建設技術展 近畿 2012 その4

そして裏側のスペースに移動した途端

目に飛び込んできたのがこのポスター。

見た瞬間に止まってしまいました。

紀伊半島大水害

そう名前がついたんですね。

あの台風12号の災禍にはそう名前がついたんですね。


今年初めの土木学会による台風12号被害調査報告会で概要は勉強しています。

既往最大の降雨
長い時間降り続いた雨
その時間の長さが紀伊半島南部にこんなに甚大な被害をもたらしました。

山、崩壊
道、途絶
大洪水

ありったけの災害が和歌山県を三重県を
そして奈良県を襲いました。

気象災害史に残るあの十津川大水害を上回る災禍でした。


このポスターは近畿地方整備局が実際の活動をまとめたものでした。

災害の最前線で頑張ってくださった事の記録です。


紀伊半島南部を中心にこれだけの広域に
土砂崩れ、河道閉塞、浸水、流失、落橋、倒壊と被害が出たのです。


救援に駆けつけようにも橋が落ちて通ることができない。
一日も早く橋を架ける。
仮設橋は鉄の橋です。
災害後に最も早く架けられる強固で軽い橋。


そして浸水した地域は水位を下げるためにポンプを設置します。
土砂が流下してきたために上がった川底は浚渫して掘り下げられます。


浸水被害から住宅地を守るために設置された陸閘を乗り越えた水。
考えられない水が押し寄せたのです。


陸路だけではありません。
川から大量に流れ出た流木をはじめ瓦礫や倒壊物は漂流物となって港を埋め
船が接岸することを妨げます。
これに対しても国土交通省は頑張りました。


道路が寸断され、通信も定かでなくなってしまった山岳部で
ヘリコプターが災害の起きている場所を探します。
これで多くの河道閉塞が発見され、その対策が迅速に講じられることになったのです。


大規模な深層崩壊が多発した山岳部。
崩壊地の下には人の暮らしがあります。
避難指示のもとになったのはその崩壊地に入って危険度を調査した人の持ち帰ったデータです。


災害直後から現場に急行した国土交通省の方はこんなところを歩いて調査をしていたのです。


そして重点監視区域には様々な機器が設置されました。
河道閉塞による堰き止め湖の水位を観測するブイが投下され
地すべりの兆候を見逃さないためのセンサーが現場にどんどん投入されます。


形成された巨大に河道閉塞部に対しては工事が始まりました。

河道閉塞を起こした天然ダムは締め固められた人の手で作られたダムのように堅固ではありません。
内部には大量の樹木を巻き込み砂も泥も礫も岩もいっしょくたになって盛り上がっているだけです。

安定すればよいですが安定するかどうかはその時すぐには分かりません。
そしてこの天然ダムが崩壊する可能性が最も高いのは
堰き止め湖の水位が上昇して越流したときです。

越流することを防ぐためにあらかじめ安全に水を流す
水路を作っておく事が下流域の安全確保に最も重要です。


いつ崩れるか分からない、いつ落ちてくるか分からない山では
遠隔操作できる重機が活躍しました。
日本各地の崩壊地で活躍していた遠隔操作の技術がここでも活躍です。
道のない場所には分解して現地で組み立て。
大規模災害に重機がなくては復旧はとても長い道のりを必要としてしまいます。


避難している方には自宅の事が心配で
これからの暮らしが心配で一日でも早く帰りたいという気持ちがあったでしょう。
でも危険が潜んでいるところにお帰りいただいて万が一何かがあったら・・
とにかく早く復旧しよう
そしてお帰りいただけるようにしよう
安全確保ができた地区には少しずつ人が戻り始めました。


災害時に大都市ならばマンパワーも豊富ですが
地方の役場などではこれだけの広域災害では機能不全に陥ります。
それを支えるためにリエゾンは現地に入り役場の機能のほかにも
報道対応や説明など様々な活動をサポートしてくれます。


土木はにわかな知識では対応できません。
地盤の専門家
道路の専門家
橋の専門家
川の専門家
国土交通省の技術者・TEC-FORCEが現地に急行してくれました。


主要県道だけでなく林道をはじめ
人の通れる道をひたすら探します。

多くの自衛隊の方、警察の方、消防団の皆さんが台風襲来の翌日から
現地で道を見つけるために必死で活躍してくれました。
そして国土交通省の方も、県土木の方も不眠不休で道を探してくださったのです。


災害時に活躍する特殊車両がどんどん全国から駆けつけてくれました。
排水ポンプ車、照明車、
側溝清掃車、散水車、衛星通信車
全国の地方整備局から集まった災害対策機械。
防災ヘリコプターは全国の8基のうち7機が集結しました。


そして今後、土石流被害が心配される崩壊地の下流
奈良県と和歌山県から要請があった場所に砂防堰堤が築堤されています。


国土交通省近畿地方整備局と災害協定を結んでいる
社団法人・建設コンサルタンツ協会や
社団法人・建設電気技術協会の皆様も
まだ道も開通していない台風襲来直後から現地に入って活動してくれました。

TVや新聞は何でもかんでも談合だとかなんだとかいちゃもんをつけてきますが
地元の土建屋さんが台風の時には市や県からの要請で台風が行き過ぎるまで
待機になるところもあるって知っているんでしょうか。
除雪だってそうです。
車両を持っているのは土建屋さんだったりします。
作業をしてくれるのも地元で地形と道路をよく知っている土建屋さんです。
地方に行けば業者の数も都市部に比べれば少ないのに
いつもきまったところに発注すると談合だとか
そこしか頼めないから頼むのに談合だとか
現地にちゃんと入って現地の方の声を聞いてから報道しやがれと云いたい。

官だとか民だとか関係ないんです。

そこに起きた災害が及ぼす危機を一刻も早く取り除くためために
自分たちの力で一日も早く人々の暮らしを安全を取り戻すために
頑張ること。
それが土木の心なんです。


と、一通りパネルを見て大泣きしてしまいました。
こちらのパネルでは全体をまとめて書いてくれてあります。


深層崩壊で河道閉塞が起きた天然ダムのおおよその体積が書いてあります。


豪雨、地震、台風
さまざまな災害で崩壊は起きる
それが日本の国土です。

これだけの想像もできないボリュームの崩壊が起きて
その後でも川や山が災害の前と同じ姿だと思う人は
相当、想像力が乏しくなってはいないかと思います。

川は生き物
災害のたびに流れを変える
山は生き物
災害のたびに姿を変える

太古の昔から
日本で一番雨が降る大台ケ原の麓で
浸食されてできた土地
大量の降雨を流すことができた川
災害に強い地形といわれていた紀伊半島でこれだけの災害が起きたのです。

それを知らずに「昔は・・・」という人は自然の力を軽く見ていると思います。
人の手でどうする事も出来ないほど強大な物が自然なのに。