起伏堰の事 その3

2011年の12月に京都大学にどぼくカフェ wDNでお邪魔した時に
どぼくカフェを主催しておられる先生に工学部のコレクションを見せて頂きました。


資料室に入ってすぐの所に立派な脚付台で鎮座していたこの模型。

見た瞬間に飛び上がって喜びました。

起伏堰の模型や〜♪

凄く立派な模型から伝わってくるもの

工学部が帝国大学の花形であった時代の空気
すぐれた土木建造物の為に国家が取り組んだ空気
精緻な模型から伝わってくる技師の心意気

おさわりして良いのか確認してそーっと動かす。


ちゃんと動きます!!
長柄起伏堰と同じシステムです。

この構造の堰は『楯堰(パスコー堰)』というものなんだそうです。
確かに楯ですねっ!!


この溝が優れモノなんです。
あああ。
動画で説明したいけど私には無理。

現場で舞い上がっていたので模型の裏までチェックできず
この模型がいつ作られたのか
どこの起伏堰の模型なのか
調べきることができませんでした。
機会があればまた見せてもらいたいです。


水の力で
空気の力で
電気の力で
危険な作業なしに水位を容易に調節することはできないか

という事で起伏堰は進化していきます。

昭和39年、国内初の新しい材質の堰が登場しました。
ゴム引布製起伏堰です。


これは九州電力・槇之口取水ダムです。
ゴム引布製起伏堰、いわゆるラバーダム、ファブリダムです。

ゴム引布製起伏堰ってなんですか?という方はゴム引布製起伏堰技術基準をご覧ください。

新規で作られることも多いですが古い取水堰堤の改修でゴム引布製起伏堰になる事例も多く
この槇之口取水ダムももともとはコンクリート製の堰堤があったようなのですが
ゴム引布製起伏堰変わったようで周辺の沈砂池は大変年季の入った
苔むしたコンクリートであったりします。

※ラバーダムはブリジストン社の商標です
※ファブリダムは住友電工の商標です
※空気でなく水を注入するタイプもあるそうです

ゴム引布製起伏堰というと自分の場合、関西在住という事もあり
ポンと頭に浮かぶのは丸島アクアシステム様です。

ICOLD2012Kyotoでも技術展示会でブースを出しておられたのですが
お話しするのに夢中になってパンフレットをもらうのを忘れるという大失態をしていたので
それを口実に本社にパンフレット入手目的で行ってきました。

最近登場した鋼製の扉体とゴムの袋体のハイブリッドタイプの
施工事例などをお聞きすることができました。

写真を撮りに行きたいことをお話ししたところ
ハイブリッドタイプでも越流していると肝心の袋体が見えないので
しっかり見るなら越流していないときか工事中でないと・・・
というアドバイスを受け、近辺を捜しましたがダム便覧のようにデータベースがなく
各メーカーさんのHPの施工事例を漁っていました。

ダム仲間でTHE SIDE WAYの管理人、あつだむ宣言!様は無類のゴム引布製起伏堰好きなので
いい物件を知っているかもしれないとお聞きしたところ
なんと、工事中の写真も持っているという事でお借りしました。


じゃん♪あつだむ宣言!!様の提供写真。
これがハイブリッドSR堰の越流の様子です。
岐阜県は宮川の某堰堤。
この通り、本川で常時越流する場所に造られていると概要が全く見えません。

で、同じ宮川のハイブリッドSR堰工事中写真。
こういう貴重なものを怒涛のダムめぐりの間にちゃんと押さえてくださっているのでありがたいです。

どういう造りかよく分かる写真。
鋼製の扉体の下にぺたんこになっているのがゴムの袋体。
工事中なのでゴムが膨らまない状態で扉体が立っていますが
竣工したら扉体を立てるのは袋体のお仕事です。

越流していると本体が見られないのでなかなか諸元を知っていないと
見つけにくいハイブリッドSR堰ですが
また袋体がぷくぷくで越流が少ないか、していない時に
見られたらいいなと思っています。

自分がハイブリッドSR堰を知った時に凄くわくわくしたのは
“空気の力を使って鋼製ゲートを動かす”という点でした。

そこに何を感じたのかというと起伏と転倒に空気の力と水の力を使うという
ベアトラップゲートと同じ要素だったのです。


色々な堰を調べていてちょっと悲しくなったのは
あの革新的な大河津分水のベアトラップゲートは国内に一つも残っていないという事でした。

ただひとつだけ作られ
5年で造り変えられてしまったベアトラップゲート。

もし他の地盤が良い場所で造られていたなら
もっと長く働けたのかもしれない。
土木遺産としてその扉体も残されていたのかもしれないのに。

そして
長柄起伏堰も竣工してから5年で役目を終えて後継に仕事を任せています。

操作の難しさが技術の進歩を生んだのでしょうか。

今の技術が確立される前に

その時代に
その場所に
当時の技術者の力のすべてを注ぎ込んだものが存在していたこと

今はロストテクノロジーとして振り向かれなくなっているとしても
それを追いかけ調べることは土木を勉強する上でとても大切なことだと思います。

なので
最新型のハイブリッド堰も見たいけど
歴史ある堰もしっかり勉強して
できる事ならちゃんとフィールドを調べて
また順次追加していきたいと思います。