幻のダムと奥越電源開発

みなさまこんばんわ。
今日はダムナイトにお越し下さり、ありがとうございます。
「雀の社会科見学帖」というHPを公開しております夜雀と申します。
本日は『幻のダムと奥越電源開発』というテーマをお話ししたいと思います。
小難しいタイトルがついていますが中身は大したことはありませんのでお気楽に聞き流していただけたらと思います。

戦後の日本には電力不足と水害への対策として各地に大規模なダム建設が計画されました。

今回紹介する奥越電源開発は福井県の大野市という場所に展開されました。
図で緑色に示しているのが大野市の場所です。

奥越電源開発はまず福井県によって真名川で始まりました。
真名川総合開発です。

真名川総合開発で福井県の雲川ダムと笹生川ダムが完成したのち
九頭竜川総合開発が始まりました。

1968年、九頭竜川水系には
福井県の雲川、笹生川
電源開発の九頭竜、鷲、山原、石徹白
北陸電力の仏原
の7基のダムが完成し奥越電源開発が完了します。

1977年に洪水調節を主目的とする真名川ダムが完成し大野市には8基のダムができました。

その8基のダムを紹介します。

福井県企業局の雲川ダムです。
ゲートレスのクレストからの放流が非常に美しくコンクリートの色も年季が入って小さいながら迫力のある堤体です。
ここには円筒アーチと書いていますが正確には変半径アーチです。
takane様「へん半径ってどういう字を書くんですか?」
夜雀「変化の変、変わっているという字です」
takane様「偏っているという字ではないんですね」
夜雀「はい。これと同じ変半径は群馬県の中之条ダムがそうですよ」

福井県土木部の笹生川ダムです。
気象史に残る大災害、1965年の奥越豪雨で堤体越流がおきたダムです。
奥越豪雨での笹生川ダムへの流入量は最大 1.002m3/s
これに対して 586m3/sの放流を行いましたが押し寄せる水をさばききれず、水が堤体を越えたという経験を持っています。
この写真は福井県に見学申請をして下流側に入らせて貰いましたが通常は天端の横から眺めることしかできないダムです。
萩原様「堤体越流って具体的にはどんな風になったんでしょう」
夜雀「天端の右岸側に道路が通っているんでまずそちらから溢れたと考えられます」

電源開発が建設し国土交通省が管理している九頭竜ダムは奥越電源開発のキングと呼ぶにふさわしい堤体です。
堤高、堤頂長、堤体積、すべてが福井県のダムのNo.1です。

九頭竜ダムの下流にある鷲ダムです。こちらも電源開発のダムです。
国内で10数基しかない重力式アーチの堤体です。
なにがスタイリッシュかというと通常は天端にはゲート巻き上げ機とか、支柱、水銀灯、エレペーター棟とか
色々突出物があるのに鷲ダムにはそれが無いのです。
天端の照明は壁に埋め込み式だったりして実にスタイリッシュな外観が特徴です。
takane様「埋め込み式ってどんなものなんですか」
夜雀「いや、普通に蛍光灯が入るスペースが天端の左右の壁に作ってあって
その中に蛍光灯が入っているんですが1968年のダムでこれは凄いと思います」

石徹白川にある山原ダムです。これも電源開発のダムです。
取水ゲート、土砂吐ゲート、河川維持放流ゲート、越流部と
取水堰堤に必要なパーツが良く理解できる造りになっています。

萩原様も写真集ダム2で「愛しの石徹白」と大絶賛されていた石徹白ダムです。
鷲と同じく重力式アーチの堤体で放流が実に美しいダムです。
堤高は32mと決して小さいわけではないのですが
石徹白マジックとでも呼んだらいいのか本当に可愛らしくて
逢うとメロメロになってしまうでんぱつファミリーのアイドルです。
萩原様「石徹白、ほんっとに可愛いですよね♪」
夜雀「はい♪ホントに可愛いです。アイドルですから〜♪

