南摩ダム 工事中見学 その1 

2024/3/1 更新


令和5年の初秋に栃木県の思川で建設が進む南摩ダムに行ってきました。

堤体が盛り立て終了したというニュースを見て
この後はスリップフォームで表面仕上げを残すのみだから
早く見に行かないと
遠いけど気合いいれて見に行っておかないと後悔するかも…

という事で最近経験したことがないくらいの大渋滞を延々と乗り越えて
やっと到着しました南摩ダム展望台。


おお!
立派な堤体が盛り立て終わっている!


現場がよく見える展望台があるのでうきうき登りました。

現地でいつもお世話になっている水資源機構の方から
ご説明をいただきます。
以前、淀川水系でお勤めだった方々で面が割れていました。


南摩ダムは国内で苫田鞍部ダム以来の建設となるCFRDです。
コンクリート表面遮水型ロックフィルダム


アバットメントと堤体の接続はゾーン型フィルダムより
とてもとても気を使います。

堤体にある程度水がしみこんでいくことを想定してコアで水を止めるゾーン型と
堤体の表面で水を止める表面遮水型の大きな違い。


南摩ダム現場は、川上ダムのように建設中のイベントをしていないので
どうしてかなと思っていたのですが、聞いた話では…
なんと、見学希望者があまりにも多く、毎日かというくらい
専門家も含めて見学者がやってくるためにイベントとか
やる時間が作れないくらい見学対応で忙殺されているという事でした。

どれだけダム界の注目を集めているダム現場なのかと。


でもそれはそうだろうなと思ってしまいます。
自分もこの現場だけは建設中に見ておきたいと思っていましたから。

国内で最後になるだろうロックフィルダムだし
(ゾーン型フィルでは新潟県の鵜川ダム)
長年封印されていたCFRDだし
導水路で水集めるし


南摩ダムの特徴は問答無用でCFRDの堤体ですが
個性の一つが導水路です。


直接流域が12.4km2なのに対して
間接流域の大芦川流域が77.4km2、黒川流域が40.5km2です。

ダムサイトの地形を貯水池に全振りしたような計画で
とにかく物理的に水をたくさん貯めるためにダム軸を定めた印象。

直接流域がそんなに大きくなくても間接流域からしっかり水を集めて
洪水時には導水路を閉めることで土砂の流入を抑制できるなら
堆砂が全く進んでいない北陸電力の王者・有峰ダムと
よく似た思想なので更に喜びが増すのですが
南摩ダムはお仕事に洪水調節があるし
導水路は一方通行ではなくて貯水池から補給も行われるので
導水路がすごく重要になってきます。


しかも灌漑期と非灌漑期で供給量調節も細かく実施が必要で
運用がとても大変なダムになりそうです。
筑後川機構の3ダムのように大変になりそうです。


スリップフォームの設置を待つ貯水池側。
慎重に慎重を期すダム建設ですから、面ができたからと言って
すぐ表面遮水コンクリートを打っていったりはしないとか。


積んだ材料が落ち着くまで少し待ち
その後、スリップフォームで遮水壁を仕上げていきます。

重力式コンクリートダムの堤体だと“打設”という単語も
やっと、しっくりくるようになりましたが
CFRDだと“打つ”というべきか“敷く”というべきか“覆う”というべきか
ちょっと迷います。


という事で、先輩のCFRD、苫田鞍部ダムの
スリップフォームの説明板の写真を見返したところ…

「スリップフォームでコンクリートを打設」で正解という事でした。
設計担当された方にも確認しています。
やっぱり“打設”なんですねー。


選択取水棟は丸島アクアシステム様が担当の連続サイホン式です。


連続サイフォン式選択取水棟を見るたびに
夕張シューパロダムの“ぶっちぎった”エピソードを思い出してしまいます。


堤体全体が良く見えるところに案内していただきました。


スリップフォームでフェイススラブを敷いていくわけですが
堤体と基礎の境に一番下の基礎の部分がしっかりと作られています。


このプリンスは“台座”とか“つっかえ”という意味です。

お世話になっているダム技術者の方に質問したら
plinth is right, not prince
とお返事きました。


貯水池になる場所にバッチャープラントと骨材ビンです。

南摩ダムの貯水池は5100万m3です。

近年、雨の降り方がひどいですが年間降水量で見ると
右肩下がりになっていてあちこちで渇水が発生して
どこのダムもギリギリ運用になっているような気がします。

令和5年は、四国で特に顕著ですが新潟がひどくて
信濃川に塩水遡上対策が必要になりましたし
東北では再開発で大きなダムを建設していなかったら
もうすっからかんになっていたかもというくらいの雨の少なさでしたし
首都圏の水がめも発電用ダムも貯水位の低下がすごくて
ダムをしっかり作っておかなかったら大変な水不足になったと思われます。

琵琶湖があるからと割と余裕があるように見える近畿地方でも
どんどん琵琶湖水位が下がってきてちょっと青ざめてきましたし…。

なので大事な水資源をしっかり貯めておける大きな貯水池は正義。
治水にも利水にも大きな貯水池は絶対の正義です。


堤体の下流側からも見せていただけるという事で移動してきました。


防音壁がしっかりたてられています。
現場近くにお住まいの方がいらっしゃるので工事の音対策は大事です。


ご案内をいただいた方から、小石原川みたいなカスケードでもないし
とてもシンプルなんですよと伺いましたが
これは、ちょっと、ぴぴっ!!とくる配置。


枠工に挟まれた洪水吐。
シンプルにシャープにすーーっと走って
下からこんな風に見られるならなかなかのカッコよさだと思います。


角度を変えてみるとこんな感じです。


主放流設備の副ゲートの高圧スライドゲートと
主ゲートのジェットフローゲートが見えていました。


着々と建設が進む南摩ダム。

南摩ダムにはとてもとても熱心なダムファンの方がお近くにお住まいで
建設開始直後からずっと記録をしてくださっています。

みんなに愛されるダムが完成するまでもう少しかかりそうですが
スリップフォームで施工される様子が見られるのはほんのわずかな期間です。
今しか見られないダム建設風景を見ておきたいという気持ちになったら
やっぱり駆けつけないと、あとでしくしくしてしまいますので
未訪の方は今のうちに行っておきましょう。