秩父鉱山転落記 その3
道路の横の斜面には崩れた建物の跡が点在しています。
ワイヤーとインクラインの跡もありますが痛みすぎています。
この斜面を登りながら石を探し、いくつか手にして下ろうとした時
同じくらいの高さで人と目が合いました。
道路の向こうのシックナーの横の塔に登っていた職員の方が
私を見てニコニコしておられます。
ぺこりと頭を下げて大急ぎで斜面を降りました。
「おはようございます!ズリ山を探しているんですが」
「こっち来なさい」
手招きされるままに敷地に入らせていただきます。
「ここを通って下の川に行ったらたくさんある。皆そこで採ってるよ」
「え!いいんですか!ありがとうございます♪」
「雨の後とか台風の後とかもう大変。鉱石探しの人が一杯来るよ。
そういう人達が見る本にここの鉱山が載っているらしいね。」
「..あ、はい。載ってました」
「何の石探してるの?」
「黄銅鉱とカラミです!」
「黄銅鉱ならいくらでも採れるよ」
案内されて川原に下りる道の横に真新しいシックナーが働いていました。
「これ新しいですね」
「二年前に出来たばかりだよ」
「現役で働いているシックナーは見たこと無いんです!
見せていただけませんかっ?」
「どうぞどうぞ」
(やった!)
静かに静かに回るアームの先端が○で示した所に見えています。
縁の切れ目から上澄みの水がちょろちょろと出ています。
上澄みの水は処理機を通過して川に流れています。
最新型のシックナーの下は制御パネルのある綺麗な空間で
廃鉱山施設に良くある素通しの通路ではありませんでした。
シックナーの横を通って川原に向かいます。
古い橋は板が浮いていて少しおっとっとでしたが
無事に対岸に着きました。
そして周囲を見ると吃驚するくらい黄銅鉱が入った石が
ごろごろしています。どれを割ってもヒットするぅ♪♪
夢中で足場も確認せずに石を割りつづけていた私を悲劇が襲いました。
不安定だった大石に片足をかけていたのですが突然それが崩れたのです。
声を出す間もなく、川に左腕から突っ込んでしまいました。
どぼんっ
カメラを左ポケットに入れていたのが災いしました。
カメラがパーになってしまったのです。
大急ぎで電池とメディアを抜いて乾かしますがもう使えそうにありません。
悲しみに打ちひしがれながらも仕方ないので気持を切り替えて
さらに石を割ります。そのときにマンガン鉱を見つけました。
外は真っ黒けで中は薄いピンク色。鮭弁当の鮭の切り身そっくりな
マンガン鉱を幾つも手に入れて悲しみを紛らわせます。
どうやら先ほど川に落ちた時に手首を捻ったらしく
痛みで手首を曲げられなくなってきました。
しくじったなぁ....としょげつつとぼとぼ戻ります
「良いの採れた?」
「はい!こんなに一杯採れました。」
「これに入れなさい」
親切な職員の方は迷彩服の全部のポケットをパンパンにした
私を笑いながらビニール袋まで下さいました。
「この石何かわかる?あげるよ」
「.....え゛!」
職員の方はこんなの幾らでもあるからとこの敷地で出たという
かなりキンキラキンの方鉛鉱を下さったのです。
「ここは昔から一杯色んな石が出てね、今でも金が出たとかいって
沢筋で大穴が掘られている所があったりするよ」
「選鉱場ならこの少し奥だから見てきなさい」
どこまでも優しい職員の方でした。
カメラがダメになった為に選鉱場は写真に収められませんでしたが
かなり大きな選鉱場でした。
絶対もう一回来るぞ...。
カメラお釈迦の哀しさとマンガン鉱入手の嬉しさと
そして大変親切な職員の方への感謝の入り混じった
秩父鉱山転落の顛末でした。