バイザーゲートを愛でる遠足

2024/4/11 更新


朝の早くに鹿の国を出て大阪にやってきました。
なんばパークスで花を眺めたいという誘惑に負けず
ここからてくてく木津川駅まで歩きます。


てくてくしてすぐに到着しました。
南海高野線の支線(?)汐見橋線の木津川駅。

今日は「バイザーゲートを愛でる遠足」というOFF会です。

大阪が誇る変わったゲートの代表格、安治川・尻無川・木津川のバイザーゲートが
近々姿を消すことになりました。

元々、高潮対策用ゲートとして設置されたバイザーゲート三兄弟ですが
近いうちに必ずやってくる南海トラフ地震による津波に対応できるように
ローラーゲートに更新され姿を消すことが決まっています。

姿を消す前に一人でも多くのバイザーゲートのファンの人に愛でてほしい
色々な方向から愛でてほしい
でも大阪の地理に疎い人にはどこから見るとよいかの事前情報があった方が親切
遠方からお越しになる場合、一日しか時間が取れない人もいるはず
では一日でできるだけお近づきになれるコースを考案して回ってもらえるように考えよう

という事で、徒歩で9to5で回れるかどうか、何度も歩いてタイムを測り
写真撮影でどれだけ時間を食うかもあちこちのダム見学で十二分に体験しているので
時間に余裕を持った遠足のコース案を出しました。

当日は数日前から悪天候という予報であり
参加する方もキャンセルやむなしと思っていたのですが
帝都から
ダムマイスター(専門家)のみつはし様
ダム工学会のwith Dam Nightでご一緒させて頂いている磯部様
ダムファンのMARUTA様
そして
サプライズ参加で土木偏愛同志のなな爺様がお越しくださいました。


これは午前中のオプションで用意した木津川水門を全方向から眺めるコースです。

約3kmですが当日ご参加いただいた皆様、オプションツアーにも参加されました。
午後から10km歩くので分けたのですが、皆様、三兄弟全員に会いたかったのです。


木津川駅からまず向かったのは高架に設けられた自転車・歩行者道です。
上流からのビューを堪能するためにここが一番良いので。

てくてく登っていくと、ゲートの横にクレーンが。
もう工事が始まっていました。

三基のバイザーゲートで一番傷みが激しいのが木津川水門なのです。


木津川水門の表札を見るために三軒家川と木津川にはさまれた区画に進んでいきます。
三軒家水門も見えます。


工事をお知らせするイメージ図。

…。
ほー(棒読み)
アーチ爺とキヅマモルン
へー(棒読み)
尻無川はシリマモルンで安治川はアジマモルンになるのか?


そもそもアーチ爺ってなに。

爺にされてるし。
まだ半世紀と少しなのに爺になってるし。


現在の木津川水門の俯瞰図です。


この場所から少し上流に新しい水門が造られます。


木津川水門の緑の表札です。
いい色なので、三基ともこの表札は残してほしい。


隣の三軒家水門です。

管理しておられる西大阪治水事務所の施設には
同じ方が描いたのかなという高潮襲来時の説明図があるのですが。


三基ともおそろいなので安治川水門の説明図で。
この図一枚で大盛り上がりしました。
「これってゲート倒れる向き、逆じゃないんですか?」
「えっ。これで、あってますぅ」

「アーチの水門なんですよね」
「アーチ型ですがバイザーゲートです」

「木津川は川の上流側が水位高くなるんですか?」
「いえいえ、高潮の時は海側がものすごい高さになりますが川の方は元を閉めますので水位は上がりません」

「元を閉めるとは?」
「大阪市管理河川の水位って淀川大堰の横の毛馬から取り入れているんで、毛馬からのルートを閉めたら
寝屋川、第二寝屋川ルートからしか水が来ないのです。
で、寝屋川にはたくさん遊水地が設けられていてそれで貯留します。
安治川・尻無川・木津川は水位が完全にコントロールされている河川なので」