北陸電力の仏原ダムです。
武骨な外観とお洒落な色違いゲートがマッチした芸術作品のようなダムです。
北陸電力らしいラジアルゲートは9×14mの大きさです。
写真右側から1号ゲート、2号ゲート、3号ゲートとなっています。
なぜ色違いなのかという事については北陸電力には触れてほしくないポイントのようなので
詳細は当方のHPでご覧ください。
この写真は北陸電力に見学申請をして撮影したものです。
通常は下流側に入ることはできません。

最後に国土交通省の真名川ダムです。
普通、真名川ダムというと下流の噴水と一緒にとても美しい姿で写真に撮られることが多いのですが
今日は敢えて、夕暮れの写真を用意しました。
真名川ダムは洪水調節、治水の為に生れて来た生粋の戦闘堤体です。
その働きは素晴らしいもので
2004年の福井水害では隣にある足羽川で堤防が破れ、大水害が発生した時に
真名川ダム下流では被害ゼロという功績を上げています。
2004年の福井水害では最大で1,033m3/sの水が真名川ダムに流入したのですが
それを15m3/sにまでカットしました。
まさに治水のエリート、治水のプロフェッショナルと呼べる真名川ダムです。

大野市の8基のダムを紹介してきましたが
奥越電源開発に計画され、建設されなかったダムが一つありました。
北陸電力の後野ダムです。

後野ダムは石徹白川に計画されていたダムでした。

後野ダムはこの場所にこのようなダム湖を有する堤体として建設される予定でした。

しかし、実際に建設されたのは電源開発の石徹白ダムと山原ダム、
三面と智奈洞の取水堰堤でした。

後野ダムが建設されていた場合、石徹白と山原ダムは無かった事になります。

なぜ後野ダムが建設されなかったのかと言うと
この場所に北陸電力と電源開発のふたつの電力会社が計画を立ちあげたことに起因します。
1952年にまず北陸電力が開発計画を発表しました。
しかし翌年、さらに大きな計画を電源開発が発表しました。
奥越電源開発は2社競願という特殊な形で始まった電源開発計画だったのです。
それだけこの場所は水力発電に魅力的な場所であったという事でもあります

二つの会社がそれぞれに計画を申請したためどちらの案を採用するかは大変もめたそうです。
最終的に通産省が出した調停案は
電源開発が九頭竜ダム(図中では長野ダムと書かれています)
北陸電力が後野ダムをそれぞれ建設するという事になっていました。
しかし、この後の経緯が不明なのですが
実際には後野ダムは造られることはなく
現在の8基のダムと取水堰堤が作られたにとどまりました。

計画されていた後野ダムは幻のダムとなってしまいました。
出来ていたら一体どんなダムだったのか。
北陸電力は魅力的なダムをたくさん保有しています。
ここにあげた写真は私が行ったことのある北陸電力のダムなのですが
大変、魅力的なダムがそろっています。
これらに負けない魅力的なダムだったかもしれないと
資料を集めながらわくわく想像していました。

北陸電力のダム一覧です。
型式はアース1基とバットレス2基を除き全て重力式です。
後野ダムと堤高が一番近いのは小口川ですが1981年製でデザインも1960年代のダムと全く違っています。
それよりは新猪谷の方がまだ近いイメージではないかと思われます。
こう見て見るとやはり最も近いデザインは仏原であると考えました。

