T2307 その2

池原ダムと風屋ダムは利水ダムしか無い新宮川(熊野川)水系で
治水協力を強く望まれ、それに応えています。

毎年、実際にどんな運用が行われたかの報告が公開されています。

ダム運用の実績・検証・改善等について 2023年7月

これは紀伊半島大水害後にでんぱつ様が治水協力のための
水位低下、つまり事前放流ですが、その判断基準を示したものです。

紀伊半島大水害の後、下流の要請に応えて
H24年6月 操作規則改定により
それまでの予備放流水位をEL315.8mからEL315.5mに変更しました。

そこから降雨予測に基づき
目安水位 EL312.0m
現行目安水位@ EL310.5m
現行目安水位A EL309.0m
のいずれかまで貯水位を低下させます。

満水位から目安水位まで貯水位低下させる4800万m3/s
現行目安水位@まで低下させると +1100万m3/s
現行目安水位Aまで低下させると  +1100万m3/s
合計7000万m3/sの治水協力容量です。

日本ダムアワード2015で発表した池原ダムの治水協力では
まさにこの3時間の遅らせ操作を実施して
その後、発電ダムとしての役目を果たすべく
貯水位を回復させるまでのプロセスを紹介できました。

ダムアワード2015の発表原稿の一部です。
この部分は現在の開始判断基準と同じです。

標準操作は池原ダムの本側操作と思っていただけたらと思います。

本側操作があるにもかかわらず遅らせ操作の時間を拡大して
最大3時間までのばすという特別な運用です。
※資料の暫定目安水位@とAは、2022年に現行目安水位@とAに名称変更されています。

T1511(2015年台風11号)で実際に3時間の遅らせ操作をしたハイドログラフになります。
◆ ◆

しかし、2018年にはさらにそれよりも凄い操作を見ることができたのです。

あまりに感動したので「台風一過の池原ダム」というレポートに書いたのですが
数字が間違っていましたので修正して再掲します。

2018年(平成30年)8月23〜24日
T1820(平成30年台風20号)襲来時の池原ダムのハイドログラフになります。

T1820は、台風進路、降雨予測より、最大4000m3/s程度の流入予測が出ていました。

確保した空き容量を使って下流への放流量低減に努めるべく
「池原ダムの洪水量、1500m3/s到達時に、暫定目安水位@のEL310.5mを確保できる
ように、早めにフル発電体制を取り、水位上昇を抑制」
したのです。

※T1820時はまだ暫定目安水位@とAと呼称


@まず8月23日未明 台風の降雨で少しずつ流入量が増えていきます。

ただ、この時は発電ダムとしては悲しいのですが、あまり水位が高くなくて
暫定目安水位@のEL310.5mの約10m下のEL305mでした。
でんぱつ様に教えて頂いたところ、8月22日00:00でEL304.45mだったそうです。

シンプルに考えれば、1類の発電ダムなのですから降雨初期はひたすら貯留
流入量に対して3時間遅れの遅らせ操作をしてピークをカットすれば良いのです。

 ※ この3時間の遅らせ操作というのはとんでもない凄い数字です
 ※ 通常、1億m3超の貯水池をもつダムでも遅らせ操作は30分くらいです。
    1時間も遅らせるところはそうそうありません(でんぱつ様のダムを除く)
 ※ なので池原ダムは次元が違うので他の発電ダムと同じではないと認識してほしいです。


しかし、最大4000m3/s程度の流入予測が出ていました。
用心するに越したことはありません。

ということで暫定目安水位Aよりも更に水位を下げるという判断がなされたのです。

A池原発電所の最大使用水量は342.0m3/sです。
いきなりこれだけの量を使って発電するのではなく
下流河川の水位を見ながら決められた増加量で少しずつ水量を増やしていきます。

