ダムシミュレーター体験 その3


一通り説明を受けた後、シミュレータールームに入りました。
どきどきどき。


こちらの操作卓でダム操作体験です。
どきどきどきどきっ。


腕章が並んでいます。
ダム主任・予測係・操作係・記録係。

こ…怖い。

「お二人ですからお一人が主任と予測、もう一人が操作と記録でやりましょう」

怖いよぅぅ。


たくさん数値が表示される窓はありますが
超初心者向けなので発電放流がない状態という
いちばん優しいモードです。

表示される数値とにらめっこになります。

まず何よりも大切なのがダム(湖貯)水位。
貯水位がとにかく大事なのです。
流入量も放流量も水位で決まるのです。

日本ダムアワード2017でダム大賞を獲った水資源機構の寺内ダムは
豪雨で水位計が停止したのです。
なので職員の方はずっと目視で水位標を読んでいました。

水位標は貯水池の最重要パーツ。


そして実際の操作は現在の水位と現在の放流量から
二つの表を用いて、現時点で放流できる量を導き出し
ゲートを操作していくのですが…

放流していないところから放流開始するときに
こんなに胃が痛くなるとは…

『降雨が予想されているので予備放流水位まで水位を下げる』
が今回のシミュレーションのお題です。


河川法に載っている図で言うとほんとに最初のこのあたりの操作になります。
ダム湖への流入量は洪水量に到達していない段階です。

放流前に関係各所に連絡
サイレン吹鳴
下流の巡視
そしてゲート操作

全体のイメージは聞いていましたが
実際の操作は(シミュレーションですが)予想している以上に
タイトできついものでした。

放流開始のステップの時がきついんだと
お聞きしていたことが実感できました。

法律と操作規則の縛りがあるので
流入量がどんどん増えているのに
放流してよい量が少なすぎるのです。

「うわーうわー流入量どんどん増えてるのにゲート開けられないぃぃ」
「一つのゲート操作から10分間をあけないと次の操作できませんよ」
「えーえーえー。でも今開けて良いのたった○cmですよね」
「そうです」
「むりむりむりむり」

流入量がどんどん増えていくのに
決められた時間に決められた開度でしか
ゲートは操作してはいけないので
差分がどんどん貯水池に溜まってしまいます。

しかし利水専用ダムは常時満水位より水位を高くすると
河川管理者から怒られてしまいます。

洪水に対応するために空き容量をたくさん空けている
洪水調節を仕事にもつダムだったら上にゆとりがありますが
発電用利水ダムや水道用利水ダムは普段から水位が高いので
上にゆとりが全然ない…。

放流して水位を下げたいのにちょっとずつ、ほんとにちょっとずつしか開けられないし
ゲート操作が追い付かなくて貯水位が上がっていったら
今度は水位の上限(常時満水位がもうすぐそこまで来ているので
全方向からプレッシャーがかけられている状態です。

こんなタイトな幅で規則どおりに法律違反にならないように
たくさんのゲートを操作するってどれだけ計算しても不安になる。
そして1門だけじゃなくて何門も開けていかねばならず
各ゲートの最大開度も決まっているわけで…

ゲートレスでオールサーチャージのダムって…
なんて、なんて羨ましい装備なんだっ…
と、思ってしまうくらいゲート操作はシミュレーションでも
物凄い緊張の連続でした。

◆ ◆

筆力不足で、ダム操作の大変さがちっとも伝わっていないと思いますが
考え方として簡単な説明を手元のある写真で試みてみます。


富山県にある刀利ダム。
すごい山奥なので会いに行くのも大変なアーチダムです。
とても運が良ければハウエルバンガーバルブからの豪快な放流が
見られるという事で人気のダムでもあります。


私が訪問した時は丁度、取水棟の工事で抜水している時でした。
流入する水をバルブからそのまま出しているのですが
水位が低いので水圧がかかっていなくて
へろへろへろと流れ落ちるだけのバルブ放流になっています。


例として出しているだけなので実際のバルブの開度は同じではないと思いますが。
いや、それ以前に
普段はそんなに放流していないよ〜と、ねっす〜様から鋭いご指摘。
おお!!
確かにそうだ。
刀利ダム、利水要素ものすごく高いからあんまり放流しないぞ。


貯水位が異なると同じ口径で出口があっても
そこから出る水の量が異なってくるという事は理解してもらえると思います。

水圧が高ければ勢いも強く出る量も多くなり
水圧が低ければちょろちょろしか出なくなります。


そしてダムを水道の蛇口みたいに小さく考えられても困ります。
ゲートもバルブも巨大です。
1cm開くだけでもものすごい量が出てきます。

上の刀利ダムの図で言うと
堆砂面のEL305.0mでバルブが全開になっているときと
低水位のEL321.5mでバルブが全開になっているときでは
出て来る水の量が全く違うわけです。


なので

操作卓に示された数値で水位を見て

操作規則で定められた放流増加曲線で
一回ごとのゲート操作で放流して良い量が記されているので
それを基に流入量を上回らない該当する放流量を見つけます。

次に
各ダムで設計時に造られている『貯水位-ゲート開度対応表』という表で
放流して良い量を出すためにはゲートを何cm開ければよいかを見つけます。

『貯水位-ゲート開度対応表』とは
「水位が○○mでゲートを○cm開けるとどれだけの水が出るか」
を、1cm単位で記した表です。

このプロセスで今からゲートを何cm開けて良いかを決定し
実際のゲート操作を行うわけです。

これを10分おきにゲートを次々と操作して
どんどん流入量が増えていく中
目標の予備放流水位まで下げていかなくてはなりません。

◆ ◆

必死で計算して操作しましたが
もう少しで追いつくというところでゲートイン操作をしくじり
目標水位を下回ってしまいました。

む・・難しすぎるっ!!
プレッシャーが半端ない。

最新型のダムコンでは計算をみんなコンピューターがやってくれますが
ゲート操作は人の目で確認して実施。

そして安全であるべきダム管理所も
出水時に被災した事例があります。

災害時に商用電源喪失なんかはざらです。

電源喪失したときにすぐ予備発電機が動くことが大事。

水位をはじめとした情報が途絶したときに
遠方操作卓だけでなく
時にはゲートの横で機側操作で操作しなくてはならないこともある。

ダムのゲート操作ってほんとにこんなに繊細で
気を使ってやらなくちゃいけないものなんだと
あまりの大変さに体験後にへなへなになった
ダムシミュレーター体験でした。

こんな貴重な体験をさせてくださった九州電力の皆様に
お礼を申し上げます。
本当に未だ嘗て無いすごい体験でした。

丁寧に指導していただいたのに
操作をしくじってしゅーんとなってます。
もっと勉強しなくては。