夜明ダム管理所のエピソード

2019/9/21 更新


大分県日田市と福岡県うきは市をまたぐ
九州電力様の夜明ダムです。

筑後川本川にありビューポイントにも恵まれており
至近距離で巨大なローラーゲートを愛でることができる
迫力満点の、ファンの多いダムでもあります。

この夜明ダムで2017年7月5日に大変なことが起きました。


ニュースでその一報目を見たとき
あまりにもショッキングな内容に何度も読み返しました。

夜明ダムの管理所が豪雨の中、損壊したというのです。

発生したのは7月5日の18:30頃。


前日の7月4日には九州地方に台風3号が上陸してそれなりに暴れていました。


台風が行き過ぎた後、すっきり雨が止んでいればよかったのですが
前線が下がってきて上の高気圧が動かないために
筑後川流域で雨が降り続いていたのです。


管理所損壊の数時間前には流域の上に真っ赤な雨域がありました。


一時間経っても雨域があまり移動せず降雨強度も強いままです。


川の防災情報監視を続けていると第二報が入りました。
管理所は被災したけどダムは無事でゲート操作もできているとの事。

このあたりでもう心配で心配で仕方がなくて
お世話になっている九州電力の方に
けして至急の案件ではないので返信は状況落ち着いてからで結構ですと
断った上で、大丈夫ですか?心配してます!!
というメールを送りました。


翌日にはゲートを無事に全開にして
フリーフローの状態までもっていったことが報告されていました。

数日後、まだ災害対応でお忙しい中
メールに返信があり、ニュースだけではわからなかった
詳しいことをお聞きすることが出来ました。
とにかく人的被害がなかったことが嬉しかったです。

7月5日、損壊した管理所にはお昼過ぎから九州電力・日田土木保修所から
おひとり、派遣されたエンジニアのM様がいて、降りしきる豪雨の中
管理所で機器点検、監視業務などを行っていたそうです。

そんな中、突然、管理所と反対側、左岸のゲートでアラームが鳴り
その確認と対応のために管理所から左岸側に移動して管理所から離れていた時に
管理所が濁流に飲み込まれたのだという事でした。

しかしM様が無事だったことで夜明ダムでは豪雨の中
油圧式の補助エンジンや移動式発電機車を稼働させ
機側でゲートを操作出来たのだそうです。

夜明ダムが…
ダムがアラームを鳴らしてM様を助けたんだ…
そうとしか思えないよ…

あまりにもびっくりするやら感動するやらで
年末の日本ダムアワードの最後のダムニュースのところで紹介させていただきました。

◆ ◆


大分県の日田市にやってきました。
筑後川の上流、玖珠川の横にある
大変歴史の古い女子畑発電所が見えています。

女子畑発電所は官営・八幡製鉄所に電気を送っていた
由緒ある九州初の大規模な水力発電所です。
今もしっかり現役で発電しています。


その女子畑発電所の横にあるのが
筑後川の九州電力様のダムを管理している中枢
日田土木保修所です。

ポストと受取ボックスが並んでいたので間違えそうだなぁと思ったり。


ここであの夜明ダムの管理所損壊の時に
現地にいらっしゃったM様にご挨拶させてもらいました。
写真で右側に立っておられる方です。

写真で左側にいらっしゃるのは災害発生の後、損壊した管理所に
命綱つけてデータボックスを捜索しに行ったT様。

「河川の中に落ちた管理所の建物の中に入って探していたらMさんのお財布見つけたんですよ」
「もう洗濯機に入れられたみたいにくちゃくちゃになってましたけどね」

と、M様が無事だったから笑って話せるエピソードを教えてくださいました。

ホントにホントに
M様が無事だったから
今、笑い話で言えるけど
発災直後なんてもうここにいらした全員が
M様の無事を心から祈っていたに違いないので。

◆ ◆

当日の様子を詳しくお聞きしました。


夜明ダムでは前日の台風3号の影響により放流を継続していましたが
梅雨前線の活動がどんどん活発になってさらに大雨になる事が予想されたため
ダム操作のバックアップのため13時30分ごろM様をダムに派遣されたそうです。
日田土木保修所から夜明ダムはこのくらい離れています。