「それはわかりました。では高潮で水位が高いのになんで上流側にゲートが倒れるんですか」
「そうそう。これってアーチ効いてないですよね」
「アーチ型水門なのにアーチ効いてないってどういう事でしょう」
「あ、あ、アーチ“型”なだけです。アーチ効果ないです。バイザーゲートだからアーチっぽい形なだけですぅぅ」
「あ、やっぱりアーチ効いてないんですね」
「はい。部材の性質の方で考えて頂けたらと思います。引っ張りに強い鋼製ゲートなんで」

土木を趣味やお仕事にしている方にはアーチが効いているかどうかは大変大事な鑑賞ポイント。


高架を渡って三軒家川と木津川合流点の下流にやってきました。
渡船で対岸にわたります。


全方向から愛でられる木津川水門。
早く会いに来ないとこの姿は見られなくなってしまいます。


ここでダムマイスター(一般)のくにおはーーーーん様を対岸に確認。
わくわく渡船で対岸に移動して合流しました。


木津川左岸から至近距離で見るバイザーゲートです。


銘板発見。

木津川水門は栗本鐵工所・酒井鉄工所様の作品です。

安治川水門は日立造船様の作品。
尻無川水門は三菱重工様の作品。

この辺りでもうワイワイ楽しくお話が弾んで弾んで
予想通りの遅延発生。


遅延発生は想定内っ!!
お昼ご飯の時間を削れば大丈夫っ。
という事で木津川駅10:30の予定を11:00に遅らせました。
そもそも電車が30分に一本だから必然的にそうなる。


2駅なのですぐ到着しました汐見橋駅。
隣の大阪メトロ千日前線の桜川駅に移動して阿波座駅に移動。
あっという間。


阿波座駅に到着したらみんな見に行くのは阿波座ジャンクション。
これは止められない。
魔性の阿波座ジャンクション。


お昼ご飯は阿波座駅前のスーパーマーケット、ライフのお惣菜売り場で確保して
津波・高潮ステーションの軒下で立食。

雨がパラパラ降り始めたので軒下ランチでしたが
「このカツサンドのカツが美味しいっ!!東京と違う
というお褒めの言葉を頂き、関西人、自分のことのように喜ぶ。

天ぷらが充実していたというコメントもありました。
大阪で美味しいものをまさかのスーパーのお惣菜で体感していただけるなんて。
めっちゃ嬉しい♪

今回の遠足のコースで一番の不安がおひるごはんだったので
ライフ阿波座駅前店、ありがとう。
いや、ほんとにお惣菜お弁当コーナー充実してます。


軒下ランチを終えたら出発時間をここでも30分遅らせてしっかり資料を見て勉強のお時間。

とにかく資料が素晴らしいのでここで勉強してから現地に行くと
目にする物の一つ一つに解説が付くと思ってもらえればよいかと思います。
フィールドワークは事前学習が命。

現地でふわっとしか見ていなくて帰宅してからあそこ見ておけばよかった…と
後悔するのは悲しいので。


「ここと同じ風景をこの後尻無川の横を歩いて実物で見られますので
この防潮堤と堤内地のイメージしっかりつかんでおいてくださいねー」
と声をかける。


そして大阪府の防潮堤の整備について記された地図を発見。
これがとても重要。
後で分析するときに一番重要な地図になりました。

ジェーン台風、室戸台風、第二室戸台風の高潮で
大阪にどれだけ大きな被害があったか貴重な写真がたくさん展示されており
災害伝承碑についてのデータも充実しています。


南海電鉄のこのポスターが素敵でした。


新しいゲートの模型も展示されています。

はぁ…
あの超カッコいいバイザーゲートがこんな没個性の質実剛健だけど
キャラ立ちしにくそうな姿に…

径間から考えれば超軽量(安治川水門が約550t、尻無川水門でも約630t)の
鋼製ゲートならではの材料特性を生かしたバイザーゲートですが
新しい子は高潮だけではなく電源喪失しても閉鎖できる機構を備え
津波対応可能な堅牢さを求められています。

帝都の上平井水門は四枚のローラーゲートが並んでいて川幅は木津川の倍。
扉体寸法は、純径間30.0m 有効高11.0mなので
一枚当たりで考えるとこの新しい子と同じくらいになるのかなと思いました。

