向こう岸は遠く  6


もう対岸に行く事が無く
この駅だけで過ごしている『くもとり号』です。


『かわの』駅の対岸には『みとうやま』駅があるのですね。
ダム湖をまたいでこの二つの駅を行き来していたという奥多摩ロープウェイ。
対岸にも駅舎とゴンドラは残っているそうです。


ここに人が集っていたのはもう昔の事になりました。
ダムが出来て道路の付け替えが行われました。
ダム湖は観光地として有名になりました。
車で都市部から容易に行ける観光地になりました。

今でも多くの人が訪れています。
道路こそ凍結していなかったもののあちこちに雪が残る冬の朝。
都内のナンバープレートをつけた車にバイク。
たくさんの車が通っていました。

人が訪れるようになって造られた観光用ロープウェイ。
人が来なくなって錆びれ、廃れてしまった観光用ロープウェイ。

この土地は観光地として今も有名でお客さんも多いのに。

本当に捨てられてしまった観光地には
こんな冬の朝に
こんなに人は訪れません。

この場所で捨てられてしまったのはこのロープウェイだけなのです。


対岸をさえぎるように、このゴンドラを閉じ込めるように
木々はその背丈を伸ばしつづけ、ホームに影を落としています。

塗装も少しずつ色あせ
緑に閉じ込められているゴンドラは
対岸に思いを馳せている様には見えませんでした。

向こう岸にも自分と同じく
ホームから出ることなく佇む友人が居るので

 

奥多摩ロープウェイのゴンドラはダム湖の上を凪ぐ風に
哀しげでも無く
寂しげでも無く
やわらかい笑みを称えたお地蔵さんのような
そんな路傍の雰囲気を漂わせ
静かに静かに、ただそこにありました。