土木遺産展2018 in 狭山池博物館 その3


そしてまさかこのお話を詳しく講演で聞けるなんて!!
と、一番聞きたかった殿山ダムの運用と治水協力のお話です。


河川の従前の機能の維持。
一類に指定されたダムが行う遅らせ操作。

これ、ほんとに理解してもらうのが難しい。
どう説明したら分かってもらえるのかいつも考える。

スライド写真右側の「洪水伝播速度の増大」はまだ説明しやすい。
川には水の流れを妨げ抵抗になる岩も砂も植物もあるし
河道を満たすにも時間がかかる。

だから自然河川の状態だったら
洪水が到達するのにそれなりに時間がかかっていた物が
ダム湖になると突然洪水の到達時間が短くなってしまうという現象が起きる。

貯水池が形成されることで水の移動速度は水深が深くなればなるほど
早くなるという大原則があるから洪水到達時間が早くなるという事で
説明しても納得してもらい易い。

理解してもらいにくいのは左の図。

「自然河川の場合、下流に行くほど洪水波は平滑化し、最大流量は減少する」

利水専用ダムの操作では、流入量=放流量(Qin=Qout)にする操作が行われるので

「ダム貯水池の流入波形がそのまま下流へ伝播する」

この図は河川六法やほかの文献でもよく使われている図なんだけど
なんとも伝わりにくい。

ダムの下流は残留域からの流出で最大流量は
河口に向けて流れていく時にどんどん加算されて
増えていくものじゃないのかとイメージするので余計に混乱する。

河道における水のボリュームは=水位で形になると思うのです。
文の表現として
“下流に行くほど洪水波は平滑化し、最大流量は減少する”というのは
“下流に行くほど川幅が広がり洪水波は平滑化し、残留域からの流出で最大流量は増加していくが水位は低くなる”
なんじゃないのかな〜と思ってます。

ダムというか貯水池があることで起きる現象は
貯水池の流路分、貯水池の長さの分だけ
自然河道であれば平滑化するところが
Qin=Qoutにすることで平滑化が起きないという事だと思うのです。

うーん うーん
頭、賢くなりたいよぅ。


そしてまさかのハイドログラフでました。

めっちゃまじめに書かれたハイドログラフに感動。
そーそーそーそー
そーだよそーだよ
本来、滑らかな曲線にはならないからね
ゲート操作でチビっとずつ放流量操作だからね
なので階段状になる
めっちゃまじめに
操作に忠実に書かれた模式図ハイドログラフだぁぁぁぁ♪


殿山ダムは一類のダムだから
まず予備放流をして容量を確保
目標水位まで低下させたらQin=Qoutへ
流入量が増加して洪水量に到達したら遅らせ操作開始!!
そして流入がピークを迎えたら遅らせ操作分のマージンで計算して
ピーク分はそのままカットしてQin=Qoutに移行
そして洪水量を下回ったら後期放流を視野に貯水回復
これが一類のダムの操作だぁぁ♪


これは日本ダムアワード2017で発表したスライド用に準備したT1721の殿山ダムのハイドログラフです。
和歌山県の河川情報のリアルタイムをスクリーンショットして記録したものをつなぎ合わせています。


なんでこんな高度な操作ができるのかというと
殿山ダムが生まれながらに備えていたこの重装備。

クレストにドロップゲート6門
オリフィスゲート6門という重装備

これがあるからできる操作というものがあるんです。


これは台風経路図です。

もう和歌山県、紀伊半島、台風凄いから。
いや、日本全国台風来ないところなんてないけど。
最近は北海道も台風被害大きいし。

日本全国、台風はくるけど勢力強い時に直撃喰らい易いのは
やっぱり、沖縄・九州・四国・紀伊半島。


台風がどの位置に来たら予備放流を開始するかという規定のエリア図。

でんぱつ様の池原ダムでも同じように放流操作の規定があります。
ただ、池原ダムは3億3800万m3という超巨大な貯水池を持ち
治水協力容量として洪水期には3000万m3もの空き容量を
紀伊半島大水害の後は確保してくれています。

殿山ダムの総貯水量は2500万m3です。
池原ダムのような莫大な空き容量確保をしてしまったら
エネルギーを生み出す仕事ができなくなってしまいます。

そこでこの生まれながらに備わった重装備をフルに活用し
竣工してから積み上げられた知見、英知を総動員し降雨予測を行い
ゲートの高度操作を実施することで一類のダムとしての使命を果たしているのです。


これも日本ダムアワード2017で発表したスライドの中の1枚です。
超大型台風に備えて殿山ダムは予備放流水位のEL112.0mまで貯水位を低下させます。
しかし実際はEL112.0mよりもっと水位を下げていた事をリアルタイムで確認していました。
なんと108.98m。
オリフィスゲートを使ったことは図面を見て想像できましたが
最低水位より下げるって・・・。


その疑問に答えてくれたのがこのスライドでした。
和歌山県からの要請があったとき、治水協力水位として
EL109.0mまで水位を低下させるという操作が行われていたのでした。

うわーっ
すっきりしたーっ
すっごくすっきりしたーっ

これが殿山ダムの治水協力の証しだったんだーっ♪


治水協力に関連した国交省の施策に関する説明です。

ダム再生〜地域経済を支える利水・治水能力の早期向上〜

国土交通省が平成28年に掲げた「生産性革命プロジェクト」の一つであり
ダムにおいて「賢く整備」×「賢く柔軟な運用」を実現することで
既設ダムの利水・治水能力の向上を図るもの

だそうで、再開発の嵩上げとか放流設備増設とかが「賢く整備」
洪水時には予備放流、渇水時には治水容量を利水にまわすなど
貯水容量を無駄なく活用するのが「賢く柔軟な運用」

とってもいいことなんですが
水道専用は絶対に手を出せない範囲だからと言って
発電用利水ダムにばかり無理に治水容量を確保してと言われると
悲しくなります。

発電用利水ダムのお仕事はエネルギーを生み出すお水を蓄えることなんで。

それより降雨予測の精度がもっと上がって
お水を無駄にしない放流操作ができるようになることに期待大です。


本日の講演のまとめ。

水力発電、維持管理大変だけど素晴らしいエネルギーなのです。
多くの人にエネルギーを生み出すことを仕事にしている
利水ダムと発電所のお仕事知ってほしいです。


講演の後、無理やり記念撮影してもらっちゃいました。

お客さんからの質問のひとつひとつ

多分堆砂のことを言っているんだろうなという質問
コンクリートは経年劣化で強度はどんどん落ちていくものだと思い込んでいる人の質問
利水ダムの操作を知らない人から出た洪水時には水をためろという意見
治水協力と洪水調節の違いがわからない人の質問
水利権があるから水をただで使っているんだろうという思い込み発言(使用料払ってます!!)

かなりあさっての方向に向いていて理解しにくい質問とかもありましたけど
こういう声の全部に対していつも理解してもらえるように
電力会社の皆様は説明を頑張っておられるんですね。
大変だ。

色々でた意見の一つの中で
「こういう講演をもっとほかの場所でもぜひやってください」
という声に個人的に一番うんうんと頷いていました。

何度も言いますが
“発電専用ダムの治水協力を当たり前と思わないでください”
という事をお伝えしたいです。

自分も勉強して
ダムについて誤解されやすいところを
分かってもらえるレポート書いていかねばと
気合を入れた、土木遺産展の講演でした。

和歌山電力部の松田様、素敵なお話をありがとうございました。