計算に計算を重ねて出された数字。

それは500m3/s

暫定操作をしているのでなければ流せる量。
建設計画時に放流量として定められていた500m3/sとほぼ同じ
504m3/sだったのです。

そして今回のT1318では
クレストゲートを開けませんでした。

コンジットゲートだけで対応しました。

異常洪水時防災操作においても計画以上の放流はしないのだと
水資源機構のダムとして
Fを冠されたダムの誇りにかけて
この放流は実行されました


そして放流量を504m3/sを上限として放流したのも束の間
流入量に追い付くという時に放流量をぴったり合わせて
暫定操作の150m3/sまで持って行っているのです。

異常洪水時防災操作で流入量=放流量にしています。

現在の下流河川の整備状況から150m3/sを絶対目標としているのです。

ここはもう泣くしかないという凄い操作です。

可能な限り放流量を絞る
異常洪水時防災操作であるからと1分の甘えも許さない
ダムのすべての容量を治水に!!

物凄い気迫が伝わってくる洪水終末までのグラフです。

結果、保津橋地点においても天龍寺地点においても
当日観測された既往最大の最高水位を超過させることなく
安全に放流は行われ完璧な運用で対応することができました。

神か!!


洪水時は別の顔ですが普段はこんなにのどかな日吉ダムの天若湖です。


たくさんのお水をためてのんびりしている顔はいいですね。


竣工してからずっと洪水と戦ってきました。
そして利水を担い大切な水がめとして仕事を果たしています。

洪水調節で注目された2013年。

でも日吉ダムはきっと思っています。

僕がこの場所にあることで
水辺を楽しむ人がたくさん来てくれたら嬉しいのです

僕がここで水を食い止めたことで
下流の浸水被害が少しでも少なくなったら嬉しいです

そして
ダムですから
安全安心なお水をたくさん貯めて
送り出せることがとても嬉しいのです

台風で濁ってしまったお水も
12月末になってやっと綺麗になりました

南丹市に来たら会いに来てくださいね
温泉もあるし
地元の食材を使ったダムカレーも
ダムカードもあるんですよ

来年もお仕事頑張ります

いつも控え目にストイックに
これだけ凄い事をやったのに
けしてそれを自慢するわけでもなく
ただ、お勤め果たしただけですと

だからダムに惚れちゃうんです。

男は黙って背中で仕事を語る
ダムも黙って背面で仕事を語ってくれる
なので我々ダム愛好家はダムの背面を愛でるのかもしれません♪