後野ダムのデータはあちこちで調べましたがなかなか見つけることができませんでした。
福井県内で見つけたこのデータだけが頼りです。

後野ダムを想像する時に重要なファクターになるのが
北陸電力
重力式
堤高79m
九頭竜ダムと揚水発電
の4点です。
@ですが奥越電源開発でこのエリアに建設されたダムは仏原ダムだけです。
施工、デザイン、設備は仏原ダムに採用された可能性が高いと考えました。
Aは揚水発電を行う事もあり洪水吐はクレストだけで充分であろうという発想です。
Bは仏原ダムで聞いたエピソードに由来するものです。
仏原ダムはゲートの点検・整備に使う資材が
富山県の別の北陸電力のダムと共有され、同じサイズに統一されているというのです。
使用頻度が低いものであれば各ダムで保有しなくても会社内でやり取りして使えば良いという素晴らしい発想です。
そのため、後野ダムでもクレストのラジアルゲートは9×14mが採用されたと考えました。
北陸電力と言えばラジアルゲート、テンターゲートではないんです。
萩原様「テンターゲートとラジアルゲートって違いましたっけ?」
夜雀「テンターゲートはラジアルゲートの一種で扉体の弧の半分までの位置にアームがついているのを言うんですよね
北陸電力のダムにはテンターゲートはありません。全てラジアルゲートです」※注(ページ下に補足あり)
Cどうしてクレストにローラーゲートとは考えないのかというと北陸電力はラジアルゲートが多いのです。
D石徹白川は勾配が急であり九頭竜川本川のような水量はないので川幅いっぱいにラジアルゲートが並ぶという事はないと考えました。

幻の後野ダムはこんなダムだったのではと勝手にスペックを考えてしまいました。
型式 重力式コンクリート
堤高 79.00m
堤頂長:290.00m
堤体積 350,000?
非常用洪水吐
9.200×14.384m ラジアルゲート 1門
欠瀉板 4.024×2.330m
9.200×14.384m ラジアルゲート 4門
河川維持流量放流設備
放流バルブ
形式 コーンスリーブバルブ 1台
口径 φ0.400m
夜雀「私、先ほどフィックスドコーンバルブと間違えて申し上げましたがコーンスリーブバルブです。」

合成写真も作って一人で喜んだりしています。
ふかちゃん様「これって・・畑二?」
夜雀「よ、よくわかりましたねぇっ! そうです。畑薙第二と仏原のゲートを合成して作ったんです。」
ふかちゃん様「いや、この辺りとか(天端の下)もろに中空重力式だし」
夜雀「最初は小阪部川で造ったんですけど、ほら、北電のダムってコンクリートが綺麗だから。
なかなか合わなくて困って畑薙使ったんですよ。
ただ、作った自分でも納得できないのがこの導流壁で、クレスト5門だったらもっと高いですよね。」

長々とお話してまいりましたが
今回お伝えしたかった事は
奥越電源開発は2社競願という珍しいプロセスを経ている事業であった
写真が無くても数字や限られた情報だけであれこれ想像してみるという楽しみ方もある
福井県大野市には魅力的なダムが8基もある
という3点になります。
最後になりますが

大野市にある九頭竜ダムと真名川ダムで
森と湖に親しむ旬間の全国大会、森と湖に親しむつどい2008
九頭竜湖 真那姫湖 サマーフェスタ
が開催されます。
ダム愛好家有志が結成した
九頭竜&真名川ダムを盛り上げ隊によるダムマニアブースが真名川ダム会場に登場します。
萩原様「真名川ダムではどんなイベントを用意しているんですか」
夜雀「現在企画しているのが、ダム見学のすすめ、ダムマニア秘蔵(?)写真展、都道府県代表ダム、
大野市の8ダムの紹介、ダムと呼ばれてダムでない仲間たち等の展示をする事になっています」
萩原様「この壇上にいる人はみんな参加するんですよね」
夜雀「はい。ダムマニア秘蔵写真展の方で皆さんに御協力を頂いてます」
この夏は是非、福井県大野市にお越しください。
御清聴ありがとうございました。
2008/4/29追記
※注
大堰会にお客様で来てくださったダム関係のお仕事に携わっている方が
私の主張に疑問を感じ、文献を調べて資料で間違いを教えてくださいました。
「ラジアルゲート=テンターゲート」
で間違いないそうです。
参考資料は
水門鉄管技術基準 水門扉編 社団法人水門鉄管協会発行
です。
私の場合はどこかのダムで聞いた説明を記憶していたのですが
そのご、文献などで調査していなかったためにテンターとラジアルは別の物と
ずっと認識していました。
大堰会のお客様で間違えて覚えたしまった方がいたら申し訳ありません。
ただ、それなら全部ラジアル、または全部テンターと言えばいいのにどうして
ダムによって表記が違うのかという質問には私は答えられません(汗)
多分、昔混在していた時の名残だというだけだと思いますが・・・
夜雀 拝