台風一過の池原ダム

2018/9/1 更新


2018年8月下旬、台風がふたつやってきました。


先行していた19号(T1819)は九州の西側を通って大陸の方へ抜けて行きました。
予想より降雨量は少なく、宮崎県の耳川では通砂をスタンバイしていましたが
中止になったりしました。
そして次の心配は後を追ってやってきている20号(T1820)に移ります。


本体はまだ遠く離れていますが
高知県や紀伊半島には雨がやってきていた8月23日の朝です。

川の防災情報監視作業をしたいけれど
お休みではないので台風を気にしつつ仕事に行きます。

◆ ◆


帰宅しました。
着替えもそこそこにまずはPC起動。


こんなに近づいてるのにまだ奈良市には風だけで晴れ間が見えてる。
この後いきなり降雨が来るようす。


とりあえず川の防災情報はじめ各地のダムのハイドログラフを片っ端からスクリーンショット作業。
でもまず一番に取りに行ったのはでんぱつ様の池原ダムと関電様の殿山ダムです。
データ流れて行ってしまったらもう取れないリアルタイム情報。


関電様の殿山ダムです。
見事な予備放流できっちり水位を限界まで下げきり降雨を待ち受けました。

和歌山県からの要請があった時に行われる治水協力水位のEL109.6mまで
降り始めた激しい降雨を受け止めつつ、しっかり貯水位低下完了しました。


そしてこちらがでんぱつ様の池原ダム。
川の防災情報でもデータ見えるんですがつい先に開いてしまう和歌山県様の情報館。


おおおおおお。
さ、さすが池原。
大台ケ原の麓。
朝はEL304.7mだったけど3.0m近く上がってる。
まだ本体降雨きていないはずなのに。
池原のこのあたりの3.0mってものすごい量。

紀伊半島大水害の後、下流の要請に応えて
予備放流水位をEL315.8mからEL312.00mに低下することで
治水協力のための容量を3000万m3確保しています。

しかし…
そこから8.0m下がりとは相当、渇水気味だったようですね。


池原ダムの洪水吐の越流頂の標高がEL301.2mですので
EL304.7というのはゲートの下3.0mくらいでちゃぷちゃぷしていた位の水位ですね。
ローラーゲートの大きさはH16.842mでW15.000mです。

ちなみにこれは2015年11月末。大変な不幸せ水位の時の写真です。
しくしく。しくしく。

◆ ◆

今夜は川防監視作業で徹夜しようと思っていたのに
突然、職場に病休者が出て夜中に出勤することが決まり
監視作業ができないっ!
すまん星野君、後は頼んだっ!


こんな状況で出勤するの嫌や〜
お家から出たくないよぅぅ〜

とりあえず風雨にめげず出勤成功。

 ◆ ◆

お仕事がんばりました。
イレギュラーがいろいろあってへとへとになったけど。

お家にかえるんだぁ。
お家に帰ってハイドログラフ愛でるんだぁぁ。

へろへろになりつつ無事帰宅。


仕事中に台風は速度を上げて日本海に抜けていましたが
その間にまたまた桂川の守護神・水資源機構の日吉ダムが
7月8月と少雨だったために下流にせっせと利水補給してごっそりお水が減っていたのを
一晩で利水容量100%まで回復させたりしていました。
よかったー。
冬季渇水になるかと心配してたのー。

かっこいいよーっ♪日吉ー♪

ちなみに日吉ダムの既往最大の流入量はT1318の1694.0m3/sです。
今回のT1820の最大流入量は1333.1m3/sで、いきなり第二位に躍り出たという。
それまでの二位はT1411の一週間後にやってきた前線性降雨で1291.0m3/sでした。

日吉ダムが完璧なカットを決めてくれたので
そんなにすごい台風ではなかったのだろうかという印象が沸いている方も
いらっしゃるかもしれませんがT1820、とんでもない台風だったんです。

そして殿山ダムのハイドロは…


く、くやしい…
一番のピークを取れなかった…
いいもんっ 数字あればなんとかなるもんっ


ということで自力で書いたグラフ。
最大流入量3869.4m3/sに対して最大放流量は2880.6m3/sです。
治水協力に加えて一類のダムとしての操作を完璧に実行されました。


そしてこれが池原ダムvsT1820のハイドログラフになります。

よかった。
渇水気味だったからだろうけど物凄い貯留を展開してくれている。
これだけ貯め込んで
遅らせ操作して
ピークカットして
そんじょそこらのサイズのダムではできない貯め込みです。

さすが池原。
国内アーチダムで最大の貯水池っ!

