五代松鉱山 最後の冬 その1

家族で旅行に行こうという話が持ち上がりました。
いつも一人で気ままにあちこち行っている私は
目的地近辺に鉱山やダムがないかとワクワクしていました。
そして示された案は「洞川温泉 一泊旅行」でした。

洞川温泉...奈良の天川村。
うーむ。いつも行っているエリアだ。
この辺りのダムも鉱山も一通り見ているなぁ。
でも....ゆっくりして地元の方に聞き込みしたりしたら
私が探しているもうひとつの鉱山の情報もつかめるかもしれない。
どこへ行っても何かしら企んでしまう私はその案で了解しました。


そして2月下旬の旅行当日です。
どういう訳か前日までは春の気配が訪れていたというのに
突然の寒波襲来。

天川村への道には雪が降り積もりガチガチに凍っていました。
夏には鼻歌交じりに、攻め込めるコーナーも路肩がわからないくらい
真っ白になっていました。
私の頭も真っ白です。
強風で木々の雪が吹き散らされ視界も真っ白です。
無事に標高800mの宿につけるのだろうか?

ハブを入れるためにおもむろに路肩に車を停めるだけで
車がスーーっと滑ります。そして後部座席の母の顔色が
スーーっと白くなります。

「大丈夫なの…?」
「いけるいける!4WDやもん。」
「お宿までいける?」
「ガードレールあるやんか♪落ちたりせぇへんって!」
妙にハイな気分で4WDに切り替えてのろのろと雪道へ進み始めました。



スタッドレスとチェーン装着の車やバスがまばらに行き交う温泉街に
無事に到着しました。ノーマルタイヤでも4WDはやはりサイコーと
ご満悦の私と緊張から解放された家族の対比はおかしいくらいでした。

のんびりするということが出来ない私はお宿内をうろうろ探索です。
談話室という小粋なスペースにおいてある図録に目が行きました。

                  「役行者と修験道の世界

ぱらぱらとページをめくると展覧会のために集められた数々の逸品が
収められていました。役行者に関する色々な論文も掲載されていました。
その中のひとつ、葛城信仰に関る論文を読んでいて夢中になってしまった
私は温泉も後回しにして読みふけってしまいました。

夕食の鴨鍋を堪能した後、こそこそっとお宿の大将の元に図録を持って
出かけました。

「すいませーん。この本のこの部分をコピーさせていただきたいんですが」
「え?はい。」
「同じ本は手に入りませんよねぇ?」
「いや、うちに何冊か置いていきはったからありますよ」
「売ってください!!!」

そして私は新品を入手しました♪  \2000なり♪
お話ついでにお宿の大将と従業員の方に鉱山のことを聞いてみました。

「天川鉱山という場所があったと村史で調べたんですがご存知ですか」
「偶然ですね。つい三日ほど前に知合いのおじいちゃんにあたる人が
鉱山で働いていたという話を聞いたところです」

おぉぉ!これぞ役の行者のご利益かっ!
いきなりでは失礼なのでその方には又温かくなったらお話を伺いに
こちらに来ますとニタニタ顔の私です。

「ここのすぐ近くにある五代松鉱山なんですけど」
「五代松は鍾乳洞ですよ」
「いえ、その横にある吉野鉱業」
「あ、はいはい。」
「あれは五代松鉱山というのではないのですか」
「五代松さんが見つけた鉱山じゃないですから吉野鉱業です」
「あそこは綺麗な石が取れるんですよねー」
「日本式双昌ですか?」

さすが地元。五代松鉱山の日本式双昌(ハート型水晶)については
良くご存知のようでした。埼玉から来られた方もいらっしゃるとか。

「日本式双昌が取れるのは坑道近くだと聞いているんですが
夏に来たときは坑道を見つけられなかったんですよ。」
「あ、明日の朝で良かったらうちの車で案内しますよ。」
「♪えええっ!そ、そんなありがたいお話♪よろしいんですかっ♪」
「でも危ないですよ。雪で地面見えなくなっているでしょうし」
「大丈夫ですー。あちこちでいろいろ滑ったり落ちたりしてますが
まだ生きてますしー」

全く頼りにならない理由を持ち出す私にお宿の方も苦笑しておられました。

「あそこ、道路の拡幅工事、夏からしていますね。」
「はい。あの建物も撤去するんですよ。」
「え゛っ!あのホッパー部分ですか?」
「あのまま放置しておくのは美観を損ねますし危ないですしね。」
「確かに水が出て真っ赤で見た目は良くないかもしれませんね。」
「坑道もそのままなんで、深さは200m以上あると思います。」
「坑道も埋め立てていないって事は...」
「はい。持ち主は雲隠れですね。」

鉱山法によって採掘を終えた坑道は水や鉱犀で充填する事
抗口は閉鎖することが義務付けられています。
こういう措置をとらずに放置されている坑道は地方の小さな鉱山に
良くありますが、既に落盤していたり、入れない状態になっているのがほとんどです。
入れる状態で放置されているとしたら冗談抜きに危険です。
撤去もやむ無しということでしょうか。

拡幅工事は、ホッパーのすぐ横まで来ているといいます。
五代松鉱山の遺構にとっては最後の冬になる訳です。
これはどうしても見ておかなくては。
運良くこの宿に泊まれた事と得られた情報とここを旅行先に選んだ
家族に感謝しながらその日は就寝しました。

そして道路の雪が完璧に凍ってアイスバーンになった朝。
ワクワクしながら朝ご飯を済ませるとごそごそと活動開始です。
こっそり出ようとした私をお宿の方は直ちに発見してちゃんと
タイヤチェーンを巻いた車で往路を送ってくださいました。
(なにからなにまで本当に気配りしてくださるお宿でした♪)


名水「ごろごろ水」 取水場はここではなく別に設けられています。


五代松鍾乳洞です。
大きな鍾乳洞なのですが現在は崩落があったということで
閉鎖されています。


発見者の赤井五代松さんの像です。


そして鉱山前です。
きっちり工事は進んでいました。