超軽量で効果抜群のバイザーゲートとは大きく設計思想が異なるわけですが
わかりやすいのはその重量かと思います。
上平井水門で見てみると、フィーレンディール桁で剛性を上げる工夫をしているのですが
扉体一枚当たりの重量は2150tにもなります。

新しい子もとんでもない重さになるような気がします。


安治川水門の詳しい模型もあるので動きだけでなく
開閉時の手順も学ぶことができます。


遅れを取り戻すために津波・高潮ステーションを定刻に出るという選択もありましたが
やっぱりここの資料をしっかり見ることはこの遠足の外せないポイントなので
12:00スタート予定を12:30スタートに遅らせてしっかり勉強していただきました。

多目的室に展示されている古文書もすごいし
T1821(平成30年21号台風)と戦った水門の動画も見られますし
フィールドワーク前にやっぱりここに来てほしい。


という事で津波・高潮ステーションから水防碑を経て
やって来たのは道頓堀川水門。

「あ、マイターゲート、動いてる」
「えっ」
「今から閘門動くみたいですよ
「おお、ラッキー♪」


という事で、多分、稼働回数で日本一どころかギネスに乗るんじゃないかという
道頓堀川水門のサブマージブルラジアルゲートとマイターゲートの組み合わせが
実際に動くところを眺めることができたのでした。


このエリアは見所が多いので、もともと時間をたっぷり取ってあったので
スケジュールに影響なし。

土木視点で面白いものが満載の川の交差点。


この日、ドーム球場に向かう人の列が途切れることなく続いていました。
阪神タイガースの試合があったようです。


橋が好きな方に人気の岩崎運河橋梁とその向こうにガスホルダー
更にその奥にドーム球場。


ここから尻無川左岸を水門まで歩きます。
この区間で見られるのが、先ほど津波・高潮ステーションで見た実物大模型と同じ風景です。


視界に高架が見えてきたら開いている防潮堤から堤内地に入り
木津川水門と同じように、川を渡るために設けられている自転車&歩行者道に移動します。


上流側から全体像を愛でます。
水門までの距離は木津川と同じくらいです。

そこから降りて左岸側を進むと尻無川水門工事殉教者の碑がまず出てきます。
その隣に表札があります。

更に左岸を下流に進んで渡船で対岸に移動します。


安治川水門を上流はR43号の歩道・自転車道から見ることができます。

「波除5」交差点の東側、高架下でスロープと階段がありますので
ここから登っていくと上流面真向のポイントにたどりつけます。

尻無川や木津川に比べてビューポイントと水門の位置が近いので
運転日に干渉するならやっぱりここが大迫力かなと思います。

「雨でガスっているんでよく見えませんしー
興味ないのでよく覚えてないんですがー
ゲートの向こうにUSJが見えるんだそうでーす」

と、役に立たないガイドをしましたところ

すかさず、なな爺様が見えているものについて解説をくださり
どの建物が何なのかが判明して嬉しい。


安治川大水門の赤い表札。
ここに来たら門扉が閉まっていても張り付いて敷地の中を覗き込んでほしいです。


バイザーゲートの形に作られた記念碑があるのでどうしてもこれを見てほしいのです。

大阪万博のテーマ

進歩と調和
progress & harmony

これを見て何を感じるかは人それぞれです。


安治川水門からどんどん歩いて安治川河底トンネルに到着しました。
この時点で16:00くらいでした。
何とか当初予定の時間通りに収まりました。

ここからすぐの西九条駅で解散です。

道中、楽しいお話がいっぱいでほんとに楽しい遠足になりました。


バイザーゲートが無くなってしまうのは純粋に悲しいです。

新しい子にもその魂は受け継がれるはずですが
でもやっぱり、この他のどこにもないカッコいい水門が
姿を消してしまうのは悲しいです。

同じ気持ちの人が今回の遠足の工程を参考に
大阪に来てくれたらうれしいです。

参加者の皆様、凄く歩いてお疲れになったと思いますが
ほんとに楽しい時間をありがとうございました。