清水沢ダム 見学

2023/3/21 更新


厳冬期の北海道でダム見学という大変、貴重な体験をさせてもらった日の
三番目に見学させてもらったのがこちらの清水沢ダムです。

ちなみにこれは天端です。

右も左も雪の壁で原型が全く分からないですがダム天端です。


貯水池側の高欄の向こうに水面を確認。
もう雪が深すぎて何がなんやら。


こちらは下流側です。
さらさら越流しています。
清水沢ダムは最近のことですがゲートレス化されたのです。
現在は発電専用ダムで、北海道企業局の管理となっています。


堤体の右岸下流側にあるのは発電所です。
写真に写っているのは現役の水力発電所。

元々は“北海道炭礦汽船株式会社”が自家発電施設として
この場所に1940年に建設した水力発電所でした。

炭鉱が閉山となったことにより現在は北海道企業局発電課が
管理する発電所として稼働しています。


下流に巨大な遺構があります。
夕張の炭鉱遺産として有名な
旧・北炭清水沢火力発電所の遺構です。

最大出力は74500kWで国内最大級の自家用発電所でした。
シーズンによって見学ツアーも実施されているようです。


清水沢ダムは元々、排砂用ゲートと洪水吐ゲートで10門もの
ローラーゲートを備えていました。
なので、昔からこのダムに訪れて親しんでいる方には
ゲートレスの今の姿は見慣れないものであるかと思います。

自分は初訪問ですし
なにより雪が深くて全容がさっぱりちっともわからない…。

とりあえず排砂ゲートは閉塞させクレストゲートはゲートレス化されたということでした。


雪に隠れていないところを見てなんとか情報を得ようとしますが
いらない情報の方が目に飛び込んできたりします。

まて
その擁壁

倒れそうなのをどうやって抑え込んでるんだ
見るからにやばいんだが。


堤体の直下の川の真ん中にそびえる岩山。
凄く流化に影響しそうな位置にあります。

近畿の某ダムの事例では同じように堤体直下で近接していた岩山を
ごっそり掘削除去した事例もあるのですが、ここはそこまで
この岩山が悪さをしないのでしょう。
山のてっぺんには不動明王が御祀りされているとか。

一般財団法人 電力土木技術協会のHPで詳しく説明されていますが
利水ダム(特に発電専用ダム)においては
“出水が予想されるときや出水時、定められた水位に保つ運用”
をすることになっています。

普段からお水をしっかりためて仕事をしているダムなので
貯水池に洪水を受けとめる容量が設定されていません。
にも拘らず、上限が決められている状態ということになります。

従って、ゲートがある場合は、大雨が予測される時は、空振り覚悟で
ゲートを開けて貯水池に空き容量を確保して洪水に備えます。

この時に、ダムに入ってくる量が多く、出す量が少ないと
当然ながら差分が貯水池に溜まりますので貯水位が上がります。

なので上限が決められている利水ダムでは
早い段階でゲートを全開にしてフリーフローに持っていくことが
法律を遵守しての安全な操作になるのですが
予想より雨が降らないと水を喪失して損益になります。

また、意外と知られていないのがゲートイン操作です。
ゲートをフリーフローから閉めていく操作です。
これが開けていく時もですが大変、難しいのです。
早く閉めてしまうとあっという間に貯水位が上昇してしまうので
水位の上限が定められている縛りの中で
洪水のあとにきちんと貯水位を回復させておくこととの
両立が極めて難しいのです。

集水域が小さいダムの場合は
降った雨が地面にしみ込んでから川に到達する
表層水でも川までの距離が遠いので時間がかかる
というような、時間を稼ぐ要素が少ないので
間髪入れずに貯水池に流れ込んで来ます。

するとゲート操作が追いつかないために貯水位の上限の縛りに引っかかってしまいます。
(ゲートは水道の蛇口のようにすぐ開閉できるようなものではありません)

なので管理を容易にし、ダムの安全度を高めるために
ゲートレス化はあちこちのダムで進められているのです。


貯水池の上流、夕張シューパロダムに近い所に移動してきました。
今回、清水沢ダムで一番見たかったのはここ、貯水池上流端でした。


ゲートレス化されたことで出現したウェットランドです。

貯水池の上流端には水位が下がった時に荒廃地が発生することがままあります。
特に洪水調節を行うダムでは洪水期と非洪水期で水位差が大きく
貯水池に裸地が出ているのはよく見られる光景です。

それが貯水池の湖底になると、水が無いことで雑草が繁茂し
水質が悪化したり害虫の発生に繋がったりすることもあるのです。

しかし年中、水位が保たれるようにして湿地帯をつくることができれば
生態系を乱さない水質にも環境にも良い状態を得ることができます。

あらかじめ、それを計算して貯水池上流に堰をつくって湿地帯を作り上げた
中国地方整備局の灰塚ダムのような例は少ないのですが
この清水沢ダムではそれが自然に発生しました。

ダムのゲートレス化というのは
ただ単にゲートを除却して無くすだけという場合もありますが
ゲートによって必要な水位を確保していた場合は
その水位を保てるだけの高さに堤体の越流堤部分を嵩上げする
という対策が取られます。

ゲートレス化では設計洪水量の見直しが行われるため
ある程度の大きさ以上のダムであれば嵩上げや越流高の変更(高くする)
が必要になることも多いです。

→ 一般社団法人 電力土木技術協会 ダムのゲートレス化についての解説ページ

清水沢ダムではこのゲートレス化に伴う越流高の変更は行われませんでした。
にもかかわらず、絶妙な水位が確保されました。
それがこのウェットランドの出現に繋がったのです。

奇跡的です。

でも雪で全然それを実感できない。
こればかりは夏に来るしかない。

竣工したのは昭和15年、発電専用ダムでした。
大夕張ダムが完成した後は大夕張ダムの直下に造られた
二股発電所(昭和35年〜平成25年)の逆調整池&灌漑用水補給のダムになりました。
夕張シューパロダムが完成した後は灌漑用水補給を夕張シューパロダムが
担ってくれることになったので、又、発電専用ダムに戻りました。
そしてゲートレス化された清水沢ダム。

ゲートレス化によって出現したウェットランド。

ゲートがあったころを懐かしむ声が多い小さなダムですが
進化して環境に生態系に優しく、クリーンエネルギーを生み出し
管理の苦労を低減したとても素晴らしいダムなので
ゲートレスになってもそのお仕事を讃えてほしいです。

頑張り屋さんの清水沢ダムでした。