◆ ◆


ハイドログラフを読んでわくわくします。

@まず8月23日未明
台風による降雨がやってきて流入量が増えてきてもひたすら貯水。
今回は“早明浦ダムあるある”みたいにゲート越流頂より水位が低くて
水位が上がるのをじーっと待っていたわけではないですので。

A13:00から少しずつ放流。

B325m3/sくらいで一定量放流。
でもこれ、ゲート放流ではない様な気がします。

予備放流の水位低下を発電で行うことになっていたはずなので。
池原発電所の最大使用水量は342.0m3/sです。
今回はそもそも水位が低いので予備放流は行わなくてもよいと思われます。

ということは河川の水位上昇を穏やかなものにしつつ発電もするということで
放流初期のステップを発電放流で代替したと考えるのが妥当ではないかと。

342.0m3/sも発電で吐けるのですから無駄がないほうがよいにきまってます。

C流入量がどんどん増えてきて20:00から21:00の間に洪水量である
1500m3/sを突破しました。

Dそれに対して23:00から00:00の間に徐々に放流量を増やし始めます。
一類のダムの証、遅らせ操作の開始です。

そして洪水量の1500m3/sには01:00から02:00の間で到達しました。
渇水気味だったからとはいえなんと5時間も遅らせています。

現行の遅らせ操作は3時間です。
もうここの遅らせ操作を見て
いつから池原ダムは洪水調節を行うダムのような一定量放流になったんですか?
と突っ込みを入れたくなるほど感動的。

  そして勘違いが横行しているのでお約束のメッセージ
   ※利水ダムは洪水調節を行えません!
   ※流域の皆様のために治水協力をしています!
   ※利水ダムの治水協力を当たり前だと思わないでください
   ※発電ダムはエネルギーを生み出すのが本来業務です

Eそして24日になり5時間も遅らせたことで
流入量のピークが過ぎて流入量が減り始めました。
最大流入量は24日01:00時点の3580.0m3/sでした。

Fということでここからはピークカットに移行です。
5時間遅らせた上にピークを半分以下に抑えています。

かっこええ〜♪
こんなこと、池原しかできないっ。
総貯水量 3憶m3超 / 有効貯水量 2億m3超の池原だからできる技っ。

Gその後も流入量よりぐっと絞った放流量で凌いでいたので
貯水位はついにEL315.0mに届くか届かないかまで上がりました。

H雨域が移動して降雨が収まったのでこの後は貯水位を見ながら
流入量に近い量を放流していく後期放流…のはずですが
24日の13:00時点で流入量と放流量が早々と同じ535.0m3/sになっていました。
その後、放流量は流入量と同じく減っていきます。

Iなので15:00から、また発電放流になっているような気がします。

まったくお水を無駄にしていません。
しかも定められた以上に貯留もして(多分、水位低かったからですが)
治水協力も実施しての完璧な操作です。

ちなみに
これはただのダム愛好家が公開情報を勝手に自己解釈で読み解いただけですので
でんぱつ様がこういう操作をしたとインタビューして聞いたわけでもなんでもないので
この読み解きは公式のものではないですよ。
◆ ◆


25日の早朝にふと目が覚めたのでデータチェックしたら
EL314.0m前後で推移していました。
大台ケ原に降り注いだ雨がどんどん貯水池に流入しているのでしょう。


ということでカメラだけ掴んで100kmほど車を走らせてやってきました池原ダム。


台風の痕跡。
駐車場を覆い尽くす葉っぱ葉っぱ葉っぱ。


お水たっぷりになりました。

ここに来るまでの間、R169沿いでは大滝ダムの直下も
大迫ダムの放流も川の水は相当の濁度でずっとどろどろでした。

途中にある発電所の付近の網場では大量の流塵が補足されていました。
しかし池原ダムの堤体に近づくにつれ、濁りがどんどんなくなってきていました。
とびきり巨大なダム湖ですから。
これから濁りが堤体のほうにも来るのかもしれません。


取水塔が半分くらい水没しています。


洪水吐は放流していないはずなのに水音がしていたのでのぞき込んだら
ローラーゲートが何か噛んだみたいでほんの少しだけ流れ出ていました。

洪水吐直下の減勢工の中に貯まった水と
その壁の上の段にたまった水
そして川の水で全く色が違います。

雨水がたまっているところは透明で
ダムから流れ出た水は薄緑。
川の水は黄土色。


朝日が昇ってきて堤体を照らし始めました。
お水満々で見ていて幸せな気分になります。
だから幸せ水位♪


水位を見なくてはと量水標を探します。


池原ダムの量水標です。

有効水深で数字が刻まれています。
池原ダムは35.0mの有効水深で
ELで表わすと35.0mがEL318.0mになります。


現在の水位は…有効水深31.2mくらいですね。
EL314.20mくらいです。

2時間前、家を出る時にチェックした水位から
大きな変化はありませんでした。

すっかり雨域が離れたというのに
発電放流に使う分と同じくらいの流入がダム湖にあるからですね。
さすが大台ケ原の麓。


電源神社にお参りしようとしたら階段もそこにたどり着くまでの道も
葉っぱと枝で埋め尽くされていました。
踏んで滑って転倒しないように注意してお参りです。


電源神社に向かう階段の途中から見下ろしたダム湖です。


池原ダムのダム湖はダム湖百選にも選ばれていますので。
天端の中央からたっぷりお水と一緒に撮りました。


いつものポイントにやってきました。

近畿地方に勢力が強い状態で直撃したT1820。
渇水気味で日吉ダムや池原ダムの水位が低かったことは幸いでした。
そして冬に向けてしっかりお水がたまった事は安心につながります。

今年も洪水期はまだ続きますが
程よい雨がコンスタントに降りますように
洪水被害ができるだけ少なくなるようにお祈りです。

ダム管理所の皆様、きめ細かな操作、お疲れ様でした。