琵琶湖総合開発

2006/1/16 記

琵琶湖総合開発というのは昭和47年から平成8年までの25年を計画期間として実施された事業です。

琵琶湖総合開発とは

琵琶湖の水質や恵まれた自然環境を守るための保全対策
琵琶湖周辺の洪水被害を解消する為に治水対策
琵琶湖の水をより有効に利用できるようにする為に利水対策

をいいます。

その中でも治水に関わる事業は琵琶湖開発事業として進められてきました。
琵琶湖は明治期から治水・利水の為に開発が行われてきました。

その事業の中で最も重要な施設が瀬田川洗堰です。


治水・利水ダムと同じ様に働き、 日本で最も操作が難しいであろう堰です。


瀬田川洗堰が非常に操作が難しい堰である理由を理解するには
琵琶湖の治水の歴史を知らなくてはなりませんでした。

琵琶湖は国内で最も大きな湖です。
流入河川は小さな河川まで含めると実に460本を越え
直接琵琶湖に入る一級河川が121本という湖です。

集水面積は3,174km2
貯水量275,000,000m3

しかし琵琶湖から出るのは瀬田川と人工河川・琵琶湖疏水しかないのです。


これは旧水資源開発公団が発行していた『水湖とともに』という 冊子の裏表紙の図です。

青い線で囲まれているエリアが淀川水系の集水区域。
赤い線で囲まれているのが琵琶湖・淀川水系からの給水区域です。
少し緑にぼかしているエリアが琵琶湖の集水区域です。


滋賀県全域に雨が降ればその水は一様に琵琶湖に流れ込み、水位はどんどん上がります。
しかし瀬田川1本しか出ていく川がないのですから水はゆっくりしか退いていきません。
流れ込んだ分だけすぐに流れ出ていかないのが琵琶湖の地理的特性です。

その琵琶湖の出口に作られているのが瀬田川洗堰です。


瀬田川洗堰は瀬田川の始点に設置されています。
琵琶湖の水はすぐに下流にある天ヶ瀬ダムに流れ込みます。


琵琶湖から瀬田川が出て来て数km、峡谷になっている場所があります。
鹿跳渓谷という場所です。
天ヶ瀬ダム・鳳凰湖までのこの区間は急激に川幅が狭まっています。
瀬田川は狭く浅い川なのです。

山岳部で狭隘な渓谷等があるとその上流で浸水が起きやすくなります。
急峻な渓谷などは勾配もそれなりにあり、一気に水が下流に流れていくイメージがありますが
勾配よりも狭くなった事で水の流れは悪くなります。


通常時

降雨時

台風などで広域に大量の集中的な降雨があると浸水被害が出るのは
都市型洪水に限った事ではありません。
上流部でもおきる事なのです。

大河川の場合は源流から海に到達するまでの間に渓谷や都市部を抱える所もあります。
渓谷の上流に都市が形成されている場合はこの渓谷が理由で浸水被害が出ることがあります。
淀川流域では三重県の上野市がそれに相当します。
上野市を通る木津川の下流には岩倉峡という渓谷があり
ここを開削しない限り上野市は浸水のリスクが高くなるのです。
現在、上野市には浸水対策として遊水地ができています。

琵琶湖の場合は鹿跳渓谷があるために広域に大量降雨があった場合でも
その水が一気に下流に流れ下るという事はありません。
 

そして琵琶湖の水位が上がる事で琵琶湖の湖周に住んでいる方の田畑は水没し
中々水が引いていかないことで稲作、畑作に重大な影響を受けることになります。
明治29年(1896年)9月に起きた水害は観測が始まってから最大のもので
琵琶湖の水位は3.76mも上がり、通常の水位に戻るまでに237日もかかりました。
このときの降雨量は10日間で1008mm、滋賀県の年間降水量の約半分だったそうです。

洪水の後に速やかに水位が平常に戻るようにする為に
瀬田川がたくさんの水を流す能力を有する事が湖周の人々の願いでした。

 

どうすれば速やかに水を流す事ができるのか。

 

琵琶湖の水位が大量の降雨の後に少しでも早く退くように
現在の洗堰周辺(琵琶湖からの水の出口)で浚渫をしてはという方法が検討され始めました。

しかし琵琶湖の水は淀川流域にとって重要な資源です。


こちらは国土交通省 近畿地方整備局 淀川ダム統合管理事務所が発行している
「雨と水とダムとくらし」の中に掲載されていた図です。
流域面積に対して如何に人口が集中しているかが見て取れます。


無駄にただ流してしまってよいというものではありません。
速やかに流出する事ができ、なおかつ必要な水位を保つ為に計画が練られていきました。

明治期には洗堰の上流にあった大日山という山の開削が行われました。
さらに瀬田川に堰を作って水の量をコントロールするという計画がだされ
明治38年に初代の洗堰である南郷洗堰ができました。
明治42年の大規模な浚渫で流出水量は堰がなかった時の4倍にまでなりました。

水をコントロールするという近代的な総合開発が動き出したのです。


しかし琵琶湖に注いだ水が速やかに流れ出る事に反対する声がありました。
それが下流域の住民でした。

“琵琶湖の水を流されたら我々が洪水被害にあう”

“そんなに水が来たら沈んでしまう”

瀬田川の水位上昇はそのまま下流の宇治川の水位上昇に繋がります。
そこで最も危険なのは大阪府枚方市の一部と
京都府宇治市塔ノ島という場所です。


宇治市塔ノ島という場所は国宝である平等院のすぐ近くです。
この場所は宇治川の水位が急激に上がると浸水する危険性が最も高い場所です。

 

その為に洗堰ができてからも広域に大量の降雨があった時は洗堰をまず全閉するのです。
そして下流域の宇治川の水位が下がってから流す為に琵琶湖周囲の住民の
洪水被害は必ずしも克服できたとはいえない状態でした。

 

琵琶湖の湖周の人々の生活を守りつつ
下流の人々の浸水被害も起きないようにしなくてはならない。

安全に水を出す方法

琵琶湖の治水事業は次のステップに進む事になります。