M様は、14時20分ごろ夜明ダムに到着しまして
落雷などに備え、商用電源が落ちた時に備えて
予備動力の発電機の点検やそのほかの機器の点検をして
ダム管理所内で状況監視に入られたそうです。


貯水池のすぐ横にある細長い岸辺のスペースに上流から
夜明ダム管理所(見えないけど通信機械室)、予備電源室
倉庫、取水口と設備が並んでいました。
これは2010年に見学させていただいた時に撮った写真です。


これは17:23の川の防災情報の画面です。
筑後川は上流・中流部で黄色になっています。
氾濫注意水位です。

この頃、ダムのゲート操作は、日田土木保修所のコントロールルーム、
ダム総合管理室から実施されていました。

しかし突然、18時頃、夜明ダムの3号ゲートで異常を示すアラームが点灯します。


管理所にいたM様は現場で確認するために管理所から出て
ゲートピアをつなぐ管理橋で3号ゲートに向かいます。


M様は、激しい降雨の中、異常を知らせるアラームが出ている
3号ゲートまで移動して、異常がないかを確認しました。
場所はここになります。


3号ゲートの物ではないですが同型の機側操作盤です。

異常を検知したアラームは『過負荷』だったそうです。

M様は豪雨の中、現場の機側操作盤で故障がないか確認し、
復帰の操作を行ってアラームを解除しました。

その後、M様は管理所に戻るか考えられたのですが
アラームが再発した時に素早く復帰しようと考え
左岸側で雷の影響が無い低い場所で待機していました。


18時30分ごろ、右岸側にあったダム管理所が突然、濁流に飲み込まれました。

ダム総合管理室でモニターを見ていた方が二人ほど
その様子を見ていたそうです。

あっ…と思った瞬間に管理所がモニター画面からふっと消え
同時に現場から来ていたデータが全部ロストしました。

その時、現場では左岸にいたM様も
管理所がスーッと水面に消えるのを見ていました。

え?

えっ??
何が起きたの…!?
ええええーーーー!!

管理所と通信機械室の喪失に伴い、日田土木保修所の
ダム総合管理室からの遠方制御は不能に。

管理所損壊の為に現場管理所からの操作も不能に。

しかしこんな状況でもダムのゲートは操作できるのです!!

機側に設置の2台の補助エンジンと移動式発電機車を使用して
8門すべてのゲート操作を
M様と日田土木保修所からの応援の方
補助エンジンメンテナンス会社の方
九州電力・配電部門からの応援の方
更に配電会社の方が現地に駆けつけ
協同で行われたのです。

すぐに操作したくても落雷がいつ起きるかわからないサンダーストームの中
作業の安全が確保できない大変な厳しい状況下で
それでもゲート操作が遅れればダム湖上流で浸水被害が出るかもしれない

安全確保しながら雨域の移動を祈り
作業可能な状況になると同時にゲート操作を開始し
無事に全開、フリーフローの状態までもっていくことが出来ました。

なんだかもう…
ダムの神様が全力で夜明ダムとM様を守ってくれていたようにしか思えない…(涙)
◆ ◆


2019年3月の夜明ダムです。


管理所建屋等があった場所は綺麗に整地されています。


下流の一番のビューポイントから
堤体を眺めます。

夜明ダムがM様を助けた
自分をいつも操作してメンテナンスしてくれる人を
夜明ダムが助けた

私はそうだと信じています。

筑後川にお越しになったらこのヒーローを是非、愛でて褒め称えてください。

夜明ダム!!かっこいいよーっ!!

おまけ


日田土木保修所でトイレをお借りしたときに
トイレットペーパーの包み紙にまで
みらい君が家族で活躍していたのに思わず写真を撮るなど。