川上ダム 流入水バイパス取水堰 工事現場見学

2021/11/1 更新


令和3年4月に堤体打設が完成した
水資源機構の川上ダムです。

ダム本体のコンクリート打設は無事に終わりましたが
試験湛水が始まる晩秋までまだまだ工事現場は忙しく動いています。


暑くなり始めた6月に川上ダムのtwitter公式アカウントで
とても興味深い発信がありました。

川上ダムの川上川上流に設けられる
流入水バイパス取水堰の工事現場で
“粗石コンクリート打設を行いました”という吃驚の内容。

粗石コンクリート?
令和の時代に粗石コンクリート?

しかも
“粗石を配置した後に高流動コンクリートを打設するという特殊な施工を実施しました”
と、まとめられています。

写真を見る限り、ものすごく大きな石というより岩。
完全にサイクロピアンコンクリートと呼んで良いくらいの代物です。

何故サイクロピアンコンクリートを選んだのか
摩耗耐性という単語が出ているところにヒントはあるっちゃあるんですが
それでも何故、粗石コンクリート工法を採用したのかという
すっきりした答えに自分の頭の中で到達しませんでした。

◆ ◆


という事で暑さが少しだけましになった頃、川上川上流にやってきました。

ずっと横を走る県道を進んでいくと法面枠工が目に入るので
場所はすぐ分かりました。


県道から見下ろすと現場がばっちり俯瞰できます。


川上川の水が中々の水量でした。

取水堰を造る時もダム建設と同じです。
堤体を造る現場をドライにしなくてはなりませんから
水路を作って川の水を下流にパスしています。


ドライにした現場の下を通って下流に水が出ている様子です。


高流動コンクリートが使われた水叩き部分はどこなんだと探します。
いや、絶対ここじゃないのはなんとなくわかる。


作業スペースの下になっているのか
水叩き部分がさっぱりちっとも見えません。

うーむ。

◆ ◆


後日、令和3年のwith Dam Night at Home+の取材で
川上ダム建設所を訪問した際に、現場を見せて頂けることになり
わくわく現場に向かっています。

川岸に並ぶ黒しゅうまい。
フレキシブルコンテナパック。


県道からよく見えていた法面枠工です。

「あの枠工の縁が二つ、山型になっているでしょう」
「はいー。尾根があったんですね」
「その尾根のところで水路が暗渠になっているんですよ」
「!中部電力様の阿保発電所の水路ですか!」
「そうです。もちろん今は水は来ていませんけれど」
「ずっと開渠なんだと思ってました」
「いや、暗渠もあるんですよ」

「発電所、廃止する時に中部電力の方が水路内点検で
上流にあった堰からずっとヘッドタンクまで歩いた時に
水路内でオオサンショウウオ2頭見つけたって聞きました」
「2頭もいたんですか」
「つまり口を開けていたら水と一緒に上流から魚が流れてくるってことですよね」

「魚が来ないと生きていけませんからねぇ」
「お魚勝手に流れてくるコンビニ状態だったんでしょうね」

室生川に合流する滝川は赤目四十八滝と日本サンショウウオセンターが有名です。
名張上流3ダムや川上川、前深瀬川ではオオサンショウウオが普通にいます。


右岸側の法面枠工に何か文字が見えています。

「堰軸です」
「ダム軸ではなくて」
「堤高が8.0mなので」


この日も中々の水量でした。
上下流ともに水の濁りがなく
水質にとても気を使って工事が進められているのが分かります。


仮設桟橋の上です。
ダムの仮排水トンネルと同じく降雨による河川水位上昇は計算されています。
想定を上回る水位上昇があった時は現場が水浸しになってしまうのでとても悲しい。


堤体の位置はこの辺りです。
堰軸が示してくれているので分かりやすい。


型枠の中で養生されているコンクリートです。
お水ひたひた。

「ここは普通のコンクリートですね」
「はい。普通のコンクリートです」
「水叩きだけ粗石コンクリートなんですね」
「堤体には内部に色々、集水路も造らないといけなくて
構造が単純ではないので」
「あ、そりゃ、粗石コンクリートは無理ですね」


堰軸に立って見上げた右岸です。
枠工と吹きつけコンクリートの間に黒っぽく見えているところが
取水堰の接続するところです。


左岸側です。
枠工がしっかり縁取ってくれているので
堤体の形がとてもよく分かります。

「堅そうな岩ですねぇ」
「凄く硬いですよ」
「掘削大変でしたか」
「発破も使いました」
「粗石コンクリートの材料って…」
「はい。これです。現地の発生材です」
「原石山の横で粗石コンクリート状態」

川上ダムも非常に岩盤が良いのでフィレットなしの堤体になりましたし
川上川沿い、とても岩盤が堅牢なのですね。

「その粗石コンクリートの水叩きが見えません」
「すいません。見えないです」
「しゅーん」
「どのくらいの巨石入れたんですか」
「発生材の大きさは8cmくらいから100cmくらいまでありましたね」
「完全にサイクロピアンですね!」
「現場の天然石ですから摩耗耐久性能は折り紙つきですし
勿体ないのでこれ使わねば…と粗石コンクリートにすることにしたんです」
「高流動コンクリートで固められたんですよね」
「そうです」
「入れる時ってどんな感じなんですか」
「・・・。えーと。こう…ふわーっと」
「スムージーとかシェイクが積み上げられた岩の下から
もももももっと沸きあがってくるような?」

「そんな感じですwww」
「見たかったなぁぁ」

「構造が複雑だから仕方ないけどせっかくなら本体の方も
粗石コンクリートで作ってほしかったなぁ」

「高流動は発熱凄いですよ」
「あ、そうでしたね。それも考慮しなくちゃいけないですね」
「発生材の量と造る物の特性を考えて」
「無駄なく良い所を生かした結果が今回の水叩き部の粗石コンクリート工法だったと」
「そういうことですね」

という事で
きんきんの良い岩盤の建設地点で
良い材料が採れたので
その性質を効果的に発揮できる部分に
無駄なく使いましょう
という事で粗石コンクリート工法が採用された
川上ダム流入水バイパストンネル取水堰だったのでした。

御案内くださいました水資源機構川上ダム建設所の皆様
ありがとうございました。