許してくれ とお前は言った
許せなくて俺は黙った
許してくれるんだな? とお前は言った
許さないと 俺は答えた




神を信じていたなら教会で懺悔でもすれば
神が許してくれたと思い込んでいけただろう
だけどお前は神など信じていなかった
人を信じているなら周りの奴らも皆が助けてくれただろう
だけどお前は人を利用する事しか考えていなかった



どれだけの貸しを作ったかなんてカウントせずに
いつも自分を可愛がり
自分だけに都合よく生きてきたお前は
まとめてその支払いをする羽目になった


お前の居場所を警察に通報したのは俺だけど
俺を身代わりに仕立ててヤクザに差し出したのはお前だ




 悪かったよ
 ごめんな
 この借りはちゃんと返すから



悪かったのはお前
周りの誰もがそう言った
俺も俺にそう言った



逃げようとしての事故だったと聞いた
警察が追いつくより早くヤクザの追い込みが
お前を中央分離帯に叩きつけた


ろくでもない奴だった

だけど

笑顔は良かったな



そのせいで俺はずっと
まだヤクザにやられた傷が痛むというのにずっと
お前を許せばよかったのかと
お前を逃がせばよかったのかと
自問自答を繰り返す羽目になっている

俺に罪は微塵も無い
人が言う罪はひとかけらも無い


うつむいて歩く視界に入ってきた逆さまの十字架
いつもは気にも止めない街中の教会


信仰を持たない俺には教会に入る気持ちなんか無くて
こんな時だけ都合よく懺悔なんてできなくて
決まりきった説教でごまかされるのなんかまっぴらで




もし


懺悔するなら
教会への階段を上がる必要も無い
まじめ腐った神父の顔を見る必要も無い

誰の耳にも入らなくていい

地面の下に行ってしまって言い訳が誰の耳にも届かなくなったお前には
お前を許さなかった俺の言い訳を聞かせるには



この水溜りにある十字架でいい

 

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3/14 to 3/19  2006 ギャラリー・アビィ 『ムコウガワ』展 出展作品(写真のみ)