Bここの部分がフル発電で貯水位の上昇を送らせていた部分になります。

Cフル発電で貯水池の水上昇を抑制していたために
池原ダムの洪水量、1500m3/sに到達した時にも貯水位はEL308m前後でした。
かなりの余裕を確保しました。

しかし、この後、4000m3/sの流入予測です。
安心はできません。

D23:00から00:00の間に徐々に放流量を増やし始めます。
1類のダムならではの遅らせ操作の開始です。

放流量が洪水量の1500m3/sに到達したのは01:00から02:00の間です。
スタートがEL305mと低く余裕があったとはいえ、なんと、5時間も遅らせました

Eそして日付が変わって24日。
流入量のピークが過ぎて流入量が減り始めました。
最大流入量は24日01:00時点の3580.0m3/sでした。

降雨予測、4000m3/sには届かなかったけれどかなり予測の精度は高かったと思います。

Fピークを越えたらピークカットに移行します。
5時間遅らせた上にピークを半分以下に抑えています。

Gその後も流入量よりぐっと絞った放流量で凌いでいます。
下流水位を抑制しつつ、貯水位を回復させる技。

貯水位はついにEL315.0mに届くか届かないかまで上がりました。
予備放流水位まで回復です。
幸せ水位♪

H雨域が移動して降雨が収まりました。
後期放流に移行しましたが、そんなに長く続けることなく。
流入量と放流量を同じにして無駄なくお水をためています。

I24日の15:00からは、また発電放流です。

5時間の遅らせ操作ってもう次元が違い過ぎて他のダムと比べられないのです。

◆ ◆

紀伊半島大水害の前は30分だった遅らせ操作を暫定的に最大3時間に拡大し
高度な予測をもとにT1820では5時間の遅らせ操作まで展開した池原ダム。


T2307では事前放流を行い
暫定目安水位AであるEL309mから4mも下げてEL305mまで水位低下しています。

これは今回のT2307の降雨予測がT1820に匹敵するほど大きく
台風がゆっくり進んでいて時間に余裕があったために可能であったのであり
毎回ここまで下げることができるわけではありません。

今回の台風襲来前の最低水位は8月14日21:00のEL304.45です。
7000万m3+αの空き容量を確保し、万全の体制で
発電放流を段階的に増やしてゲート放流に備えます。

8月15日02:00頃に流入量は池原ダムの洪水量、1500m3/sに到達します。
それに対して約4時間遅らせて06:00に放流量が約1500m3/sに追いつきました。

ここで、遅らせ操作をそのまま続行したかというと
1500m3/sになった後、3時間もそのままで耐えているのです。

そして流入量がピークを打った後に1650m3/sで3時間耐え
その後、貯め込みに入りました。

この操作で予備放流水位のEL315.0mまで水位を回復させているのです。

ダムとして
流域の人のためにできること
役目の発電をおろそかにせず
全方向に満足できる結果が出ているハイドログラフです。

流石、池原。

◆ ◆

池原ダムと共に事前放流を行って治水協力しているのが
十津川筋にある風屋ダムになります。

風屋は“かぜや”だというのに川の防災情報では“かざや”だし
“(電発)”の読み仮名が“はつでん”だし、微妙に間違っているのが気になる。   


風屋ダムも紀伊半島大水害の後、現行目安水位を設けて事前放流を実施しています。
遅らせ操作も2時間で実施しているのだろうなということが
T1511のハイドログラフでも読み取れます。

風屋ダムの貯水池も大きいですが池原ダムに比べると半分くらいなので
現行目安水位まで貯水位を低下させて確保できる容量は2800万m3になります。


池原ダムが5時間の遅らせ操作を見せてくれたT1820では風屋ダムも
貯水位を下げて迎え討ち、放流開始は半日近く遅れています。

これは、クレストゲートしか持っていない利水ダムでよく見られる現象です。

ゲートの越流標高EL281.7mまで貯水位が上がるのを待っているのです。
結果的にものすごく貯留していることは言うまでもありませんが。


T2307の風屋ダムのハイドログラフになります。

ちょっとまって

その1000m3/sでの横引き

完全に一定量放流の洪水調節のハイドログラフなんですけどぉぉ!!!


放流量を1000m3/sの一定量でぐんぐん貯水位を回復して
流入量のピークが過ぎて放流量と同じになってからは
ずっとQin=Qoutにしています。

◆ ◆

そして

時代は変わったなぁぁ…

総貯水容量1憶m3超えダムでしかできない超強力な治水協力・防災操作の
ハイドログラフをでんぱつ様がプレスリリース♪♪

令和5年台風第7号に伴う池原ダムと風屋ダムの出水状況

ハイエトグラフも付けてくださって
各水位標高もばっちり記載されていて
素晴らしい。


こちらは池原ダムのハイドログラフ。
なんと約7470万m3の貯留!!!


こちらが風屋ダムのハイドログラフ。
池原が凄すぎるのでかわいく見えますが約3380万m3の貯留です。

ちなみに日本一洪水調節回数が多いのではといわれる
和歌山県の七川ダムの総貯水容量が3080万m3です。
池原と風屋の貯留キャパシティがどれだけすごいかイメージ出来るでしょうか。

下流水位の低減の治水協力
貯水位完全回復して発電ダムとしてお役目を果たす

池原ダムと風屋ダムの凄いお仕事が見られたT2307だったのでした。